第三十九話 生きるための戦い
誤字脱字がありましたら、修正、再編集させてもらいます。
★長いけど、読んで欲しいです。
「痛っ!!」
私は、強くお尻を地面に強打した。
目の前は真っ暗で何も見えない。ただ、土の匂いが強い。
「――ちびのくせに、よくここまで俺を追い詰めたな」
(ベルゼブブの声だ!! でも声だけで何も見えない)
「季節を変えたり、精霊を操ったり、巨大な氷の塊を落としたり、どえらい魔力をもって生まれてきたんだな。お前」
「これは、転生する前に女神から授かった能力だよ。生き残るための能力」
(なんとか、時間を稼がなきゃ)
「ふふふ、お前の氷山のおかげで地面に隠れることを思いついたんだ。そこは、感謝するぜ」
(私が、カッとなって悪手を選んでしまった。クロードー様の言う通りだ。情けない、失敗だった!!)
「この穴の土も俺の【空虚の孔】で喰ってやったんだ。本当なら、お前の氷山を喰ってやろうと思ったが、光属性があるかもしれないし、邪魔くさい雪がこの孔に入っては面倒だしな。穴を掘って正解だ」
私は左手に聖なる明かりを灯した。ベルゼブブが一瞬体を固くしたのを見逃さなかった。本当に光属性が苦手だと。
(シルフリード、私、地面にいるわ。今、アイツと一緒にいる)
《クソっ!! いいか、ヤツを刺激するな。逃げることを考えるんだ!!すぐに――》
「お前、今誰かと話をしていなかったか?」
思念が途切れ、肩がビクンと動いた。
「はっ、どうせ今のお前じゃ俺を倒せない。殺されたくなければ大人しく俺についてくるんだ」
(どうせ、すぐ殺すくせに……)
「どこに行くつもり?」
「このまままっすぐ進んで、お前が作った雪のドームから外へ出る」
「嫌よ」
(ついていく方が悪手だ。できるだけ、こいつを居させないと)
「あなた、ヘルメスと話をしていたでしょ? ヘルメスはこの戦いを天界へ中継しているみたいだけど」
「それが、どうした」
「天界のどこかにあなたが崇拝する邪神がいるってこと?」
ベルゼブブは目を見開いた。すると右腕がゴムのようにぐんと伸び、いきなり私の首を片手で掴んで持ち上げた。持っていた聖なる明かりが消え、真っ暗闇の中、首を絞められた。
「……様だ」
「ぐっ……何が?」
「お前のようなゴミくずが、あの方のことを『様』なしで、呼び捨てにするなぁ!!!」
肌に指が喰い込んで、苦しすぎて意識が飛びそうになる。しかし、私は痛みよりも理不尽さによる怒りの方が上回っていた。意識を失いそうになりながらも、素早く首を掴んだ指先を小さな両手で押し広げると、自分の体内にある魔力を奴にぶつけてみた。
――魔法の本に書いてあった。魔力腺は、体の隅々まで張り巡らせており、末端から魔力を放出されると。
私の両手から勢いよく光と氷の魔力が一斉に流れ、奴の指先から白銀に光る【浄化する氷】が侵食していった。反射的に奴は手を振り払おうとしたが、私はその手を絶対に離さなかった。
「ぐわぁ!! このちび、なにしやがるんだ!!!」
これを機にどんどん魔力を送り込む。奴の魔力で押し戻そうとしても、私の無限の魔力には敵わなかった。
ベルゼブブはたまらず、空いている片方の手で、私のお腹をめがけて攻撃してきた。瞬時にそれに反応し、小さい両足で奴の左手をがっちり抑え込んだ。
私は体の隅々まで魔力を開放した。人間ドライアイスのように。すると、両足で抑え込まれた奴の左手が【浄化する氷】で凍結し、どんどん侵食していった。
体内の細胞レベルで凍結させ、血液は末端からシャーベッド状態にどんどん冷やし、血の流れを遅くさせた。光魔法で滅菌浄化させながら、肩へと凍結させていく。
「痛ってぇぇぇ~~!! ううっ、……クソガキが……殺して……」
「うっ……悪魔の本質は悪なんでしょ? 己の本能を満たすことじゃなかったっけ? 自分本位で我が儘なのが悪魔でしょ? そんな悪魔が自分以外の誰かを敬うなんて」
「うるさい!! 悪魔を馬鹿にするな、お前に俺の忠義が分かるまい!!」
「忠義って……。忠義とは、自分が尊敬している人に対して心から誠実に従い、貢献することを言うのよ。 誠実? 貢献? 自分本位な悪とは真逆な言葉じゃない」
【浄化する氷】で、すでに凍りついた両腕はもはや動かすことが出来ず、足は力が入らないのか、足が痙攣で震えているのが分かる。光属性に対する拒絶反応。
「……俺の貢献とはこの星の生き物を食べつくすこと!! 誠実とはあの方が描く滅亡の未来をお手伝いをすることだぁぁぁぁ!!」
両腕を塞がれたベルゼブブは口から深淵の唾を吐き出した。私の顔にそれがかかる。しかし、それは予防済み。完全なる四大防御を事前に施していたため、それはすぐに浄化していった。
「がばっ、……馬鹿な⁉……ゔゔゔゔっ、冷たすぎて……ぐっぐるしい……」
「あんたがどう言おうと、私の大切な家族を食べようとしたことは許さない!! 許されないことをあなたは楽しんでいるの」
私の魔力はさらにスピードを上げて上半身を侵食していった。奴の肺機能を凍結させ、さらに浄化させる。
「ヒュー、ヒュー、ヒュー……。あっ、……息が……くっ、苦しい……」
ベルゼブブは膝をついた。体は大きく震え、奥歯をガチガチ鳴らしている。
黒いオーラは、ベルゼブブの危機に反応し、背中から噴き出すように現れた。怒り狂ったように、私に襲いかかろうとしたが、冷気を漂わせている私に近づいただけで、黒いオーラは灰色の結晶に凝華し、ぐしゃりと地面に落ちはじめた。黒いオーラは私に触れられない。それでもなお、黒いオーラは襲いかかる。地面には灰色の雪が積もった。
「そっ……そんな、馬鹿な!! 邪神様のオーラが効かないとは!!!」
私は、ベルゼブブの心臓部に襲いかかった。ベルゼブブの心臓の鼓動が速くなっているのが振動で分かる。
(もっと、もっと、もっと、もっと、もう少しで心臓部だ!!)
――体全体が痛い。魔力腺が浮き出るように膨張している。手足の皮膚が葉脈のように網の目になっていた。魔力は上限ないけど、マナは違う。人間の気を司るマナは有限で、そろそろ限界が見えはじめた。
じっと耐えていたその時だった。真上から大量の土が落ちてきた。その土は私を避けるように落ちてきたのだ。
《死なないで、死んじゃだめだ》
《外へ出て、早く》
暗くてよく見えないが、精霊のような気配がする。
「セレーナ!! 待ってろ。今、出してやるから」
苦しい表情をしたシルフリードが風操作で私を救出してくれた。奴から離れた時点で、魔力は途切れ、辛うじて動けるようになったベルゼブブもよろよろと倒れ、しりもちをついていた。
外に出てくると、とっくに雪は止んでいて、ドームも解除されていた。ヘルメス達が設置した光球が辺りを照らしていた。満月は、西の二時方向に鎮座していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、あああああああっ~~、くそったれのガキめ!! 酷い目にあったが、やっと外へ出られた。あの忌々しい雪が短時間でなくなって良かった。ゔああぁ〜〜、せいせいするわい!!」
ベルゼブブはゆっくりと、穴から浮上すると、空中で静止したまま、凍った上半身を、黒いオーラで溶かそうとしていた。
私はシルフリードに抱かれたまま、胸の動悸が止まらなかった。あのまま奴を殺せたはずなのに、なぜ途中で止めてしまったのか、理解できなかった。
「土の精霊がお前を助けてくれたんだよ。ここで、止めなかったら奴は死んでいたと思う。でもな、お前も危なかったんだよ」
シルフリードは悲しい顔をして、指先を私の鼻に触れた。シルフリードの綺麗な指に血がついている。鼻血が出ているのにちっとも気が付かなかった。
「一緒に幸せに生きたいって言ったじゃないか」
「あっ……」
私は何か大事なことを忘れていた。
――私が死んだら、シルフリードは消滅する。
「俺たちは互いに特別で必要じゃなかったのか?」
急に胸が痛くなって、目頭が熱くなってきた。
「奴をやっつけるために死ぬんじゃない。生きるために奴をやっつけるんだ」
「生きるために……やっつける」
「そうだ。それにしても、危なかった。まさか、お前が自分の命を投げ打ってまで攻撃するとは思ってもみなかった」
シルフリードの指は、私の涙に触れた。
「家族のために、命捨てんなよ」
「ごめん、シルフリード。私は―――」
これが天命だからと言って、どこかで気負っているところがあった。怖いけど、自分がやらなければならないと。でも今は前世とは違う。私は一人じゃなかった。私はシルフリードの命も背負っているんだ。自分勝手な責任感で自己犠牲になることは、シルフリードを殺すのと一緒だ。そんなこと……嫌だ!!
「……本当にごめんなさい」
「ふふっ、分かればいいんだ」
いつもの明るいシルフリードの表情に戻った。私が一番好きな顔。
私は涙に濡れた目を擦って、シルフリードから視線を外した。すると、その先で元の体の状態に戻ったベルゼブブの視線が私に止まる。
「この辺でそろそろ俺も本気でいかせてもらおうかな」
首を左右に揺らして、骨をゴギッと鳴らした。
「お前の前で、大事な奴を一人一人、殺してやるよ」
ベルゼブブは私をじっと見て、親指を首に充てて横に引いた。そして長い舌を出して、ベロリと薄い唇をなめ回す。
女神からの頂いた能力。悪意に反応する超直感が働いた。
「シルフリード、後ろ!!」
ベルゼブブは目の前から姿を消すと、急にシルフリードの背後に現れ、背中に重い蹴りを繰り出した。シルフリードは、私を守るために胸に抱きかかえて、背中を丸くした。
《ドゴォォォーーーーン!!!!》
実体化しているシルフリードは、普通の人間のように怪我もする。強力な蹴りが入る前に空気防御を発動させた。
私はシルフリードの胸にしがみついたまま目をギュッと瞑った。重力がかかり、押しつぶされそうだ!!
牧草地にぶつかり、私たちは重なるように転がると、ようやく光の聖域の前で止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ………おい、大丈夫か?」
シルフリードの手が私の頬を撫でた。
気が付けば、仰向けのシルフリードの上に私が寝そべっている。シルフリードの髪が葉っぱだらけだ。
「大丈夫じゃないのはシルフリードでしょ? 背中、痛くなかった?」
私は立ち上がると、横になったシルフリードの背中を擦った。
「まあ、少しな。でもギリギリセーフだ」
光の聖域から自警団たちと治癒師の男が慌てて、近寄ってきた。
「おい、お前たち二人、大丈夫か? 怪我はしてないか?」
「あっ、団長さん、皆さんも。あと、そこの治癒師さんも」
「へへっ、僕のことは、カノンでいいよ。君、凄い光属性を持っているね。あんなの見たことなかったから驚いたよ」
私は、ベルゼブブと一緒にいるお父さんが、気になって仕方がない。
「もしも、私たちに万が一のことがあったら、申し訳ないけど、治療をお願いしてもいいですか?」
セレーナは、カノンさんに頼んだ。
「僕は中級治癒師になりたてだけど、もしものことがあれば、できる限りの手を尽くすから」
シルフリードが不機嫌そうに体を起こした。
「いや、必ず治すと言え」
シルフリードがカノンさんを睨みつける。
「こんなときに、冗談言っている場合じゃないよ。早くお父さんの元へ戻ろう?」
私はシルフリードの腕をぎゅっと掴んだ。
「馬鹿か、お前はもう無理だ。体がボロボロだろ? 隠しても、もう限界がきてるはすだ。違うか? お前、あいつにどんな攻撃をした?」
「地面の中にいたとき、あいつに首を絞められて、思いっきり、魔力を流してみたの。そしたら、両腕が凍り出して、苦しがっていた。肺を通り越して、もう一歩で心臓に触れられるところだったのに……」
それを聞いた自警団のみんながざわついた。
「そしたら、お前まで死んでいたな」
シルフリードの言葉にぐうの音もでなかった。
「でもな、そのおかげで、土から出てきたときの奴の戦闘力がだいぶ変わったんだよ。もしかしたら、エドガーといい勝負かもしれない。ここは手出ししないで、一度見守ってみよう」
「見守るって、そんな、一緒に戦った方が――」
すると、ハドソンさんが、私の肩を優しく叩いた。
「おじさんも、エドガーなら大丈夫だと思う。奴はかなり強いからな」
「そうだぞ、セレーナちゃん。お父さんを信じな」
ジークが私の頭を撫でる。
「ここからじゃ遠いから、見える所まで行こう」
シルフリードは、私を抱っこした。
明日の夜22時10分に投稿します。
もし、よければご感想をお聞かせください。




