13 噂話
部屋に篭り続けて3日目。
モカが訓練で部屋に居ない間に、3人のメイドが部屋の掃除をしている。
「ねえ、モカ様の話聞いた?本当だと思う?」
「あれが本当なら、可愛らしい顔をしてるのに怖いわよね」
「どんな話なの?」
「え?知らないの!?今、この話で持ちきりで───」
と、そのメイドが話した内容には驚いた。
聖女モカが、専属護衛の聖騎士ルーベン=トリスタンに恋心を抱いていて、婚約者のジェンナ=カサンドラに影で嫌がらせをしている。
聖騎士ルーベン=トリスタンが休みの日も、王城に呼びつけている。
同郷のハルキとライオネルも侍らせて楽しんでいる。
魔道士を味方につけて、いろいろと怪しい魔術を使っている。
あり得ない話だ。
モカはルーベン様に恋心なんて一切抱いていない。寧ろ、物理的にも距離を取っていて、2人きりになった事なんてない。
ハルキとライオネルに対してもそうだ。3人は3人ともが“親友”や“兄妹”のような感情しかない。恋愛感情の“れ”の字も見当たらない。それに、モカがハルキとライオネルを侍らして楽しむ──なんてできるわけがない。ハルキとライオネルは一見爽やか青年だけど、結構腹ぐ──計算高いところがある。誰かに手の平の上で転がされるような人じゃない。
「それでね、この前、神殿で聖女様達が集まった時にジェンナ様も居たらしいんだけど、ルーベン様に相手をされなかったって。それも、モカ様が邪魔をしたからだって、ジェンナ様本人が泣きながら言ってたらしいわよ」
「えーそれが本当なら怖いわね。私達にはいつもニコニコ笑ってるけど、本性がソレなら最悪な女ね」
『チッチッチッ……』
話の出処が、まさかのルーベン様の婚約者のジェンナ様。そりゃあ、泣きながら訴えられたら、よく知らない人からすれば信じてしまうだろう。
そういえば、神殿でのモカはいつもより疲れているような感じがあった。ひょっとしたら、そういう噂話がモカ本人の耳にも入っているのかもしれない。モカの斜め上な思考だとばかり思っていたけど、そうじゃなかった。私が本当に“お助けキャラ”だというなら、ここで人の姿に戻って噂を一蹴する事ができるのに。
ー本当に、私は何の為にここに居るんだろう?ー
「あ、それと、知ってる?あの獣人達の事」
「獣人?あ、双子の獣人の事?」
「そうそう!訓練は午前中だけの参加で、午後からは城外に出て夕方近くまで帰って来ないらしいわ」
「そうなの?訓練もせず遊びに行ってるの?最低じゃない」
『…………』
「探し物をしているらしいんだけど、何の探し物?って感じよね」
ー兄さんー
「あー……もう、聖女様の担当になってラッキーと思ってたけど、ちょっと考えものよね」
「ま、お金がもらえるんだから、私達は与えられた仕事だけしておけば良いのよ」
「それもそうね。はい、これで掃除は終わり。次に行こう」
そう言って、3人のメイドが部屋から出て行った。
ーやっぱり、兄さん達が来てるんだー
どうやったら、この部屋から出られるのか。何度か試してみたけど、部屋から出ようとすると体が痛くなって歩く事もできなかった。従属の魔法さえなければ、兄さん達の所に走って行くのに。
『帰りたい……』
******
「モカ様、お疲れ様でした。これからどうしますか?」
「あ、今日は部屋に戻ります」
「それでは、部屋まで送ります」
そう言って、俺─ディンベル=グランジオール─は、聖女モカ様を部屋まで送る事にした。
ここ数日、聖女付きの護衛ルーベン=トリスタンの代わりに、俺が護衛についている。
その理由は、ここ最近一気に広まった噂のせいだ。
“聖女モカがルーベン=トリスタンに恋心を抱き、婚約者のジェンナ=カサンドラを虐めている”
聖女モカ様の近くに居る者からすれば、あり得ない話だとすぐ分かるのに、そうではない者達からすると、面白い話が真実だとして受け入れられてしまう。いくら噂話を否定しても、その噂話が収まる事がなく、ルーベン=トリスタンを護衛から外す事になった──のだが、これがまた『噂は本当だったのか』と言う意味に捉えられてしまったようだった。何とも馬鹿げた話だ。
「送っていただいて、ありがとうございました」
部屋に着くと、軽く頭を下げて礼を言う聖女。身分的には俺よりも上なのに、相変わらず低姿勢の聖女モカ。聖女モカが自ら扉を開けて部屋に入ろうとすると、そこからモモンガがひょこっと顔を出した。
ー可愛いなー
プラチナモモンガの“マヒナ”で、聖女モカ様の“お助けキャラ”とか言うペットだ。俺は小動物には嫌われる事が多いが、このマヒナは俺には懐いている。俺の手の中で寝たりもするのだから、可愛くて仕方ない。
そういえば、ここ最近は姿を見ていなかった。
「マヒナ」
『っ!!』
と呼べば、マヒナが俺の足に飛び付いて登って来る。
ー可愛すぎないか!?ー




