第142話:グリーディドッグ
【人公アルシ視点】
「くそ……」
夏休みが少し過ぎて。まだまだ先は長いが、それでもボクは課題の理解に四苦八苦していた。カホルに指導を頼んでもなしのつぶて。一人で課題を解こうにも、何を言われているのかも分かっていない。仕方ないので参考書を求めて大型の本屋に来ていた。教科書よりもわかりやすく説明されている参考書があれば課題の理解にも助けになるだろう。そう思っていると、本屋でホムラを見つけた。アイツもこの本屋に来ていたのか。見ればマンガを選んでいるらしい。ま、六組のホムラならマンガが相応だろう。
「よ、ホムラ」
そのまま声をかけないのも不義理かと思い、ボクは声をかける。
「…………」
で、声をかけられたホムラは凄い渋い顔をした。
「なんだよ?」
「いや、そう言えば今日の星占いはあまりよくなかったなと」
ボクに出会ったのが不幸みたいに聞こえるんだが。
「どっか行け。邪魔」
「まぁそう言うなよ。幼馴染だろ?」
「絶交してるんだから話す必要ないぞ」
「それはお前が悪いんだろうが。謝る気になったか?」
「ど・っ・か・行・け」
ニッコリと微笑んでホムラはボクに辛く当たる。
「なぁ、いい加減反省しろよ。ボクだってお前が謝るなら幾らだって許してやるんだぞ?」
「邪魔♪」
どうしても反省しないらしい。ボクに恥をかかせておいて、その態度が許されるのか?
「……ホムラちゃん。……あ、……ここにいましたか」
で、今度はコヲリが現れた。
「コヲリ……」
「……あら人公さん。……奇遇ですね」
お前までボクを苗字で呼ぶのか?
「何しに来たんだ?」
「……少し資料を探しに。……そういう人公さんは?」
「ボクは参考書をね」
「……そうですか」
そうしてボクとコヲリとホムラで微妙な空気になる。
「おーい。コヲリ。資料は見つかったか?」
で、さらに最悪なことが起こる。九王が現れたのだ。コイツは何処にでもいるな。
「……あ、……アクヤ様。……資料は無事買えました」
「じゃあお姉ちゃん。アクヤ様。行こっか」
「ちょ! 待てよ!」
いきなりのありえない事態にボクが制止をかける。
「なんでコヲリとホムラが九王と一緒にいるんだよ?」
「……デート中ですので」
「だね」
あっさりと言う二條姉妹。
「九王?」
「なんだ?」
「お前如きがコヲリとホムラとデートしてんのか?」
「まぁ。俺の女だし」
その一言で頭が沸騰した。
「誰がお前の女だ!」
「二條コヲリと二條ホムラが」
「……アクヤ様。……まともに相手をするだけ無駄ですよ」
「だねー。生産性皆無だと思うよ?」
なんかさりげなくコヲリもホムラも九王のことを「アクヤ様」とか呼んでるし。
「は!」
だから優位に立つために、ボクは鼻で笑う。
「金で女を買って嬉しいか?」
「嬉しいぞ?」
何を今更みたいに九王は言う。
「最低だな。親の金で女を篭絡するなんてな」
「まぁ言っている意味はわかるが」
金を稼いでいるのは九王じゃない。九王の親だ。
「コヲリもホムラも必死だな。借金まみれだから九王に媚びてんのか?」
「……いえ。……別に?」
「だねー。そもそもアクヤ様は借金に関しては一円も関わってないし」
クスクスと二人が笑う。
「じゃあなんで九王如きに媚びてんだよ? 金目当ての卑しい女だからだろ?」
「……まぁ男として何一つ勝ってない人公さんが、アクヤ様に嫉妬するのは自然ですね」
「でもちょっと見苦しいよねー」
ボクが。九王に。劣っているだと?
「取り消せ。今の言葉」
「……あら。……事実を言われて図星ですか?」
「ボクは三組。九王は六組。この時点でボクが勝ってるだろ」
「……ふふ♪ ……全国模試で九十六位のアクヤ様に、中間試験赤点だらけの人公さんが勝っていると?」
「どうせ金で成績を買ったんだろ? なぁ?」
「するわけないだろ。不祥事を起こすと九王グループに迷惑かけるんだから」
何を当たり前のことを、と言わんばかりに九王は言った。
「それでもお前が女を金で買ってるのは事実だろ」
「だから二條家の借金にはノータッチだぞ。ついでに言えば今日のデートはむしろ俺が奢られる側だし」
コヲリとホムラが金を出してるってのか?
「やっぱ金持ってる女はいいよなぁ」
「……アクヤ様♡ ……大好きです♡」
「だね♡ あたしたち姉妹の救世主のアクヤ様♡」
うっとりとメスの顔で九王を見るコヲリとホムラ。
「お前! 借金苦に陥ってるコヲリとホムラに金出させてるのか!?」
「ああ、そうだが?」
「恥を知れ!」
「お前にだけは言われたくないんだが。それにいいだろ。二人がそうしたいってんだから」
「……ええ。……アクヤ様になら幾らでも奢ります」
「だね。買いたいものがあったら何でも言ってね♪」
恐ろしいことをコヲリもホムラも言う。なんでだよ。そんな金があるならボクに使うべきだろ。なんでそんな最低男に奢ってんだよ。そもそも借金苦なんだろ? 自由になる金が何処から出ている?
「……じゃあそういうことで。……人公さん。……私たちはデートの続きがありますので」
「だねー。じゃあね人公さん。ねえアクヤ様。カホルにお土産買っていい?」
「いいぞ。じゃあドーナツ屋でも行くか?」
「いいね。それ。お姉ちゃんもオッケー?」
「はい。カホルちゃんにお土産を買いましょう」
ボクの目の前でイチャイチャするコヲリとホムラと九王。脳が破壊されそうな光景に、けれど最後の希望で持ちこたえる。ボクにはカホルがいる。三人の幼馴染の中で一番おっぱいが大きいカホルがいるのだ。そんな貧乳どもにチヤホヤされていい気になってろ。カホルを手に入れたボクの方が上だからな!
「……アクヤ様♡」
「アクヤ様♡」
あーあー。見てられないな。男じゃなくて金に媚びている女って。そもそも九王は自分で働いて手に入れたわけでもない金で女を買ってるんだろ? 軽蔑に値するよな?




