第三十八話 反撃開始!!
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「……お前がこいつの親か。丁度いい。お前の目の前で息子が血だらけになるのを絶望しながら眺めるがいい」
お父さんは膝をガクンと落とした。
ベルゼブブは、ぐったりしているレオの頭をかじろうと、醜い口を大きく開けた。怒りに震え、私の中でなにかが弾けた。
「聖なる力で悪を貫け。彗星の矢」
――光速の一撃!!!
約150メートル先のベルゼブブの右太ももに彗星の矢が命中した。
「ぐわあああぁぁーーーー!!!!」
本当に光属性に弱いのか、右足が大きく震え、痙攣を起こしているように見えた。
レオをその辺に投げ捨て、ベルゼブブは彗星の矢を取り除こうと躍起になる。
―――そんな時、ようやく【聖なる雪】が静かに舞い降りた。
光属性と氷属性が混ざった綿雪が一つ二つ頭に触れるだけで、ベルゼブブは奇声を上げた。すると、またあの黒いオーラが現れ、ベルゼブブを囲うように雪から身を守った。
黒いオーラが、聖なる雪に触れると、そこから黒い灰が吹き上がるようにチリチリになって、消えていった。静かに降る聖なる雪に、黒いオーラは更なる瘴気を放ち、必死で耐えているかのようにも見えた。
ベルゼブブは、そんなこと気にも留めずに、右足に刺さった彗星の矢を取るのに夢中になっている。
ちらりと空を見上げると、ネイコスは、黒い大きな傘を片手に相変わらず、ソファーでじっとベルゼブブを凝視していた。
「はっ、偉大なる邪神様は、おろかな悪魔にさえ、我が子のように、御身を挺して守ってくださるとは!!」
ネイコスが声を上げた。その表情は頬を染めて、興奮している様子だった。
(あのオーラは、邪神様のオーラってことなの?)
シルフリードが素早く【風操作】でレオを捕らえると、すぐさまお父さんの元へ移動させた。
お父さんはレオを強く抱きしめた。相当怖かったに違いない。お父さんは、自警団の仲間にレオをお願いして、剣を握りしめ、ベルゼブブの元へ駆け出した。
(フルーラン、お父さんが、走り出した。みんなを救出するよ。あの鳥かご全部斬ってしまって!!)
フルーランが再び大太刀を構えると、「水圧一閃」と言い放ち、勢いのままに横に振り斬った。
すると、鳥かご4ついっぺんに横に切り取られ、つかさずシルフリードが上半分の鉄の鳥かごを風で吹き飛ばした。
慌てたベルゼブブだが、右足の矢がなかなか取れない。人質救出の邪魔をしたくても、【聖なる雪】のせいで、思うように動けない様子だ。
「風の結界」
子供、女性全員を丸ごと【風の結界】に包み込んだ。見た目、巨大なシャボン玉の中に子供たちが入って浮かんでいるようだ。その巨大シャボン玉が4つ、ふわふわと聖域の所まで移動させることに成功した。
安全なところに着くと、風の結界が消えて、自警団のみんなは、子供たちを抱えて、光の聖域の中へと入っていった。ここには、治癒師もいるから大丈夫だろう。
広大な牧草地に【聖なる雪】がしんしんと降りそそぐ。その真っ白な雪はまるで白い花びらのように見えた。その中で広大な牧草地をお父さんがベルゼブブに向かって走っている。
私も家畜小屋の屋根から飛び降りて、お父さんの後を追っかけた。
(フルーラン、シルフリード、接近戦だよ。私もお父さんの後を追いかける)
「あれ、これは?」
私は靴に灰がついているのに気が付いた。
聖なる雪が、落ちている死骸の上に触れると、さらりと白い灰になって崩れ去るのを目の当たりにした。
「!!!」
死骸の白灰の中から、チリチリと小さな丸い光が、ゆっくり浮かび上がった。その丸い光がふんわりと開くと、小さな光の花となった。その光の花は、クルクルと舞いながら、空へ上昇していった。
その一部始終を見終わった私は、立ち止まって辺りを見渡した。
牧草地を埋め尽くす一万もの死骸が、灰と化し、次々と無数の光が出てくると、光の花たちは、一斉に空へ昇っていったのだ。空を埋め尽くすほどの光の花が、上空でダンスを踊るように優雅に昇っていく。
その見たことのない景色に、私も、お父さんも、ここにいるすべての人たちも立ち止まり、空を見上げて、呆然とした。魔物の魂は浄化されたのだろうか?
「敵対していた魔物にも慈愛の光は、なんでこんなに寛容なの……」
そう思うと、なんだか胸が揺さぶられるようだった。
ベルゼブブはそんな光の花には目もくれず、足に刺さった彗星の矢を諦め、仕方なく自分の右足を手刀で斬り取った。そして、足の付け根からブクブクと新たな右足を再生させてしまったのだ。ちぎれたズボンは再生しなかったが。
「ちっ、クソガキが!! かっこ悪くなってしまったではないか!!」
「ははははっ、てめぇには、これぐらいが似合っているさ」
「冗談言わないで下さいよ。ネイコス様。あれ、一張羅だったのに」
お父さんがベルゼブブにかなり接近している。今のベルゼブブは、降りしきる聖なる雪には触れられない。だから、反撃のチャンスは、今。雪がやまないうちにやっつけたい。
私は走るのを途中で止めて、もう一度ベルゼブブに、彗星矢を放つ。
しかし、直感で気付いたか、二度はないと言わんばかりに、ギリギリのところで避けられてしまった。
お父さんが、ポケットからある物を取り出して、それをベルゼブブに投げつけた。
それがベルゼブブの黒いオーラをすり抜けて、バリバリバリと反応し、瞬間的に雷の檻がベルゼブブを捉えた。これにはベルゼブブも予想してなかったようで、目を丸く見開き、お父さんを睨みつけた。
「人間のくせに小賢しい真似しやがって!!」
(あれは、確かお母さんが、お父さんにこっそり渡した物に違いない)
ベルゼブブの怒りの感情に余裕のなさが伺える。
(やっつけるチャンス到来)
シルフリードが黒いオーラにむけて、光属性の真空斬りを放った。それと同時に、お父さんの剣からベルゼブブに向けて業火が噴き出す。
ベルゼブブの後ろから覆うように噴き出した黒いオーラは、雷の檻をすり抜け、業火を呑み込んでしまった。しかし、光属性の真空斬りには耐え切れず、一部浄化された。
しかし、ベルゼブブから漏れ出る黒いオーラは次から次へと溢れ出し、雷の檻ごと包んでしまった。
悪意の超直感。雷の檻が壊される!! 次の攻撃を仕掛けてくる!!
「お父さん!!」
黒いオーラからいきなり大岩が飛び出してきた。【空虚の孔】から、先程飲み込んだ、半分に割れた大岩を飛ばしてきたのだ。
唖然とするお父さんの前にフルーランが現れた。フルーランは水流剣を両手で持ち、身構えた。
「水竜巻斬り!!」
「了解!!」
水流剣から大量の水が発生し、急速に水竜巻を作り出し、大岩と水流剣がバシャン!!と衝突した。
《ゴゴゴゴゴゴゴッーーーーー!!!》
半分割れた大岩は、天高く踊る水の竜巻に飲み込まれ、水中で高速回転しながら、削り取られ、あっという間に、大量の玉砂利へと変化した。
その様子を見て、ベルゼブブは面白くないとばかりに、次々と【空虚の孔】から、呑み込んだ大木をどんどん飛ばし続けた。
お父さんも、避けるのに必死だ。シルフリードが風操作で、飛んでくる木を避けて、フルーランも、【水防壁】で対応している。
「私のお父さんに、あんな大岩をぶつけようとするなんて、許せない!!!」
怒りがMAXになった私は、離れたところから杖を天にかざした。
「高潔な氷山で、悪意を叩き潰せ!! 氷山落とし!!」
上空に銀色に光る巨大な魔法陣が現れ、そこからゆっくりと巨大な氷山の一角が現れた。その全貌が現れると、容赦なく、手にした杖を振り下ろした。
落下する氷山の塊は、スピードを上げ、まるで隕石でも落下するような迫力があった。ネイコスの横をぎりぎり通り過ぎると、ベルゼブブに衝突した。
〈ドゴォォォォーーーーーン!!〉
――腹の底から響くような轟音――
辺りは立ち上る土煙で視界が悪くなり、巨大な氷の塊は、轟音を立てながら、形を崩した。四方八方に氷の破片は大きく飛び散りった。
《焦るな、馬鹿!! セレーナ、お前正気か? 危うく、俺やエドガーが氷山の破片にやられるところだったんだぞ!!》
シルフリードがお父さんを【風の防壁】で退避させていた。フルーランも怒っている。
「はぁ、……はぁ、ごめんなさい。奴はどうなった?」
クロートー様が空中でこちらにカメラを回し、リポートしている。
「興奮状態になったのか、セレーナちゃんは、巨大な氷の塊をベルゼブブにぶつけました。ご覧になりましたか? とんでもない魔力でしたが、焦って潰すよりも、あのままじりじりとあのバリアを壊した方が、かえって良かったんじゃない?」
その言葉にイラッとする私。
土煙が落ち着き、私たちは氷山の近くまで来てみる。すると、氷の下にはもう一つの大岩が土にのめり込んでいた。
奴は、あと半分大岩を盾にして、衝突を回避したんだ。なら、今どこに隠れている?
「おい、構えてろよ」
シルフリードが私の前に立つ。
まだ奴は現れない。緊張しながら、辺りを集中する。その時、氷山の破片がガタガタと動いた。
誰もが、注意深く辺りを見回す。
いきなり、何かが私の足を掴み、どこかへ瞬間移動させられてしまった。
明日の22時10分に投稿します




