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乙女ゲームのヒロインに転生したけど、攻略対象から逃げていたらモブに助けられました  作者: 春樹凜


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11/20

11.◯ダンスの相手



 在校生も卒業生も全員参加が義務付けられているパーティーは、


『誰と踊るか』=『そのままエンディング突入』


 の、ゲーム最終選択肢でもある。


 私はもちろん、誰とも踊らないと決めていた。

 だって誰を選んでも、人生が終わる未来しかない。


 しかし、最近身の危険を感じておらず、平和ボケしまくっていた私は、ここにきて重大なことを思い出してしまう。

 

 ――誰も選ばない=バッドエンド確定だということを。


 どういうことかというと。

 あのゲーム、パーティー当日の時点で、四人の中で一番好感度の高い男に自動的に連れ去られる、という鬼仕様なのだ。


 そうだった、これ……本当にやばいやつじゃん!

 ちなみに、もし全員の好感度が同じ数値だったら――全員が一斉にヒロインの元へ来るらしい。


 いやいやいやいや無理!

 ハーレムバッドエンドとか絶対嫌だ!

 その場合私はどうなるのか分からないけど、とにかく私の存在が消されるのは確かだ。


 私は誰もいない教室内で、机に突っ伏しながら震えた。

 

 それに、私が落ち込むのにはもう一つ理由がある。

 私の心は、すでにカインさんに決まっている。

 そして彼に嫌われてはいないとは思うけど、カインさんは私が好きっていうわけではないだろうし、むしろ、四天王ルートから解放されたら、そのままさよならになるかもしれない。

 だって、カインさんと一緒にいる理由がなくなるから。


 色んな意味でどうしようと頭を抱えながら唸っていたら、急に後ろから声をかけられた。


「アリアナさん、さっきから唸ってますけど、大丈夫ですか?」

「ふぁいっ!?」


 私はビクッと肩を跳ねさせつつ振り返ったら、そこにいたのは四天王……ではなく、カインさんだった。


 やば、なんかカインさんの顔を一目見るだけで、安心する。

 絶望的な未来を前に涙腺まで緩んでしまって、私は慌てて目元をごしごしこすった。


「だ、大丈夫です! ちょっとその、卒業パーティのこと考えてたら……」


 カインさんは首を傾げる。


「パーティーが、どうかしたんですか?」

「どうかどころじゃないんです!」


 カインさんの柔らかな声に、私の中に溜め込んでいたものが一気にあふれた。


「わ、私、思い出したんです! 誰も選ばなかったら大丈夫だって思ってたんですけど、結局バッドエンドになるってことを……。確か、好感度が一番高い人ルートに強制突入で。もし全員同じだったら、全員来るんです! もう……いやだああああぁぁぁ……!」


 言いながら自分で絶望し、私は叫びまくる。


 こうなれば今からでも一番マシな人に接近して…………。あの四人の中で一番マシな人って、誰???

 うん、誰一人としてマシじゃない。


 今から学園を退学してってのも考えたけど、男爵領に逃げ帰ったところで、あの四人が権力を使って私を娶りたいとでも言ってきた日には、我が家に拒否権はない。


 どうしよう、このままだと私は……。

 お先真っ暗な未来しか見えず、肩を丸める私だったけど。


「あの、アリアナさん。そのことなんですが、一つ提案があります」


 いつの間にか私の前に回ってきていたカインさんが、すぐ目の前にいた。

 カインさんは私と目を合わせると、何かを決意したみたいに息を吸ったかと思うと、ゆっくりと言った。


「……アリアナさんさえよければ、えっと、俺が、あなたのダンスの相手になりましょうか」


 …………は?

 え?

 ちょっと待ってください、どういう意味ですか?

 脳みそが一瞬で真っ白になった。


「へ……?」

 

 情けない声まで出てしまった。

 当然である。だって意味が分からない。

 でもカインさんは、耳まで赤くしながら続ける。


「い、いや、ほら、その、パーティーの時に、ダンスの相手として誰かを選ばなきゃいけないんですよね、確か。俺もそのことは知ってたんで、どうすればいいかなとずっと考えてたんですが……それなら、俺を選べば安全なんじゃないかって、思って」


 え。

 えっ。

 えっ!?


 胸がバクンッと跳ねた。

 今一番気になってるカインさんからのお誘いだ。嬉しくないはずがない。けれど、同時に不安が襲い掛かる。


「で、でも、カインさんに迷惑じゃ」


 私は慌てて言った。


「だってカインさんって例えばお付き合いしてる人とか、婚約者とか、そういう人、とか、いないんですか?」


 言いながら、自分で顔が熱くなるのが分かった。

 何言ってんの私。何その探りを入れる感じ?

 いやでも普通いるよね。優しいし落ち着いてるし。


 しかしカインさんは、キョトンとしていた。


「いませんよ、そんな人。こんな、地味な子爵家の三男に恋人とか婚約者とか、いるわけないじゃないですか」


 い、いるわけないって、そんな言い方しないで! 

 確かにカインさん、初めて会った時は、地味だなーとか思ったりもしたけど、すごくいい人だし、なんかこの穏やかな感じも逆にときめく。

 そんなときめきメーターがぎゅんっと上がってるところで、カインさんは少し俯き加減でトドメを刺してくる。

 

「だから迷惑じゃないです。あーいや、迷惑どころか。むしろ、その、俺は……」


 ちょ、ちょっと待ってカインさん、その「むしろ……」の続き、すごく気になる!

 聞きたいような聞きたくないような……。

 お互い真っ赤になっていて、視線が合わせられない。


 だけど、相手はあの四天王だ。

 カインさんが選ばれたって知ったら、何をされるか分からない。

 だから私は、カインさんのこの申し出を断るべきだと思う。

 そう、思うのに……。


「うん……カインさんがいい……」


 言った後、自分の言葉の重みに気づいて息が詰まる。


 カインさんを巻き込むなんて絶対ダメなのに。

 でも、口が勝手に動いた。

 心が、勝手に選んでしまった。


 カインさんは、驚いたように目を瞬かせたあと、ゆっくりと、ほんの少しだけ微笑んだ。


「分かりました。じゃあ、俺にアリアナさんをエスコートさせてください」


 その言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。

 安心と、嬉しさと、怖さと、全部が混ざったような感情だった。


「で、でも、私が言うのもなんですけど、本当にいいんです? さすがにパーティーに一緒に出たら、あの人たちに目をつけられて、今度こそ本当にカインさんが危ない目に遭うかも」


 けれど、カインさんは首を横に振った。


「いいんですよ。多分ですけど、何とかなるような気がするっていうか、無理やりにでもなんとかしますから」


 その後、カインさんは少し照れたように視線を逸らす。


「あ、そうだ。パーティーのドレスなんですが」

「ドレス……?」

「はい。パーティーの時のドレスは、パートナーを務める男性が女性に贈るってしきたりがあったと思うんです。アリアナさんに似合いそうなものを、今度送りますね。もしも気に入らなければ言ってください。また別のものを探しますから」


 え、え、え、え、え……!?

 ドレス?

 カインさんが。

 私のために?


 頭が真っ白になり、顔が一気に熱くなる。


「そ、そんな……! わ、私なんかのために……!」

「なんか、じゃないですよ」


 静かで、優しくて、まっすぐな声――その声が、胸の奥にすとんと落ちた。


「アリアナさんが無事に今回の件を乗り越えられるように。そしてその先も、笑っていられるように。……俺にできることなら、なんでもします」


 そんなふうに言われたら、もう嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだった。


 四天王の影は確かに迫っている。

 だけど、カインさんが隣にいてくれるなら――私は、きっと。


「っ、頑張って四天王から逃げ切ります」


 そう言うと、カインさんは静かに頷いた。


「必ず、守ります。だから……無事あの四人からあなたを守り切れたら、伝えたいことがあるんです。聞いてくれますか?」


 その言葉に、私はゆっくりと頷いた。


 卒業パーティーまで、あと一か月。

 私の運命は、もうすぐ決まる。


 だけど今はほんの少しだけ、未来が明るく見えた。



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