16 解放
従属の魔法が解けるかもしれない──
100%の期待はしない。でも、可能性があるなら、痛みが出ても頑張って試してみる価値はある。痛みが出たら、ブレイン様が助けてくれるかもしれない。
ブレイン=ストラータ
王城付きの魔道士。多分、コルラードよりも上……上級魔道士だと思う。コルラードなんかよりも、纏っている魔力がレベル違い。
ーオリアナを、紙に書けばいいよねー
そう思いながら、グイッとペンを持ち上げると、ディンベル様が紙を用意してくれた。
ー本当に、ディンベル様は優しいなー
ジッとディンベル様の顔を見つめる。
今にしてようやく気付いた事だけど、私はいろいろと限界がきていたようだ。
モカを助けてあげたい──と思う一方で、誰も私を助けてくれないのに、何故私がモカを助けないといけないのか。
どうして、私だけが理不尽な扱いをされないといけないのか。
ただ、家に帰りたい。兄さん達に会いたいだけなのに。
自分が病んでいた事に気付いていなかった。
でも、久しぶりにディンベル様の声を聞いたら嬉しくなって、顔を見たら悲しくなって……無意識のうちにディンベル様に駆け寄って、手にしがみつくと、やっぱりそこは安心できる場所で、そのまま寝てしまっていた。
いつもなら、起きると寝床だったけど、起きてもディンベル様の手の中だった。
そこからは、本当に驚きの連続だった。
私が獣人だと知られても、ディンベル様は優しいままだったし、寧ろ謝罪までされた。
そして、ブレイン様が従属の魔法を解いてくれるかもしれない。そして、何よりも、明日になれば兄さん達に会える。
ーよし!名前を書くぞ!ー
と意気込んで名前を書き始めようとすると、やっぱり体がピリピリと痛くなり始めた。
『ギー……』
「どうした?」
痛みで震える体でも名前を書き進める。
“オ”
“リ”
『──っ!!』
名前を書き進めるにつれて、どんどん痛みが増してくる。きっと、コルラードに掛けられている魔法のせいだ。
「ひょっとして、何らかの制約の魔法も掛けられてる?それなら質が悪いな……名前を書き進めるともっと痛みが出て来るから……オリ……“オリヴィア”?“オリーブ”?」
ー違うー
ブレイン様は色々と気付いてくれたようで、“オ”“リ”から連想する名前を挙げ始めた。
「“オリアナ”?」
『!!!!』
コクコクと頷く。
「分かった!よく頑張ったね。もう……大丈夫だ!」
と言うと、ブレイン様は何かの魔法を詠唱し始めた。すると、足下に魔法陣が現れて、少しずつ上へと動き始めた。ゆっくりゆっくり、私の体を縦断するように動いていく。それが移動していくにつれて、痛みが和らいでいく。そして、頭を過ぎて体から離れると、その魔法陣は小さくなって、最後には小さなビー玉サイズの玉になって、ブレイン様の手の中に収まった。
「この玉を解析すると、どんな魔法が掛けられていたのか、誰の魔力なのかが分かるから証拠になる。君に掛けられた魔法は解けたから、君は自由だ。人の姿に戻れる?」
『…………』
フルフルと顔を横に振る。従属の魔法を掛けられる前から、人の姿になる事ができなかった。今も戻れる気配がない。
「それは追々調べるとして……改めて確認するけど、君は、アルミリオンの南の辺境伯の関係者?」
コクコク───
「やっぱり!!ディンベルさん、どうしますか!?本当にヤバいですよね!?」
「そうだな……まずは俺からだろうな……」
何故召喚されてしまったのか?は分からないけど、私を捕らえたのはディンベル様。確かに、捕まえられた時は恐ろしく感じたし、家に帰れなくなって恨んだりもしたけど、私を助けてくれたのもディンベル様だ。
机の上にあるディンベル様の手をポンポンと叩く。
「ん?慰めてくれるのか?ありがとう」
『キュッ!』
ーそんなイケボで囁かないで欲しい!ー
今だけは、モモンガの姿で良かったと思う。人の姿だと、絶対に顔が真っ赤になっている。なんなら、腰を抜かしてしまっていたかもしれない。
『……』
ペシペシッと両手で両頬を叩いて、気持ちを切り替える。
兄さん達に会ったら、真っ先にディンベル様の事を伝えて、コルラードにも手を出さないでとお願いをする。
ーコルラードは、私の手でしっかりとお礼をさせてもらうからー
「ディンベルさん、このモモンガ、本当に可愛いですね。ペシペシと頬を叩いてからの握りこぶし……少し癒やされました」
「そうだな……」
という、ディンベル様とブレイン様の会話は、私の耳には入っていなかった。
翌日の早朝
あれから、私はモモンガ姿のままディンベル様の執務室の奥の部屋にあるベッドサイドに用意された籠の寝床で一晩を過ごした。
そして、朝早くにディンベル様に起こされて向かった先は、謁見室だった。
その謁見室の扉の前にブレイン様が居て、軽く挨拶を交わしてから、3人一緒に謁見室に入った。




