第四十話 一対一の戦い(エドガー視点)
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「お前、あのちびの親だな?」
「そんなことより、よくも俺の娘と精霊を不意打ちみたいに蹴り飛ばしやがったな」
(あの瞬間移動みたいな動きに俺は反応が遅れた。くそっ!!)
「馬鹿か、戦場で俺に背を向ける奴が悪いんだ」
「ここは、戦場じゃねぇ。牧場だ」
「はっ、平和ボケしてるんじゃねぇよ。お前の星はもうすぐ我ら悪魔が――いや違う。我ら、邪神様の下僕である七人の悪魔が殲滅させる」
(なに!? 悪魔が7人もいるのか!!!)
衝撃な言葉に俺は絶望した。しかし、今は目の前のこいつをなんとかしなくては。……あのイスに座っている奴は、戦う気はないみたいだが。
「イスに座っている男は、観客ということでいいのか?」
ベルゼブブがちらりと男を見る。
「あぁ、いいよ。私は観客だ。手出しはしない。しっかりこいつが仕事をこなすかどうか、見届けなければならないからな。だがもうすぐ、残念な報告をすることになりそうだな」
その男は、ベルゼブブに殺気を漏らした。
「そ、そんな!!! まだ分からないじゃないですか。しっかり最後まで我を見届けてくださいませ」
「ああ、最後までな」
俺は、静かにベルゼブブとにらみ合う。金色の瞳に金髪。薄紫の肌に、彫りの深い顔つき。見た目は軍人のような悪魔だ。最初は敵わない相手だと思っていた。だが今は違う。
業火の剣に己の炎の魔力を乗せて、バックルを片手に身構える。
「なぁ、お前の娘、あれ、やばい奴だな。あれじゃ、貴族や王族が欲しがるだろうな」
「心配してくれなくてもいい。娘は誰にもやらん」
「いや、その娘、俺が首輪を繋いでペットにしてやるよ」
ベルゼブブがしきりに手を動かしている。先程まで腕が凍っていたから、動かしづらいのだろうか。
「あのちびのせいで、なんだか調子が狂ったみたいだ。お前が剣を持つなら、俺もそうさせてもらう」
空間のゆがみが出来たかと思えば、そこに手を突っ込んだ。すると、禍々しいオーラを放つ黒い剣を取り出した。その大きさは、バスターソードぐらい。
「こいつは、魔喰いの剣といって、あの方が直々に下さった」
ベルゼブブが剣を一振りすると、空気を切り裂く音が嫌な気分にさせた。
(あの剣は厄介だな。いっそのこと手首を切り落とすか)
「こいつにお前の血を吸わせてやる。それと、あのガキは一生檻の中だ」
「それは叶わない願いだな」
ベルゼブブの右足がピクリと動いた。
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《回想》
俺は、ヴィルヘルム王国の西端にあるクラメント辺境伯の三男坊だ。国境にある俺らの領地は国の防壁であるため、特に武力に特化している。西端には、緑あふれた山々に囲まれており、奥地には、魔物のたまり場がある。
領地の丘の上に古くから守ってきた長い境界壁があり、更に巨大な結界がクレメントの領地を今も守っている。その結界を破り、侵入してくる魔物を討伐するのが俺らの仕事だった。
俺の家系は皆、炎の属性をもっており、代々炎の剣士と呼ばれていた。3歳の頃から剣を握り、厳しい修行に耐え、12歳を迎えると討伐隊に加えられ、さらに辛い修行をした。
代々クレメントの地を守ってきた御先祖様は、口伝えに子や孫に先祖伝来である炎の剣技『神技九の型』を伝授してきた。
俺は二十代半ばでなんとか、八の型まで取得した。うちの祖父もそうだ。
しかし最終奥義の九の型まで出来た人は創始者であるゼリオン・フォン・クレメントただ一人。
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(悪魔にどれだけその技が通用するか分からんが、やってみるしかなさそうだ)
――集中。
俺の腹の中にある炎を静かにゆっくりと剣に乗せていく……。
「一の型《炎の息吹》」
親父からもらった特注のイグニス・ソード。ミスリルから出来た最高品。俺は業火の剣と呼んでいる。やや細身の剣だが、斬れ味はかなり鋭い。ドワーフの優秀な刀鍛冶が炎の妖精と一緒に作ってくれた。ガード部分に炎の魔法石が組み込まれており、俺の炎の魔力を最大限に引き出してくれる。
ベルゼブブからの攻撃。魔喰いの剣を大きく振って、横、斜め左上、斜め右下、突き……剣の振りが甘すぎる。ハンターに毛が生えたようなレベル。余裕で躱せられる。セレーナと地面から出てきたときに感じたが、さっきとは全く強さのレベルがだいぶ下がった。これは、さすがに本人も気付くだろう。
「ふん!!」
すれ違いざまに俺は奴の手首を狙った。思った通りに俺は奴の右手首をざっくり斬り飛ばした。魔喰いの剣は弧を描いて地面に落ちた。
「ぐっ、ぎゃぁぁぁぁぁーーー!!!」
右手の切り傷から炎が激しく吹きあがり、紫色の手が草の上でぴくぴくと動いている。斬ったところから炎が吹き出る。これが一の型『炎の息吹』の攻撃だ。
「なぜだ!? 何が起きたんだぁぁぁ~~!!」
(今だ!!)
「四の型《業火の大蛇》」
右足を軸にして弓矢のように構えた。左手のバックルを前に突き出して、剣先をターゲットに向ける。剣をできるだけ後ろに引き寄せ、高密度の炎の魔力を切っ先に集める。俺は全身全霊で、剣を突き出した。
すると、激昂する業火の大蛇が現れた。炎を纏い、奴をめがけて一直線に飛び出した。
ベルゼブブは右腕をかばいながら後方へジャンプ。空中で左手を広げて【空虚の孔】を発動させようとしたが、まったく反応しない。
「おかしい、おかしい、おかしいぞ!! どういうことだ。俺の唯一無二の能力が!!!」
俺が、炎に包まれた剣を天に振り上げると、激昂する業火の大蛇も真上に曲がり、空中にいるベルゼブブに向けて襲い掛かった。
「くそがっ!!」
全身を後ろにぐんとそらして、業炎の大蛇をギリギリ避けた。俺が剣を左斜めに振り下ろすと、業火の大蛇はすぐに斜めに曲がり、ベルゼブブの行く手を追う。
業を煮やしたベルゼブブは、後方にジャンプしながら両腕を広げると、背中から黒いオーラが一気に広がり、業火の大蛇は闇に包み込まれ、握りつぶされるように、炎が鎮火してしまった。
ベルゼブブの右腕は黒いオーラが絡みつき、傷口の炎を止めた。
(またしても、黒いオーラで炎を消しやがった。でもあれは闇のオーラではない。全くの別物だな)
「ここからは、俺も全力で戦わせてもらうぞ。背に腹は代えられないからな」
俺は、左手に持っていたバックルを投げ捨てた。
挑発だと思ったのか、ベルゼブブは苛立ちを感じたようだ。
「人間ごときが、これぐらいで調子に乗るなよ。悪魔と人間じゃ、体力も魔力も違うんだからな。今度は本気で遊んでやるよ」
「八の型《極炎覚醒》」
エドガーは剣を持っていない左手を伸ばした。
(自分の中の魔力腺を強制的に押し広げ、魔力臓器を膨張させる。自身のリミッターを自らの意思で外すんだ)
体の奥底からマグマのように熱くて、ドロッとしたものが湧き上がるのを感じる。自分から発せられるオーラがヒートアップしている。心拍数が上昇し、体中の汗が飛び散り、蒸気へと気化した。あらゆる血管が膨張し、今にも破裂しそうだ。
すると、左手からゆらりと赤黒い剣が現れた。ガードのないシンプルな剣。しかしこれは俺の生命そのもので、俺のすべてでもある。この剣が折れたとき、俺は死ぬ。
防御力を捨て、攻撃力に全振りしたかなり危険な大技だ。
その【命の剣】を強く握りしめると、俺の体は更に熱く燃え滾る。その剣を振ると、熱波で足元の草が燃え始めた。
俺の準備が整ったと同時に奴も落ち着いたみたいだ。草が燃え、辺りに焦げた匂いを漂わせている。周りが霞みがかってきた。
「はっ、お前、炎の魔力持ちか。人間にしてはやるな」
「すまんな、こう見えて『業火の不死鳥』と呼ばれていたんだ」
「ははははっ、笑わせやがる。人間は一度死んだら終わりなのによ。不死鳥だなんて馬鹿だな」
「そうだな。その馬鹿が今、お前を倒すんだ」
「お前のちびが、我の両手の能力を消したとしか考えられない。だとすれば、上半身は使い物にならん」
ベルゼブブは冷静になったのか、ぶつぶつと独り言を話し、ジャンプをし始めた。
「だが、お前みたいな奴は片足一本でも十分だ」
俺は先手を打つことにした。
「伍の型《隠れ炎》」
俺は剣舞を舞うように剣を縦に振ると、背丈ほどの炎をいくつも出現させ、辺りを炎で取り囲んだ。周りは一瞬で炎の明るさに染まった。
「馬鹿め、俺をこんな炎に囲んで何になる!!」
いきなりベルゼブブの左足が襲う。
ベルゼブブのひと蹴りで風を斬り、周りの炎が大きく揺れ動く。
「なに? 手ごたえがないだと⁉」
ベルゼブブは俺の陽炎を攻撃したのだ。
【命の剣】を振り下ろすと、空気が熱せられ、炎と化した。
「見つけた!! ここか!!」
ベルゼブブが大ジャンプをして、竜巻のように旋風蹴りを繰り出すも、またしても陽炎だった。
「出てこい! クソ人間、卑怯者!!!」
ベルゼブブの背後で静かに接近していた俺は、腕を切り落そうとしたが、ほんの僅か殺気が漏れたのか、奴の右足が俊敏に刃先をはじくと、右足の靴が一気に燃え出した。
瞬時に俺は体幹を捻らせ、反対側の【命の剣】でベルゼブブの腹部を狙うも、奴は胴体を後方にのけ反った。反動で奴の左足が動き、俺の剣をまたしても、はねのける。当然、剣に触れた左足の靴も激しく燃え出した。
グリップを握り直し、一旦後ろに立ち退く。強さが半減されたとはいえ、奴の身体能力の異常さに驚いた。
「おい、我のお気に入りの靴をボロボロに燃やしやがって!!! テンションを下げんじゃねーぞ」
ベルゼブブは、ボロボロになった靴を脱ぎ始めた。軍服のズボンの半分は太ももからちぎれ、裸足の状態だ。みっともないと言えば、みっともない。
「はははっ、このままでいいじゃねぇーか。今のお前にぴったりだ。偉そうに見せかけだけ小綺麗にしていても、やっぱり愚図なお前はそういうダサいのが似合うんだ」
観客の男は腹を抱えて笑っている。本当に奴の味方なのだろうか?
「チッ――次は我のターンだ」
奴の雰囲気が変わった。
体中から禍々しい黒いオーラを一気に解き放つと、右足で地面を踏んだ。すると、とんでもない力が働き、この一帯に衝撃を与えた。
《ボゴォォォォーーーーン!!!!》
反動で、地面から土煙が一気に舞い、周りの視界を悪くさせた。取り囲んでいた俺の炎が衝撃波で一瞬に消え、一面の大地が波のようにぐらりと揺れだした。
金曜日ですが、明日の夜22時10分に投稿します。




