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乙女ゲームのヒロインに転生したけど、攻略対象から逃げていたらモブに助けられました  作者: 春樹凜


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2/20

2.●平穏に生きたいモブ男子

●→カイン視点


 俺の名前はカイン・ノーランド。

 貴族の末席に名前を連ねている、ノーランド子爵家の三男だ。

 

 ついでに前世の記憶持ちだ。

 以前の俺は地味で、運動も勉強も平均点の、どこにでもいる凡庸な大学生だった。


 そんな俺には、妹が一人いた。

 年齢は四つ下で、明るくて、感情がすぐ顔に出るタイプ。

 そして――重度の乙女ゲームオタクだった。


 元々俺はゲームにすら大して興味がなかったが、妹は新作乙女ゲームが出るたびに、報告と実況をしてくる。

 俺が部屋で勉強していても、昼寝していても、容赦なく語り始めるほどだ。

 友達にでも話せよと言ったんだが、あんまり喋りすぎるとうざがられるじゃんと真顔で返された。

 俺ならいいのかよ……。

 まあ、別に聞くだけならしてやるけどさ。


 中でもある乙女ゲームは、他のやつに比べてえらく説明にも熱が入ってた。


『ねぇ聞いてよ!  このオージさ、ハッピーエンドがストーカーなんだよ!?』

『何もハッピーじゃないな』

『ジナーン笑顔なのにねっちょりしてて怖すぎ』

『怖いって……乙女ゲームなんだよな、それ』

『メガネの子は剥製にしてくるの』

『ヤバい奴じゃん』

『騎士団長の息子は監禁するんだよ!?』

『いや、もうヤバ以下略』

『これ全年齢! 全年齢なのに!』

『ってか、そんなに言うならしなきゃいいだろう?』

『だって、ここまでヤバいゲーム逆に気になるじゃん』

『知らん!』

『よし、こうなったら絶対に全部クリアするんだから!』

『……まあ、頑張れ』


 あまりにもうるさいので苦情を言ったこともある。

 だが妹は聞く耳を持たない。


『だってお兄しか聞いてくれないんだもん〜!』

『もん〜じゃないよ! そんな話聞きたくない……』


 そう言っても、妹は嬉々として続けた。


『でもね、このゲーム、モブ男子Aが可愛いの』

『可愛い……分厚すぎる眼鏡で顔見えないんだが?』

『もうお兄、ちゃんと心の目で見てよ。絶対眼鏡外したら可愛い顔してるって! ほら立ち絵もさ、ちょっとイイ感じでしょ?』

『他の四人に比べたら誰もかれもまともに見える』

『こういうモブが実は現実では一番モテると思うんだよね。この人絶対優しい人だと思うし』


 俺は話半分に、へぇーと返事していた。

 本当に、その程度だった。


 それなのに。

 気づいたら俺は、横断歩道でオートバイに突っ込まれ、瀕死の状態で横たわっていて。

 んで、視界が暗くなって、痛みが薄れて――。


 次に目を開けた時、知らない天井があった。

 しかも、なぜか俺は赤ん坊で……。

 その時点で自分に前世の記憶があるのには気づいたけど、特にその記憶を使ってシャンプー作ったり無双するでもなく、そっから十七年後。


 鏡に映る、地味な黒髪に黒縁メガネの自分を見て、十七年間一度も何も思わなかったにもかかわらず、急に違和感を覚えた。


「あれ、俺こんな髪型だっけ? あとなんだこの分厚い眼鏡……いや、というか……」


 さらにじっくり鏡を見る。


「…………え? いや待て待て、これ、どっかで……」


 記憶がゆっくり繋がっていく。

 そして――突然一気に爆発した。


「あ、これ、あのゲームのモブ男子Aだ!」


 まさしく妹が見せてきた立ち絵、そのままだった。

 

 は!?

 なんで俺が!?

 しかも妹のやってた乙女ゲームのキャラに!?

 いや、例えば性別転換してヒロインとかになってたって設定じゃなくて良かったが、混乱はしていた。


 だって、攻略対象がヤバい。

 全員ヤンデレで、ヒロインは地獄を見る。


 しかし幸いなことに、あのゲームではモブ男子Aは出番がない。

 だから俺は決めた。


 ――この世界の攻略対象には絶対に関わらない。

 ヒロインにも関わらない。

 背景の一部として静かに生きる。


 そうすれば巻き込まれないし、平穏に暮らせるから。

 そう決意して、俺は学園生活を慎ましく生きていた。


 しかし、この世界のことを思い出してしまうと、やっぱりヒロインのことは気になるもので。


 加えてヒロインのアリアナの挙動は、ちょっとおかしかった。

 攻略対象に徹底的に近づかないし、それどころか執拗に避け、四人をやたら警戒するそぶりをしている。

 あの四人は、ゲームユーザーたちにはヤンデレ四天王なんて呼ばれていたが、基本的に本性を隠していて、普通の生徒達にはイケメン四天王なんて囁かれ、羨望のまなざしで見られているのだ。


 だからこそ、こんな序盤でヒロインがあそこまで怖がって避けるのは、おかしい。

 ゲームのヒロインとは明らかに違う行動ルートだ。

 ……これ、普通じゃないよな。


 なら考えられるのは。

 絶対あのヒロイン、同類……ってか、転生者だよなぁ、と気づくのは当然だった。

 むしろ、そうとしか思えなかった。


 気づいた時は、少しだけ親近感を覚えた。

 まともな人間なら、いくら顔がよかろうがあんな四人に追いかけられたら避けるよな。

 妹がもしこの世界にいたら、絶対そうしてただろうし。


『これはゲームでファンタジーだから、イケメンがこんなヤバい奴らでもキャーって言えるの! リアルにいたら普通にダッシュで逃げるに決まってるじゃん! しかもみんな権力者だよ!? どこに訴えたってもみ消されるだろうし、何があっても関わらないんだから!』


 懐かしい妹の声が脳内で再生される。

 だよな、俺もお前の言うことが正しいと思ってるぞ。


 てなわけで、俺はアリアナを何気に観察しつつも、関わるつもりはなかった。

 

 そう、マジでなかったのに……なんでこっちに走ってくるんだよ!


 その日、なぜか裏庭で無性に読書がしたくてしたくてたまらなくなって、授業終わりにダッシュで裏庭に移動して静かに読書していた俺の視界に、アリアナが、命からがらという顔で飛び込んできたのだ。


 彼女の顔は真っ青で、肩で息をしていて、声にならない助けを確かに求めていた。

 そして彼女の背後から聞こえるオージの声。


 その瞬間、頭の中で、妹の声が爆音で響き渡る。


『あの状態のオージに捕まるとイベントが起こって、オージの粘着度が爆上がりするの! だからオージ攻略したくなかったら、絶対に逃げないと!』


 俺はゲームに関しては全部思い出してたわけじゃない。

 それなのにこのタイミングで突然それを思い出し、びっくりしながらも考える。


 これ、絶対アリアナ、ヤバいよな。

 いやしかし、俺は面倒事には関わりたくないしなぁ……。


 ふとアリアナを見ると、俺の目の前にいたのは、体を震わせたか弱い一人の女の子で。


 ……気づけば思考とは正反対に、体が勝手に動いていた。


「隠れて」


 俺はアリアナをベンチの後ろに押し込み、平静を装って本を開いた。

 んで、近づいてきたオージには嘘をついて別方向を指さす。

 ストーカー王子オージ――今更ながら、こいつ含めて全員名前が安直すぎるよな――が去る。


 その瞬間。

 

 あ――――――――っ、やっちまった!


 心の中で、俺は大絶叫していた。


 待て、なんで助けちゃったんだ俺!? 

 関わらないって言っただろ! 


 どうしよう、もしアリアナを助けたことがあのオージにばれたら、俺の人生絶対に消滅させられる気がする。

 王家に逆らって、弱小貴族が生きていけるわけないのに。


 でも、俺の後悔は、泣きそうな顔でお礼を言うアリアナを見たら完全に彼方へと吹き飛んでいった。


 ……そうだよな、あんな顔した女の子を助けないってのは、俺には無理だった。

 それにあのまま見殺しにしてたら、普通にヒロイン可哀想だったし。

 むしろ、これまでアリアナが嫌そうにしてたのに、彼女を助けず放置してたことに罪悪感が沸いた。


 いや、しかしこれから俺、どうしよう。

 ヒロインにうっかり関わってしまった俺は、この先の自分の身の振り方を考え、こっそりとため息をついたのだった。



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