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乙女ゲームのヒロインに転生したけど、攻略対象から逃げていたらモブに助けられました  作者: 春樹凜


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1.◯恐怖の乙女ゲーム

ノリとテンションで突っ走る中編です。

◯→アリアナ視点




 私の名前は、フェルマー男爵家の令嬢アリアナ。

 そして前世の記憶持ちであり、この世界がとある乙女ゲームの舞台だと知っている。


 タイトルは『乙女のまなざしは恋を呼ぶ』。

 学園物の全年齢向け健全乙女ゲーム――そう謳われていた代物だ。

 

 ところが私は、ヒロインに転生してから薄々思い出した。

 このゲーム、表向きはほんわか恋愛ストーリーだが、実際はとんでもなく闇が深かったことを。

 だって攻略対象が、控えめに言っても全員ヤバい。


 攻略対象は全部で四人。

 第一王子オージは執着系ストーカー。

 第二王子ジナーンは笑顔で記憶を書き換える催眠男。

 宰相の息子メガーネは薬物大好き研究狂い。

 騎士団長の息子キッシは隙あらば囲いたがる監禁予備軍。


 しかも恐ろしいことに、ハッピーエンドですら、


 オージ『お風呂にもトイレにも、いつでもどこでもオージがついてきて逃げられない』

 ジナーン『ジナーンが好きだと勝手に心を書き換えられた、強制幸せエンド』

 メガーネ『メガーネに薬漬けにされて、ずっと楽しそうに笑ってる』

 キッシ『キッシに寝室の中に永遠に囲われる』


 というもの。

 

 バッドエンドに至っては、


『鎖で常時オージと繋がれる』

『ジナーンにより完全に自我喪失させられる』

『メガーネによって剥製にされる』

『キッシに地下牢の中に永遠に囲われる』

 

 だ。


 彼らは通称、ヤンデレ四天王。

 ハッピーエンドですら自由はなく、バッドエンドに至っては人格か人生のどちらかが終わる。


 どう考えても、乙女ゲームの皮を被ったホラーゲームである。


 誰か一人くらいまともなやついなかったの!? 

 全年齢どこ行ったー!?


 ゲームを起動した時にも、私は同じことを叫んだ。

 けど、そこそこ高い値段で買ったので、せっかくだからと一応全員攻略はしてみたけど、ハードモードすぎだった。

 あと、全員攻略したら逆ハーエンドが解禁されるって噂だったけど、心が折れたのでそれをすることはなく、ゲームを棚の奥底にそっとしまった。


 そんな世界で、ヒロインをやれというのは無理というか、嫌だ。

 勿論攻略なんてするつもりは一ミリもない。

 あと、細かい攻略ルートも覚えてないし。

 かと言って、舞台となる学園に入学しない選択肢はなかった。

 貴族であれば入学は義務だったから。


 だから私は入学早々、全力で彼らを避けていた。


 登校時間は徹底的に避け、教室移動の時にも細心の注意を払う。

 近くに来たら逆方向に歩くし、視線が合いそうならしゃがむ。

 なんなら昼食は誰も来ない屋上の物陰でひっそりとぼっち飯。

 

 これだけやったのに……私の学園生活は地獄だった。

 だって、奴らは私が何もしなくても、勝手に向こうからやってきたから。


 オージは私がどこにいてもいつの間にか現れて、距離を詰めてくる。

 ジナーンは廊下で目が合うと、満面の笑みでじっと見つめてくる。

 メガーネは私の机の上に勝手に謎のハーブティーを置いていく。

 キッシに至っては、しょっちゅう薄暗い校舎裏の方を指さして笑っていた。

 

 なにこれ、もう嫌、本当に誰にも会いたくないんだけど!


 確かに乙女ゲームって一応銘打ってるだけあって、みんな顔は整ってるけど……。

 正直、リアルにヤバめの癖を持っている人と現実でお近づきになるとか、勘弁してほしい。


 というわけで、その日も私は授業が終わった後、逃げるように裏庭へ向かった。

 四人の帰宅時間は大体把握したので、彼らが帰るまでここで身を潜めて時間を潰してから帰ろうと思っていたのだ。


 そして、頃合いを見計らって裏門から帰ろう……。


 なのに、校舎の角を曲がった、その時――。


「アリアナ」

「――っ!」


 金髪に、青い瞳……完璧すぎる美貌を持つオージが、なぜか私の目の前に立っていた。


 ひっ……なんでここにいるの!? 

 確かこの時間って、上級生のオージは授業のはずで……。

 

 私がものも言えず口をパクパクさせていたら、こちらの疑問を読み取ったのか、オージはふっと笑うと、


「さっき教室の窓から君の姿が見えたからな。理由をつけて授業を抜け出してきたんだ」

「ひぃぃぃっ!」


 怖い、怖い怖い怖い、怖いよ!

 彼の教室からだと、私のこそこそとした姿は、本当にちょっとしか見えないはずなのに。

 それに、何が一番怖いって、オージの席って窓際じゃないはずで……。 


「アリアナ、せっかくだし今から少し二人きりで話を……」

「ごめんなさい今日は忙しいので無理ですぅっ!」


 オージにそう言われた瞬間、私は考えるより先に踵を返して走り出していた。


 いやいやいや無理無理無理無理!

 けど、足音は確実に追ってくる。


「ほう、つまりこの俺と追いかけっこをしたいと。なら……こちらも本気を出さねばな」


 後ろから聞こえたオージの声がどろっとした暗いものになる。

 ヤバい、これ私も本気で逃げないと、このままだとストーカーエンドまっしぐらじゃんか!

 

 しかし、隠れる場所は少ない。

 でも止まれない。


 どこか――どこかに!

 泣きそうになりながらさらに速度を上げて走り続け、偶然大きな木の前を通った時だった。

 

「…………」

「…………」


 大木前に置かれたベンチに座っていた地味な男子生徒と、不意に目が合った。


 黒縁の分厚めの眼鏡をかけた、目立たない顔立ちで、静かに本を読んでいた男子――名前は知らない。クラスが違うから。

 けれど、ネクタイの色から私と同じ一年生だってことは分かる。


 その彼が、私を見た後、なぜだか葛藤するように激しく顔をしかめたかと思うと、急に本を閉じて、私に向かって小さく手招きをしたではないか。


 相手が誰かも分からない。

 それでも私は、反射的に足を向けていた。

 男子生徒は、ベンチと木の間の狭い隙間を指し示し、息を潜めるように囁く。


「隠れて」


 その声はとても静かで、落ち着いていた。

 私はもはや本能で動き、陰に滑り込んで息を殺す。

 

 その直後、オージの足音が近づいてきて、やがて男子生徒の前で止まったようだった。


「おい、アリアナを見なかったか?」


 私はベンチの陰で息を殺し、震えていた。

 心臓が破裂しそう。

 でも男子生徒は平然と答えた。


「ああ、それならさっき、あちらに走っていきました」

 

 オージは軽く礼を言って走り去っていった。

 その足音が完全に消えるまで、私は動けなかった。


「……もう大丈夫ですよ」


 完全に音がなくなったところで、男子生徒が小声で告げる。

 私はへたり込みそうになる膝を押さえながらその場所から這い出すと、目を潤ませながらお礼を言った。


「ありがとうございます……。本当に、あなたがいなかったらどうなっていたか。あなたは私の救世主です!」


 すると男子生徒は、目を伏せて少し困惑したように答える。


「い、いえ……あなたが困っていそうに見えたので、俺はたいしたことは」


 でも、その声はどこか優しくて、穏やかで、安心できる響きだった。

  

 この学園でやっとまともな男子に出会えた気がする――彼の声を聞きながら、私はそんなことを思った。


 もちろん、私はまだ知らない。

 目の前にいる一見地味な見た目の彼が、私と同じ転生者であり、なんなら私以上にゲームのことを知り尽くしている、とんでもなく貴重な存在だということを。



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