18 手出し無用
オルフェオ兄さんが、ディンベル様に殺気を向けている。すぐに手を出さなかったのは、ここが王城の謁見室で国王陛下や大神官が居るから。それと、私がディンベル様の手の上に居るから。
「その男に手を出すな──という事か?」
オルフェオ兄さんの問にコクコクと頷くと、周りに居る人達をチラチラと見た後、私に視線を向けた。
「それじゃあ、聖女は──」
と、言いかけたところで、私は左右に首を振った。モカは何も悪くない。召喚されて私に助けを求めただけ。私が獣人だとも、従属の魔法をかけられていた事すら知らなかった。『何故私だけが?』と、少し恨んでしまったりもしたけど、モカはモカなりに私を守ろうとしてくれていただけだ。
「はぁ……はらわたが煮えくり返ってるけど、リアが望まないなら……取り敢えず我慢するよ。それで……一体誰に従属の魔法を掛けられたんだ?」
「それは、オリアナ嬢から確認済みで、私が持っている証拠と一致しています。ただ……オリアナ嬢が『自分で仕返しするから手出し無用』と……」
少し困惑した顔で話をしたのはブレイン様。会話はできないけど、紙に“コルラード”の名前と“自分で仕返し”“手出し無用”と書いた。
「私達にそれを止める権利はありませんが、相手も一応はそれなりの魔道士なので、令嬢が対応できるものなのか?と……」
ーそりゃあ、普通は無理だよねー
そのメモを見た時、ディンベル様にも心配された。
「あぁ、それなら心配は不要だ。俺達の母親がモモンガで、母は普通のモモンガだったけど、リアはモモンガだけど実力は虎の俺達並みどころか、本気を出したら上かもしれないからね」
ーえ?それは盛り過ぎじゃない?私が兄さん達に勝てるわけがないー
「リアは魔力持ちで、魔法も少し扱えるから、ある程度は魔法での対応もできるんだ」
そう。獣人の魔力持ちは珍しい。クレマチス家でも、魔力持ちは私だけ。魔法での攻撃は苦手だから、防御で使う事の方が多い。だから、その分だけ兄さん達より有利なだけ。
「そうなんですね……でも、一応、念の為に、何かあった時にすぐ対処できるように、オリアナ嬢が仕返しをする時は、私も傍に控えさせていただきます」
「分かった。でも、そいつが万が一にでも、またリアに傷でも付けたら、俺達は黙ってないから。それぐらいは許されるよね?」
「勿論だ……」
と答えたのは、国王陛下だった。
兄さん達がキレると、コルラードだけで済まない可能性は十分ある。私も怪我をするつもりも傷を負うつもりもないけど、気をつけないとね。
残る問題は──
「後は、どうして人の姿に戻れないのか──ですが、女神の意思による召喚で来たので、何らかの影響を受けているのかもしれません。召喚された聖女モカ様が“お助けキャラ”という者を望んでいたので、その影響を──」
「その聖女のせいでというなら、今すぐ聖女に、女神にリアを解放しろと願ってもらう」
その言葉に焦ったのは大神官。
「聖女様に……女神に?それは……」
「聖女様やパルテンツァ女神とやらは、獣人の娘を蔑ろにするような者なのか?ああ、だから、かつてオリフェン神は、大陸から孤立した国を創ってくれたんだったな」
ーオルフェオ兄さんが毒舌過ぎるー
ヒラッと飛んで、オルフェオ兄さんの腕に飛び移って、そのまま腕にキュッとしがみついて、腕をポンポンと叩く。
「本当に、リアは優しくて可愛いね。その聖女の事は気に入ってるんだね?」
コクコク
「でも、リアが本当は獣人だという事は伝えた方が良いと思う。そうすれば、人の姿に戻れて、より聖女と仲良くなれて守れるだろうから。それに何よりも、成人した獣人が何ヶ月も獣のままというのも良くないから。それが一番心配なんだ」
確かに。幼少期の不安定な頃ならよくある事だけど、成人してから数ヶ月も獣のままでいる事は滅多にない。実感として、理性より本能的に行動する事が増えているような気がしなくもない。
「すみません。そこまでの考えには至っていませんでした。聖女モカ様にも事情を説明しましょう」
大神官様がそう言うと、国王陛下も頷き、この場にモカを呼ぶ事になり、モカが来る迄の間は休憩時間となった。
「オリアナ、少し痩せたようだけど大丈夫?」
と、私に声を掛けて来たのはエリゼオ。兄さん達と同じ年で、小さい頃から私の事を可愛がってくれている“3人目のお兄さん”だ。兄さん達より一回り小さい犬の獣人。小さいと言っても、普通の犬よりはデカい。
『大丈夫!元気だよ!』と分かってもらうように、ガッツポーズをする。
「くっ……オリアナは相変わらず可愛いね!」
「リア、そんな可愛い姿をエリゼオに披露しなくてもいいから」
と、何故かリナルド兄さんに怒られた。




