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「サクラ様? その……お話がある、でいいんですか?」
「うん。ごめんね、メモも渡さなかったから、わかりにくかったよね」
いつも騎士を呼ぶときと同じ感覚でイリューザーを遣ってしまったが、ラツィアには判断に困っただろうと、今更ながらに気がつく。間違ってなかったことにほっとしたように、ラツィアは笑顔を見せた。
「ラツィア、この間の夜中の騒動、覚えてるか」
シェダルは立ち上がると、目線を合わせるようにラツィアの前に片膝をつく。
「はい」
「あれは、お前を取り返しに来たパッシバルの飼い犬だ」
「────っ」
瞬時に真っ青になり、ラツィアの紅茶色の瞳がサッとサクラを見る。カタカタと小さく震え始めた彼女がぎゅっとドレスを握りしめるのに、シェダルがその手を取り、視線を自分に向けさせた。
「俺たちは帰すつもりはない。だが、相手は公爵だ。強さだけの戦いなら負けるつもりはない。が、立場を盾にされれば、そうもいかねえこともある。だからラツィア、嬢ちゃんの……セルシアの、従騎士になれ」
「従騎士……? それって」
「剣を握れってことじゃねえ。そうすることで『セルシアの所有物』としての立場を得られれば、パッシバルは手が出せなくなるからだ」
シェダルの説得に、ラツィアがサクラを見る。サクラが頷いて傍に行けば、シェダルは横に避けて場所を譲り、ラツィアを見守った。
「従騎士になったからって、騎士になれってことじゃないよ。ラッツィーがお医者さんになりたくて頑張ってるなら、それを応援したいし。今の生活を変えることもしなくていい。ただ、形だけでいいから、誓いの言葉をちょうだい。そしたら、必要なときに、誰の目にも見えるような印を、ラッツィーにあげられる」
「サクラ様の、印……?」
そうして従騎士と認識しているクレイセスを見るが、彼は紙に何かを記している最中だった。しかし視線を受けて顔を上げ、ラツィアに微笑む。




