呪いの宝石について
町の住宅地区から数キロ離れた、古びたアパートまで一心不乱にアクセルを踏み続けた。
「よしよしよしっ! 好きなところに停めていいぞ」
助手席で興奮気味に白い手を叩いたロックは、ひび割れと消えかけの白線を指す。
アパートの壁に備え付けた弱いライト以外に頼りがなく、とりあえず敷地内に駐車する。
まだ、内臓が震えてる感じが残っていて、気持ち悪い。
「クソっ、あんな爆発させるなんて聞いてねぇ! あの少年だって――」
「なんでぇ、派手な方が楽しいだろ? 上手く行きゃマルセル・ファミリーはよそから来たギャングと睨み合うことになる。宝石に集中できる、心配するなよ、捕まりゃしないぜ」
「そりゃ、そうだが!」
「まぁまぁとにかく、無事だったことを祝ってディナーにしようじゃないか」
深夜0時を過ぎてるってのに、ディナーなんか食べる気にもならない。
札束がパンパンに入ったボストンバッグと、他にもリュック、箱をアパート2階の一室まで運んでいく。
このアパートは、ロックの家なんだろうか、他に誰かが住んでるようには思えない。
車だって、ロックの愛車以外見当たらない――。
――兎男がサーロインステーキを食べている。
冷蔵庫には数日分の牛サーロインステーキ、冷凍庫にも入ってるほど筋金入りのステーキ好きらしい。
どうにも頭の中がこんがらがってしまう。
こいつの頭部は紛れもなく兎だ。真っ直ぐ伸びた長い耳、赤い円らな瞳、白い毛並み、丸みのある輪郭。だが、目線を下げていけば、似つかわしくない等身とブラックスーツを着てるんだから余計に混乱を招く。
似合わないと言ってるわけじゃない、野原を歩く小動物のはずが、人間と同じ背格好をしているのが、どうにも慣れない。
かく言う俺の前には、ヨーグルトとドレッシングなしのサラダが並ぶ。
「ちょうど余ってたサラダとヨーグルトがあって良かったぜ」
スプーンに映る、黒い被毛の狼男を眺める。
改めて俺なんだな、この狼男は……サラダを大きな口に運んだ。
味覚も、嗅覚も正常。妻が作った愛情の欠片も感じられない物より、美味い気がする。
ナフキンで口を軽く拭いたロック。
「これからどうすんだ」
「いつも通りさ、夜になったら動く」
「動くって何すんだよ」
「便利屋もタダじゃない、情報の見返りに部品集めをする」
「部品集め?」
「廃屋に入り込んでジャンク品を集める、特に商業区の使われなくなったビルにはたくさんお宝があるんだぜ」
「結局泥棒すんのか……」
温いもんさ、と小さく笑いやがる。
「ところで、アンタがベジタリアンとは思わなかったな」
「狼だからって俺は肉食じゃねぇよ、あとベジタリアンってわけでもねぇ、若い時に比べて脂の多い食べ物を受け付けなくなったんだよ」
「おーぉ……」
触れにくそうなリアクションやめろよ、くそっ。
「お前こそ見た目のせいで肉食だと思わなかった」
「ははっ牛ステーキが特に好きなのさ。そうそう、呪いについて話をしとかないとな」
短期間に色々あり過ぎて、真面目に話をする機会がなかったのは確かだ。
「獣人になったことのメリットは身体能力が上がった。じゃあデメリットはっていうと、今のところまだ分かっちゃいない。兎の獣人になってから数年経過してるが、何ともない」
「そ、そうか」
今すぐどうにかなるってわけじゃないなら、一安心できるな。
「何せ獣人になったケースは2件だけだからな。数少ない例で分かったことは、まず女神像から直接宝石に触れた奴は獣人になる、女神の手から離れた宝石に触れた奴は獣人にならない」
「まぁ、そこは最初に聞いた、気がするな」
「そうだったか? まぁいいさ、後者の場合、身の回りで不幸が起きる。過去の歴史を振り返れば身内が死んだり、会社が倒産したり、大病を患ったり、それはもう散々なことばかり。回りまわって最終的に宝石は女神像の手元に戻っていき、新たな犠牲者を待ってるわけさ」
なんか、獣人になるより怖いじゃねぇか。
ただ、そういう歴史があるなら、獣人だっているはずだ。なのになんでこの町で一度も話題に上がらないんだ?
「お前が獣人になった時は、宝石どうしたんだ?」
「アル坊に一度見てもらったが、結局呪いの解明には近づけなかった。呪いが原因か分からないが、アル坊の父親が突然病死してな、一旦返すことにしたのさ。それで、準備が整ったところでまた取りに行こうとしたら、今に至る」
遠回しに俺が邪魔したって言いたいのかよ……。
続く




