第四十五話 再び幽界へ
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――どのぐらい、寝たのだろうか。自然と瞼を開くと、そこは真っ白な天井だった。
……。
…………まさか、ここは――
辺りを見渡すと見覚えのある部屋だった。
「ここは、ヒーリングルーム?」
そうか、私、死んでしまったんだ。シルフリードは消滅してしまった……。
「私のせいだ。私のせいで、シルフリードが死んだ……」
絶望感に飲み込まれるように、私は布団の中へ潜りこんだ。小さくうずくまって膝を抱える。
――嫌だ、嫌だ、嫌だ。あぁ、私が無茶をしたから……、全部私のせい!!!
「ごめん、シルフリード……」
《何が、ごめんだって?》
「何がって――」
私は飛び上がって辺りを見渡した。でも、何も見えない。
「声が聞こえたのに……」
《そうだな。声が聞こえるのに姿が見えないなんてな》
私は、心の底から安堵した。
「もう、シルフリード!! 脅かさないでよ!! 生きているよね? どこなの? 姿を見せてよ」
すると、右耳に生ぬるい風が吹いた。
「きゃっ!!」
《どうやら、お前まだ死んでないみたいだぜ。俺は、透明になったけど、ちゃんと生きている。だから、泣くなよ》
「はぁ――、良かった。本当にシルフリードなんだね。消滅していなくて、本当に良かった。っていうか、私がさっき流した涙を返してよ!!」
《はははははっ、涙なんて返せません。俺の為に流してくれた涙だからな。もう俺のものだ》
「ねぇ、シルフリード。涙はいいから、姿が見えないせいで、どこにいるか分からないの。とりあえず、抱っこして!」
《とりあえず抱っこって何だよ。それにな、俺が透明になったからか、お前に触れようとすると、透けて貫通するんだ。だから抱っこは無理》
「そうなんだ……」
私はがっかりした。正直シルフリードと一番にハグがしたかった。
《あとな、お前自分の体をよく見てみろよ》
私は、いつの間にか腕が長くなっているのに気がついた。布団をめくると、足も長くなっている。そして、胸まで大きく育っている。そして、黒髪が腰のあたりまで伸びているのを見て驚愕した。
私は急いで、一階のお風呂場まで駆け下りた。お風呂場の脱衣所の姿鏡を見て、成長した私がそこに立っていた。
白いワンピースから伸びた細い腕、すらりとした長い足、さらりとした黒い髪に黒目がちの瞳、きめ細やかな白い肌。
鏡に映る私は、以前の生気のない芹奈ではない。頬はピンク色に染まっているし、唇も血色がいい。私だけど別人になった気分。
「私の顔、前みたいに疲れた顔をしていない。それどころか、生気がある」
《久々の芹奈の姿はどうだ? 変な気持ちだろ?》
「自分で言うのもなんだけど、成長期だからかな。だいぶ変わった。それに、私、今の自分がいい。これもシルフリードがいてくれたおかげかな?」
《えっ!?》
私は目を閉じて、両手を広げた。
「シルフリード、私にハグしてくれない?」
《えっ~~、なんでだよ。お前、セレーナじゃなくて、年頃の芹奈じゃん》
「でも、いつもみたいに、ギュッとしてほしいの」
鏡の前の私は、両手を広げてじっと待ってみた。
《俺、ずっと、ハグしているけど、お前わからないみたいだな》
《ピーンポーン》
インターホンの音が聞こえた。私は慌てて玄関先のドアを開ける。
そこには懐かしい眼鏡お姉さんのエマさんとリュークが立っていた。
「守下芹奈さん、じゃなくて、セレーナ・クレメントさん。目が覚めたんですね。良かったです」
そして、後ろには、がやがやと騒いでいるお年寄りや大人たちがいる。ざっとみても、50人以上……いや、もっといる。
私は愕然とした。
「こんなに……、こんなに大勢の村人が亡くなってしまったの?」
「お前さん、見た目は違うが、まさかセレーナの霊なのかい? もしかして死んでしもうたのか」
靴屋のお爺さんが話しはじめた。
「……多分違う。私はまだ生死をさまよっているみたい」
なぜなら、この体には生命の糸らしきものが、足首についているからだ。私が以前死んだときはそんな糸はなかった。
「実は私、前世から魂が変わらないまま、生まれ変わっていたの。セレーナ・クレメントに」
靴屋のお爺さんは目を丸くした。
「なるほどな、なら、あの戦いは納得だわい。三歳児が頭を働かせて、悪魔に立ち向かうなんて、道理でおかしいと思ったんじゃ。納得じゃ」
「あの戦いって、お爺さん、それをどこかで見ていたの?」
「それはな、不思議な板のようなもので見たんだよ」
すると、リュークが話に割って入ってきた。
「村人の皆さんに、セレーナちゃんの戦いぶりをⅤTRで見てもらったんだ。もう、大騒ぎしてた」
モニターを取り囲んで、ワイワイガヤガヤと応援してくれていた村人の絵が思い浮かんだ。
「セレーナとエドガーが、儂らの村を助けてくれたんだな? しかも、精霊を使って戦っただろ? 大したもんだ。ド派手な攻撃ばかりしおって、皆のけ反っていたわい!!」
「まさか、三歳児があんなことをするなんて、誰が想像するんだい?」
「あんたの親父さんが、あの悪魔を倒してくれたんだろ? 元の世界に戻ったら、代わりにお礼を伝えておくれ」
――私は急に胸が苦しくなった。私は村人の前で土下座をした。
「みなさん、本当にごめんなさい。悪魔退治は私の天命だったけど、結局、村人全員を助けきれなかった。多くの人が悪魔の犠牲になった。私の考えが足りなかったの。私が光の聖域を展開させて、村人全員を避難誘導させておけば、こんな事には……」
すると、雑貨屋のお婆さんが私の所へやってきた。
「小さなお前さんが、どんなに叫んでも、きっと大人たちは気にも留めず、軽く受け流していたはずだよ。なにも、気に病むことはない。これが、あたしらの運命だったんだ。だからね、お前さんをうらんではいないよ」
すると、近くに住んでいるユリアおばあちゃんが私を抱き起してくれた。
「あの悪魔が、儂らの頭を弄び、足で蹴りとばしたとき、儂は腹が立ったよ。でもな、お前さんがあの不思議な蝶を出してくれて、怒りに満ちていた若者の雰囲気が変わった。村の若者がこぞって儂らの事を想い偲んでくれたんだ。それがね、本当に嬉しくてね。涙が溢れそうになったの」
周りを見渡すと、お年寄りは大きく頷いた。
「小さいのに、儂らの村の為に戦ってくれてありがとな」
「檻に入れられた子供たちを助けてくれてありがとう。家族が子供たちだけになったけど、あの子たちが、生きてくれているだけでそれで十分だわ」
「一人息子と孫を助けてくれて、ありがとう」
「わしらの息子夫婦と孫を助けてくれてありがとう」
「あの、くそ悪がきを助けてくれてありがとうな。今後はあいつに靴屋をまかせるとしよう。そう伝えてくれないか?」
次々に村人から感謝の気持ちを伝えられ、私は涙を堪えるのに、精いっぱいだった。不甲斐なさを噛みしめる。
そんな中、エマさんが、いきなり両手を振った。
「いいですか、今日から七日間は皆さんはそれぞれヒーリングルームでお休み頂きます。魂の傷を癒すためです。それから、船に乗って冥府へと出発いたします。ここまでの話はよろしいですか?」
「「「は~い、分かりました!」」」
村の皆が手を上げて返事をした。まるで、ツアー旅行に来たかのような雰囲気だ。
「ここにいる七日間、今なら『夢見枕』がレンタルできます。これは、生きている息子さんたちの夢の中へ入って会えることができます。一回のみです。受付をするなら、こちらへ並んでください」
エマさんの前に村人が殺到し、長い行列を作った。やはり、みんなあんな別れ方をしたので、最後にきちんと会いたいのだろう。しかし、残した者が子供だけの親たちは、心配の色を隠せなかった。
「残した者が特に心配な人は僕が手紙を書いてあげるよ」
向こうからギリシャ神話の恰好をしたヘルメスがやってきた。すると、ある夫婦がヘルメスの元へやってきた。
「私たち夫婦で死んでしまって、残された子供たちにしてやることがたくさんあったのに。困ったときは村長さんやギルドの皆さんに相談するように、あとこれからすべきことを手紙に書き残さないと。義理の兄の住所を書いておいておかないと。そこへ頼るように伝えなくては」
――こうして、ヘルメスが魔法で手紙を書き終えた後、村人たちは名残惜しそうに、私と言葉を交わし、それぞれのヒーリングルームへ帰っていった。
一人、村人たちの背中を見つめる私。
「……君が、そんなに自分を責めなくてもいいのに」
ヘルメスがぼそりと呟いた。
「私も今回のことでいろいろ反省したよ。君の監視システムを解除するね。ネット配信も神々の娯楽目的で始めたことなんだけど、ネイコスに嫌味言われちゃった」
「嫌味……ですか?」
「それに雑誌やネットを通じて向こうにも君の事を知られてしまったしね。今後は本格的に君を狙ってくる。それもこれも、金儲けがしたかった私のせいだ。すまない」
(ヘルメスが謝った!?)
「あなたは、一応謝ることもできる神なんですね」
「はっ!?」
ヘルメスはニカっと私に笑いかけた。
「ヘルメス様、ズルいですよ。そんな笑顔を見せたら、怒るに怒れないじゃないですか!」
「何~、君、私に惚れてるの?」
「はあ!? 違います。自信過剰もいい加減にしてください」
《そんなわけ、ねーだろ!》
「おや、シルフリードもそこにいたんですね。いないから消滅したかと思いました」
《芹奈の魂が無事なら、俺も無事なんだよ!!》
そのとき、リュークがニコニコしながら走って私の所へやってきた。
「セレーナちゃん!! お待たせ~~」
「じゃあ、揃ったところで行きますか」
「えっ!? ヘルメス様、どこへ?」
ヘルメスの細マッチョな右腕が、大胆にも私の腰を引き寄せた。
「ぎゃっ!! いきなり、なんなんですか!!」
《そうだ、気安く触るな!!》
ヘルメスの左手はリュークの腰ベルトを掴んでいる。
「私の肩にしっかりしがみつくんだよ。でないと真っ逆さまに落ちるから」
――ヘルメスの移動速度は神の御業のように異常に早く、一度経験済みだが、すごく怖い。
「だぎゃあぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
向かった先は、運命の糸工場だった。
明日は、夜22時10分投稿します。




