14 可愛いモモンガ
*ディンベル=グランジオール視点*
俺の足に飛びついて登って来るマヒナ。そのまま手の平までやって来て、俺の顔をジッと見つめて来る目は真っ黒だ。
「お前……少し痩せたか?」
以前見た時は、銀色の毛並みがキラキラしていたが、少しくすんでいるように見えるのは、気のせいだろうか?
「痩せたように見えますか?」
「気のせいかもしれないが……」
と言いながら、マヒナの頭を撫でてやると、俺の指にキュッとしがみついて目を閉じた。
指にしがみつくマヒナ。尻尾も指に巻き付いている。
「マヒナは、グランジオールさんの事が好きなんですね。私の手の中で寝た事なんてないのに……」
それは知らなかった。マヒナは、俺の手の中に収まるとすぐ寝てしまうから、誰の手の中ででも寝るものだと思っていた。それが本当なら、より一層可愛く見える。
「とにかく、指から離そうとすると起きるかもしれないから、今日はそのまま預かってもらっても良いですか?」
「それは構わないが……」
「それじゃあ、お願いします」
それ以上断る理由も遠慮する理由もないから、俺はそのままマヒナを持ったまま、王城にある騎士団の執務室へと向かった。
******
「お疲れ様です」
「ブレイン、どうしてここに?」
「久し振りに飲みに……って、モモンガ!え!?ひょっとして、聖女様のモモンガですか!?ディンベルさんの手の中で寝てるんですか!?」
「そうだ……」
「えー……このモモンガ、強者ですね」
ブレイン=ストラータ
王城付きの上級魔道士で、召喚されて来たライオネルの指導をしている。俺より3つ年下だが、学生時代からの先輩後輩の付き合いがあり、気心も知れている仲だ。
「……って……あれ?このモモンガ……」
笑っていたブレインが、マヒナを見つめたまま眉間に皺を寄せて黙り込んだ。
「ディンベルさん、この子、獣人じゃないですか?」
「は?」
手の中のマヒナを見る。
あの召喚の場で見つけて捕らえてから今まで、モモンガ以外の姿になったところを見た事がない。聖女様からも獣人だと聞いた事もない。
「誰もそんな事は言ってなかった」
「人間からしたら、ただの獣なのか獣人なのかは分かりませんからね」
「なら、どうしてそう思ったんだ?」
「この子から、僅かに魔力を感じるんですよ。ただの獣なら、魔力は無いのに」
「もしそれが本当なら……大問題じゃないか?」
「……ですね……」
大問題どころじゃない。国際問題にもなりえる。獣人を勝手に召喚して捕まえて、ペットとして扱っているのだから。
「でも、どうして人の姿に戻らないんだ?何故聖女様に言わなかったんだ?」
俺達と会話はできなくても、聖女様とは意思疎通ができるのだから、助けを求められたはず。
「何らかの影響で、人の姿に戻れなかった可能性はありますね。それと、獣人だと言えなかったのではなく、言わなかったのかもしれません」
ああ、そうか。人間に奴隷として売買されていた歴史があったから、そう簡単に告げられなかったのか。
「それに……何となく嫌な感じがあるというか……少し触ってもいいですか?」
「ああ、ぐっすり寝ているから大丈夫だろう」
ここまでぐっすり寝ている時は、多少撫でても目を覚ます事はない。
そうして、ブレインはマヒナの体に微量の魔力を流しながら撫で始めた。
「これは……本当にヤバいかもしれません」
暫く撫で回した後、ブレインの顔色がより一層悪いものになった。
「もう、この子は獣人確定です。魔力を持っているというのもそうですけど、この子には“従属の魔法”がかけられてます」
「従属の魔法!?」
それは、今では禁止とされている魔法で、殆ど廃れてしまった魔法の1つでもあるから、そう簡単に扱える魔法ではない。
「従属の魔法は、獣人にしか作用しないから、この魔法をかけた奴は、この子が獣人だと知っていてかけたという事です。重大な犯罪です。今すぐに解かないと……」
おそらく、マヒナの主は聖女モカ様だ。でも、モカ様が従属の魔法を知っている筈はないし、扱える筈もない。従属の魔法がかけられている事も知らないかもしれない。知っていたら、自分から離れたり、マヒナを俺に預ける事はしなかっただろう。
「かけた本人じゃなくても解けるのか?」
「“マヒナ”は、聖女様が付けた名前でしょう?でも、この子が獣人なら真名があるはず。真名で交わされていない魔法なら、真名さえわかれば僕なら何とかできるかもしれません」
流石は上級魔道士。俺も魔力持ちではあるが、魔法の才はサッパリで、何の迷いもなく剣を振るう事にした。
「とにかく、今すぐに国王陛下に報せを──って……まさか……」
ブレインの顔色が更に悪くなり、死人のように真っ青を通り越して真っ白になる。
「これは、秘密扱いなんですけど……今回派遣されて来た獣人の騎士が居ますよね」
「ああ。獣人王国の中でも、武力に特化した辺境地の騎士が来てくれていると……」
「実は、その騎士の中に辺境伯のご子息も居るんですけど……なんでも、探し物をしているそうなんです」
「探し物……」
「もし、その探し物が……この子だとしたら……」
「…………」
大問題、ヤバいどころじゃないだろう




