表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の欠片 ―黒衣のセルシアⅣ―  作者: 吉野衣織
Ⅰ真夜中の凱旋
19/31

19

 そう言うと、狭い通路の中、うしろに控えていた家令が(うやうや)しく、トレーに載せた(さかづき)を差し出した。


「なんのつもり?」

 毒杯と察して、メイベルは二人を見る。


「あなたは、やり過ぎたのです。王より我が(いえ)に温情を賜りました」

「温情?」

「私があなたを始末し、繋がっていた者たちを差し出せば、『家』は不問にすると」


 その言葉に、メイベルは「あっはははははは!」と高らかに笑う。


「なあに、それ? あなたは今後、王の犬になるとでも言うの?」

「そうせざるを得ない道を敷いたのはあなただ!」


 夫の面影を残した顔が、憎しみだけを露わに見つめる。


「正直、清々しますよ。ずっとあなたを殺したいほど憎いと思っていた。私を可愛がるその裏で、あなたは私の母を殺し、父が守った『家』を(あざむ)いた。それを知ったときの衝撃など、あなたにはわからないでしょうね。貴族など、本来皆『王の犬』です。多くを守れるのなら、私はそれで一向に構わない!」


 それだけを言うと、肩で鋭く空を切るように(きびす)を返し、彼は迷いのない足取りで去って行く。家令は毒杯を載せたトレーを鉄格子に寄せて置くと、彼もまた、なんの迷いもなく去ろうとするのに、メイベルは思わずその手首を掴んだ。


 しかし。


「お別れです、大奥様。潔く、果てられますよう」


 老年に差し掛かった家令はしかし、メイベルの握力などものともせずにくいっと手首を取り返すと、訣別の空気と灯りを残して去って行った。




(────許さない)


 メイベルは、怒りに震えた。


 こんな(さかづき)など、絶対に飲んでやるものか。

 自分を(たっと)んでくれない世界なんて、そんなもの、滅んでしまえばいい。


 蝋燭(ろうそく)の揺らぎだけが「変化」の空間で、メイベルは杯から距離を置くように牢の(すみ)に行くと、膝を抱くように座る。ギリギリと爪を噛みながら、甘い芳香を放つ、毒杯を見つめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ