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「後宮廃止は、サクラも支持してくれている。サクラがいずれこの世界を去ることはもちろん伏せているが、貴族たちだけでなく元老院からも、フィルセインになんらかの手を打たれる前に、セルシアを誰かと添わせるべきだとの声が上がっているんだ」
民からの嘆願書まで届き始めている、と言うハーシェルに、バララトの眉間は深くなる。
「具体的に名が上がっている人物は、もういるのでしょう」
「ああ。王族に近いという意味では、クレイセスを推す声がある。その一方で、アリアロス家がこれ以上強大になることを懸念する一派もある。そいつらは、むしろ従騎士となったガゼルが妥当という意見だな。ほかにも何人か、十代から二十代の貴族の名前が挙がっている」
ハーシェルの説明に、頭が痛い……とバララトが呻くように言った。
この世界における貴族の勢力図、それを考えたときにアリアロス家は筆頭だ。有史以来の古い家柄、それに加えてクレイセスは王族出の母を持つ。自身が団長として、この世界で最大規模であり最強を誇るセルシア騎士団を掌握している今、セルシア自身との婚姻ともなれば、もはや王と対当視されてもおかしくはない。実際、ハーシェルが出奔し、直系の王族が王都に皆無だった時期には、クレイセスを担ごうとする一派もいたくらいだ。
アクセルはともかく、バララトは当時の一連を、王都において見ている。クレイセスが危険視される理由は、理屈でなく理解出来るだろう。
そして今回、メイベルを公に処断するとすれば、貴族の責務を汚した罪を、「家」に問わねばならない。いくら「セルシア騎士団」の功績であると言っても、それを率いているクレイセスの──ひいてはアリアロス家の手柄と見る感情的な部分を、止めることは出来ないのだ。
バララトもアクセルも、クレイセスが即座に断らなかった理由を理解したようで、セルシア騎士団がそういった立場の貴族を団長として持つにあたり、どう泳ぐべきかの模索を始めた雰囲気を、ハーシェルは見て取った。




