15 転機
*引き続き、ディンベル視点となります*
取り敢えずは──という事で、ブレインは国王陛下の謁見の許可を取りに行った。
その間、俺ができる事は特にないから、マヒナを持ったままブレインが戻って来るのを待つ事にした。
「……」
ただのプラチナ種のモモンガだと思っていた。あの召喚の場に、ただただ迷い込んだ獣だと。だから、モカ様の願い通り鷲掴みにして捕らえた。メスだとも分かっていた。
それが、まさかの獣人。女の子だという事だ。見た目だけで判断はできないが、多分、若い子だろう。
小動物に嫌われる俺が平気だったのも、獣人だったからだ。とはいえ、よくこんな小さな体で、俺の空気に耐えられたな──と思う。
ーそれにしても、やっぱり可愛いなー
俺の指にしがみついて、安心しきって寝ている姿は、可愛い以外の何ものでもない。
ー人の姿は、どんな姿をしているんだ?ー
やっぱり、毛並みと同じ銀色なんだろうか?瞳の色は黒色なんだろうか?人の姿になっても、俺を怖がったりしないのだろうか?
いろいろと考えていると、手の中のマヒナがもぞもぞと動き出し、ゆっくりと目が開いた。
「起きたか?」
『……』
問い掛けに返事をする事はなく、何度かパチパチと瞬きをしてから、しがみついている俺の指にスリスリと頬を擦り付けた後、ようやく俺の方へと視線を向けて───
『───っ!!??』
ようやく、俺の存在に気付いたようだ。確かに、その慌て具合が普通のモモンガではないような気がする。
“何故、ディンベル様が居るの!?”
“ここは何処なの!?”
といったところか。
「お前が、俺の指にしがみついて寝てしまったから、モカ様がこのまま預かって欲しいと言われて、このまま俺の執務室に連れて来たんだ。モカ様の許可は取ってあるから大丈夫だ」
『っ!?』
マヒナが、『大丈夫』の言葉に反応した後、俺に視線を向けたままパチパチと瞬きをした。
ー本当に可愛いな!ー
「詳しい事はまだ分からないが……マヒナ、お前は本当は獣人なのか?」
ビクッと体を震わせた後、マヒナはそのまま固まってしまった。それは、意思疎通ができないだけで、俺の言葉をちゃんと理解できていて、マヒナが獣人だという事だ。
「それと、質の悪い魔法をかけられているんだろう?」
『……ギー…………』
この質問にはイマイチな反応。
「俺には全く分からないけど、その魔法を解くのに、お前の真名が必要なんだそうだ」
『っ!?』
大きく反応するという事は、やっぱり従属の魔法がかけられている事を分かっている。
「どうやって名前を知るか……モカ様に頼むのが一番だろうが、念の為モカ様には内密に事を進める事にしたんだ」
と言うと、マヒナはコクコクと首を縦に振った。
ー本当に、獣人だったのかー
「家族と離されて辛かっただろう?俺が捕まえてしまったから……すまなかった」
謝罪しながら頭を撫でると、いつもは気持ちよさそうに目を細めるだけなのに、今は目を閉じて俺の指にしがみついて尻尾を巻き付けていて、その姿が何となく痛々しく見えた。
******
「初めまして……王城付きの魔道士ブレイン=ストラータです。訓練の時に、遠くからは見た事はあったけど……まさか獣人だったとは……本当に申し訳ありませんでした!!」
ブレインが、国王陛下との謁見を終えて戻って来たのは、夕食の時間の少し前だった。
そして、戻って来て早々にマヒナに挨拶をしてからの謝罪だった。
マヒナは、そんなブレインの足もとに歩み寄った後、ポンポンとブレインの足を軽く叩いた。
「もしかして、気遣ってくれてます?うう……可愛い!!ありがとうございます!」
そう言いながら、ブレインがマヒナを持ち上げて手のひらに乗せた──のが、何となく気に食わない。
「それでは、意思疎通は無理でも、僕達の言葉は理解できているようなので、今の状況を説明しますね」
と、ブレインが話した内容は──
まず、聖女モカには秘密裏に、マヒナの魔法を解く。
その間、聖女モカの周辺を探って、禁忌の魔法を使った者を見付ける。
「それと、今回派遣されてきた獣人の騎士に、アルミリオン王国の南の辺境伯のご子息が居るんですけど、そのご子息と関係があったりしますか?」
『アンアン………アンアン……』
「ああ……やっぱり関係があるんですね……」
そのマヒナの鳴き声は、初めて聞く鳴き声だった。
「すぐに会わせてあげたいところだけど、今日はもう探し物をしに城外に出てしまっていて、帰って来るのは早くても明日の早朝になるそうなんです」
なんでも、今日に限って遠方にまで足を伸ばすと言って出て行ってしまったらしい。
「なので、そのご子息が帰って来る迄に、何とか魔法を解こうかと……うーん……どうやって真名を教えてもらうか……」
すると、マヒナが部屋をキョロキョロと見回した後、ブレインの手の平から部屋の中心にあるテーブルへと飛び移った。そして、テーブルの上にあるペンを両手で持ち上げた。




