第147話:人公の終わり
【人公アルシ視点】
「ですから! 九王とカホルは不純異性交遊をしているんですよ!」
「とは言われてもね」
生徒指導室でのこと。ボクが生徒指導の教諭にカホルたちの不貞を暴露するが、相手側は困ったように非積極的だ。
「退学させるべきでしょう!? あんな学生に相応しくない奴ら!」
ボクの怒りは収まらない。カホルのコヲリもホムラも奪った。そんな奴には地獄を見せるしかない。せいぜい退学して惨めな人生を生きろ。
「いや、しかし、証拠がなくてな」
「ホテルに行くって言っていたんですよ? それが証拠でしょう?」
「しかし九王は九王グループの御曹司だ。例えばホテルのレストランで食事をしている可能性はないか?」
「きっとやってるんですよ! セクロスを! 間違いありません」
「根拠がない。証拠もなく九王たちを処分するわけにもいかんのだ」
この役立たずが! だったら証拠を見せてやるよ! ボクはカホルにスマホで通話する。
『何? 今デート中なんだけど?』
生徒指導教諭が聞いていることは話していない。その上でボクに当てつけをするように真実を暴露すれば退学の根拠になる。バカ女め。地獄を見ろ。
「今何してるんだ?」
「ホテルでデート中だよ?」
ほら。引っかかった。だからバカなんだよお前は。
「セクロスしてるのか?」
「ううん? 三ツ星ホテルのレストランで食事中。アクヤ様にご馳走して貰っているの♡ じゃあ私はデートで忙しいからまたね」
ブツッと通話が切れた。おそるおそる生徒指導の先生を見ると。
「これでは処分の対象にはならんな」
「でもあいつらホテルにいるんですよ? これだけでも校則違反じゃん……」
「ラブホテルならともかく。普通のホテルではね。それにレストランで食事と言っていましたし。どう考えてもただのデートだろ」
「それは……」
どうすれば九王を退学に追いやれるのか。それだけをボクは考えていた。
「ところで、少しスマホを借りるぞ」
あまり褒められたものではないが、教師がボクのスマホを普通に操作していた。
「やめてください!」
「ちょっと確認したいことがあるだけだ。個人情報を見たりアカウントを乗っ取ったりしたりはしねえよ」
だからって他人のスマホを。
「ああ、やっぱりあったな」
そして何を見つけたのか。生徒指導の教諭はボクのスマホを僕自身に見せつけて、是非を問う。
「これ、なんだ?」
見せられたのは一つの動画。データとしてスマホに残っており、そう言えば削除することを忘れていた、と今更ながらに焦る。それは屋内プールの裏で九王が暴行を受けようとしている動画。ボクが撮影していた動画だ。
「えと。なんか撮影されている動画が出回っていて。誰からだったか忘れましたけど。ボクは受け取っただけです」
「そうか。じゃあこの動画はどう説明する?」
今度は教諭のスマホで、動画を見せつけてきた。そこに映っていたのはプール裏で茂みに隠されていたスマホを回収しているボクの映像。
「現場の検証もしたが、人公の動画が撮影される画角と、この提供された人公が回収しているスマホの位置を合わせると普通に合致するよな?」
「そ……れは……」
言い訳を頭の中で考える。だが有益な言い訳が思いつかない。
「お前が事前にスマホを仕込んで、九王が暴行されるところを撮影しようとした。間違いないな?」
「ちがっ! 違う! そんなこと!」
「既に証拠は揃っているぞ。ついでにもう一つ言えば」
まだ何か?
「九王を暴行しようとした元生徒らに話を聞いた限り、九王の暴行を決行しようと話し合っている中に人公もいたと聞いている。ただ参加はしなかったとだけ」
あのクズども! ボクの足を引っ張るのか!?
「つまりお前は生徒等を焚きつけて暴行に及ばせ、それをスマホのカメラで撮影しようと先回りしてセットしていた……でいいのか?」
「待ってください! これは何かの間違いで!」
ボクが言い訳しようとすると、生徒指導室に校長先生が入ってきた。
「裏はとれたかね?」
「ええ。証拠動画がバッチリと。撮影時間の照合もピッタリ符合します」
「そうか。残念だ。人公くん。君がやったことは殺人教唆に該当する。私としても頭の痛い案件だ」
「ちが……だから……それは……何かの間違いで……」
頭がクラクラしてくる。なんでだ? なんでボクが責められているんだ? 九王とカホルを断罪する場だったはずだろ?
「学校側としては自主退学を勧める。それが最も穏便だ」
「自主……退学……?」
青ざめる。ボクに学校を止めろって? そんな理不尽があるか? だってボクは何も悪い事してないのに。
「自主退学をしないなら、本校としては警察に対処を委ねる。学内での出来事では収まらないからね。その結果として刑事事件になって処分が下されるだろう。我が校としても汚名を被ることになるが、それはこの際呑もう」
「ちょっと……待って……なんで……ボクが……」
悪いのは九王だろ。なんでボクの退学なんて話に。
「自主的に退学するか。刑事事件にするか。後悔をしない方を選びなさい」
「あ……はは……ははは……」
わかった。これは夢だ。悪い夢を見ているんだ。じゃなきゃおかしい。ボクのカホルとコヲリとホムラが寝取られて、ボクが退学処分なんて。そんなことはあり得ない。きっと夢を見ているんだ。早く目を覚まさないかな。そしてまた四人で仲良くハーレムを作るんだ。小比類巻さんもそこに加えていい。そうして可愛い女の子たちとイチャイチャして、最高にハッピーな恋愛をするんだ。
「返事はすぐじゃなくていい。だがこのことは親御さんにも説明するし、しなければならない。親御さんと相談して、それから判断しなさい」
校長先生の優しい声。それ自体がもう遠い。目を覚ましたらカホルたちに告白しよう。そうして相思相愛になって。みんなで幸せになるんだ。ボクだってカホルたちを幸せに出来る。今までだって仲良くやってきたんだから。退学? するわけないだろ。そもそもこれは夢なんだから、現実じゃないってことで。
「聞いていますか。人公くん?」
頭がクラクラしてきた。相手が何を言ってるかさえわからない。大丈夫だ。全部タチの悪い夢だ。ボクがこんなに不幸になっていいはずがない。
「人公くん?」
愛してるよ。カホル。コヲリ。ホムラ。お前らもボクが好きだろう? だからさ。今度こそ愛し合おう。ボクだって三人と愛し合えるならそれ以上は無いわけで。
退学? するわけないだろ。これからボクはこの学校でカホルたちとイチャイチャしながら過ごすんだから。
「人公くん? 大丈夫ですか?」
「人公。顔真っ青だぞ?」
じゃあもうちょっと寝よう。起きたら全部解決してる。そうじゃなきゃおかしい。ボクにとって全てうまく行く世界じゃなければおかしいんだ。じゃないとボクって何のために産まれてきたの? ってはなしになるんだから……さ。




