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乙女ゲームのヒロインに転生したけど、攻略対象から逃げていたらモブに助けられました  作者: 春樹凜


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4/20

4.◯二度あることは三度、四度……?



 ジナーンとの接触もなんとか回避した私だったけど、その後も変わらず危機は続くもので。


 その日の放課後、気を取り直して校内の図書室へ向かった時のことだ。


 本棚から宿題をするのに役に立ちそうな資料を探し、やがて目当ての本を見つけた私は棚からそれを取り出す。

 その瞬間だった。

 いきなり空いた隙間から、ぬっと腕が伸びてきた。


「へっ!?」


 なに、お化け!?

 しかも私以上に真っ白なその腕は、驚くべき早さでがっと私の腕を掴んできた。


「ぎょぇっ!?」


 驚きすぎて喉の奥からひっくり返ったカエルみたいな声を出してしまったら、腕の先に見覚えのある眼鏡が見えた。


「おや、アリアナ。奇遇ですね」

「ひっ!? メ、メガーネ様……」


 なんで本棚の隙間から!?

 ていうか、本抜いた瞬間に腕伸びてくるとか怖すぎる。

 もしかして私がここの本抜くって分かっててスタンバってたの?

 むしろお化けなんかよりメガーネの方がよっぽど怖いんだけど!


 そして気づく。

 そういえばこれ、ゲームで見た覚えがある。

 確か、このまま一緒にお茶を飲もうかと誘われる流れだ。

 つまり――メガーネの強制イベント!

 そして彼は、予想通り私をお茶に誘ってきた。


 どうしよう、行きたくないし、飲みたくない。

 だって百パーセントの確率で中に何か良からぬものが入ってるから。


 けど、ここ図書室でも一番奥で人気がないから声出しても助けは来なさそうだし、腕をしっかり掴まれているから逃げられない。

 それなら、いったんは彼のお誘いを受けるという返事をして、ここから出たら他の二人の時のように全力ダッシュで逃げるっていうのが一番いい気がする。


 大丈夫、メガーネはいつも研究室にこもってて運動は苦手だから、私の足でも十分逃げられる勝機はある!

 よし、と腹を括って、彼に返事をしようとした時だった。


 ガタンッ!


 何の前触れもなく、いきなり私の隣の本棚が大きく揺れた。

 なに、第二の刺客、それとも本物のお化け!?


「……っ!?」


 大きな音にメガーネがびくっとして、反射的に揺れた方を見る。 


 そういえばメガーネ、ホラー系ダメだったような。

 唐突にガタンっと動いた棚を見つめる彼の瞳には、恐怖の色が宿っている。


 そんなメガーネを確認しつつ私も恐る恐る隣を見ると……いつの間にかカインさんがいた。


「あれ?」


 しかも彼は、なぜか重そうな本棚に手をかけていた。

 この状況から察するに、どうもカインさんがこの棚を動かしていたらしかった。


「あ、あの……」


 なぜに棚を?

 私が理由を尋ねようと口を開くけど、その前にカインさんはもう一度棚を揺らしはじめる。

 そうすると、メガーネはまたまた驚き、小さな悲鳴を上げながら私の腕から手を離す。

 

 私はその隙に本棚から距離を取った。

 と、同時に。


「こっちに」

「あ、あのっ、えっ」


 私はカインさんに手を引かれ、メガーネがこっち側に回ってくる前に図書室から連れ出された。

 廊下へと出てもまだ走り続け、図書室からかなり離れたところに辿り着いた時に、私はようやく足を止めてくれたカインさんに尋ねる。


「カ、カインさん……、さっき、棚揺らしてました、よね……?」


 するとカインさんは、びっくりするくらいに爽やかな声で言った。


「ああ、風が吹いたせいで棚が揺れてましたね」

「風なんて吹いてませんでしたよね!?」


 何その誤魔化し方!

 だって私さっきこの目ではっきり見たから。

 カインさんが自分の手でしっかりと揺らしていたの。


 しっかりと助けてもらったお礼は述べつつ、そう指摘したら、カインさんは観念したように頬を掻いた後、少しだけ顔を逸らす。


「直接注意しても、子爵家の俺のいうことは聞かなさそうだったんで。んで、あの人ホラー系に弱いって噂を聞いたことがあったから、驚かせたらあなたから手を離すかなと」


 メガーネが実はビビリだって話は、本人も隠したがってる秘密なのだ。

 私はゲームキャラプロフィールに書いてたから知ってたんだけど、まさかそんな噂が流れてたとは……。


 でも、とにかく助かった。

 私は救世主のカインさんにもう一度お礼を言うと、深く頭を下げたのだった。




 さらに数日後の放課後。

 私は、花壇のお花にせっせと水やりをしていた。

 

 本当はさっさと帰りたかったんだけど、私は今日日直なので仕方がない。

 とにもかくにも、彼らに見つかる前にさっさと終わらせようと大急ぎで水やりを済ませた私が、家に帰ろうと花壇脇に置いたカバンを手に取った時だった。


「アリアナ」

「びゃぁ!? キ、キッシ様……」


 茂みから突然、ガサッと音がしたかと思うと、大柄な男子生徒がぬっと目の前に現れた。

 いやいやいや、それ完全にホラー映画の出方だから! 

 しかも場所は校舎裏の薄暗い場所。

 思い返すと、この人ゲームでも現実でも、毎回ジメッとした人気のないところにいるんだけど。


 そんな中で満面の笑みを浮かべて私を見つめてくるキッシは、白い歯を見せながら場違いなほどに爽やかに笑う。


「ようアリアナ! 花の水やりしてたんだ。偉いな」

「え、ええ、偉くはないですよ……? 日直の仕事をこなしていただけなので」

「そっか。ところで、もう用事終わったんだよな? ならこれから俺とちょっと遊ばないか?」

「無理です。今日は宿題が多いので早く帰らないと」

「大丈夫だって、すぐ終わるから。な?」


 いや何が。

 終わるって私の人生のこと?


「そんなに怯えなくていいって。ただ、アリアナと二人きりでゆっくり話したいだけなんだ」


 そう言って、キッシはじり、と一歩距離を詰めてくる。

 その背後には、人気のない奥へ続く細い道。

 やだやだやだ、絶対あっちに連れていく気でしょう!?

 ゲームでもこの人、こうやって誰もいない場所に誘い込んで、そのまま逃がしてくれなくなるんだから!


 しかし、これは困った。

 キッシは四人の中でも足が猛烈に速い。

 私が逃げたって簡単に追いつかれてしまう。

 そして捕まったら……考えるだけで身震いが止まらない。


 しかし、逃げないわけにはいかない。

 伸ばされた手が、私の手首を掴もうとする。

 それを見ながら、私が大急ぎで逃げ出そうと足を後ろに一歩下げた、その刹那――。


 ――ガンッ!


 突然、少し離れた茂みの向こうで、何か硬いものがぶつかる大きな音が響いた。  

 びくっとして目を向ければ、花壇のそばに置かれていた空のじょうろが地面に転がっている。  

 しかも、その奥の茂みが不自然に揺れていた。


 案の定、キッシはぴたりと動きを止め、鋭い目で音のした方を睨んだ。  

 その顔には、さっきまでの爽やかな笑みはもうない。


「おい、誰かいるのか?」


 低く呟くと、キッシは私から視線を外し、警戒した様子でじょうろの転がった方へ駆けていく。  


 そして、キッシが完全に私から背を向けた瞬間、キッシが向かった方向とは反対側の茂みの陰から、なぜかすっとカインさんが現れた。


「こっちです」


 いつの間にか私のすぐそばまで来ていた彼は、私の手を掴むと、そのまま迷いなく駆け出す。


「え、あ、カインさん……!?」

「今のうちに」


 そのまま彼は私の手をしっかり引き、風のような速さで走った。

 ちなみにキッシはまだ茂みの向こうで、


「おい、隠れてないで出てこい!」


 と叫んでいて、私の逃亡には気づいていないようだった。


 カインさんはキッシの足の速さを警戒しているのか、かなり裏庭から離れた場所に着いたところでようやく足を止め、私から手を放してくれた。


「あ、りがとう、はぁっ、ございます……」

「いえ、ふぅっ、たまたま、アリアナさんが、キッシ様に迫られてるのが、はぁっ、見えたんで」


 メガーネから逃げた時よりも長時間走ったためか、二人とも息切れしながら言葉を交わす。


 どうやら、さっきの音を立てたのはカインさんだったようだ。

 わざと石か何かを投げてじょうろを倒し、さらに茂みを揺らして、誰かが覗いているように見せかけたのだ。  

 そしてキッシの注意がそちらへ向いた隙に、反対側から私を連れ出してくれたらしい。


 本当に、私はカインさんに助けてもらってばかりだ。

 一体何回命を救われたことか。


 だけど、こんなに立て続けにカインさんに助けられると、さすがに違和感を覚えるのも事実で。


 助け方がスマートすぎるし、反応が早いし、なんというか――まるで私が四人に絡まれるのを知っているかのような。

 

 なんかカインさんって、もしかして普通じゃなくない?

 本当にカインさんってただの地味な子爵家の三男なの?

 

 でも、ゲームにこんな子いたっけ? 

 一応四人ともクリアしたけど、カインさんみたいなキャラクターはいなかったような……。

 もしくはハーレムエンドでもクリアしたら出てきた、とか?


 私は、内心小さく首を傾げる。

 ヤンデレ四天王から助けてくれるカインさんは、悪い人には見えない。

 それでも胸の奥がほんの少しだけざわつく。

 けど、考えても答えは出ない。


 それに、


「カインさん、ありがとうございました!」


 と言ったら、毎回ほんの一瞬だけ嬉しそうに目を細める顔が、変な鼓動の高鳴りを残す。

 なんだろうこれ、前世でもわずかに覚えのあるこの感じは……。

 一瞬答え的なものが浮かびかけたけど、すぐに、気のせいだと自分に言い聞かせ、軽く頭を振る。

 

 よし、深く掘り下げるのはやめよう。

 命が助かったんだから、それで十分じゃないか。


 とりあえず今日は考えるのはやめたと、また助けてくれたカインさんにお礼を言って、私は帰宅の途についたのだった。



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