表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オール5の落ちこぼれとクビにされたけど、俺のスキルは"好きなだけ極振り"できるらしい 〜表示は最弱、中身は無双。誰も俺が"名無しの怪物"だと気づかない〜  作者: りおりお
第2章「C級『蟻王の巣』の蹂躙と『名無しの怪物』爆誕」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/15

第15話 レベル100への渇望

 俺のレベルは、ここしばらく80から一歩も動いていない。


 彷徨いの森を根こそぎ枯らそうが、その先の魔物をどれだけ狩ろうが、数字は80で凍りついたままだ。倒した分の経験値は相変わらず、画面の裏の"ダム"へと静かに流れ込んでいく。


 だが最近、そのダムの水位の上がり方が、どうにも鈍い。


 理由はわかっている。俺にとってD級はもう、格下になりすぎたのだ。


 いくら格下の魔物を潰したところで、入ってくる経験値は雀の涙。首の賢者のアミュレットが五割増しに膨らませてくれたところで、元がしょぼければ大した足しにはならない。あの重たいダムを本気で満たしたいなら、もっと歯応えのある格上を狩るしかない。


 それに――正直に言えば、だ。


 この80で止まった数字が、俺はどうにも我慢ならない。


 強くなること。レベルが上がること。それそのものが、俺には理屈抜きで面白いのだ。数字がひとつ跳ねるたび、体の造りそのものが作り替えられていく、あの感覚。ずっと最弱と侮られてきた反動か、元からそういう性分なのか。とにかく天井にへばりついて足踏みするこの感覚が、むず痒くて仕方がなかった。


 もっと上へ。もっと強く。できることなら早く三桁――レベル100の大台に手を掛けたい。それが今の俺の、ささやかで貪欲な目標である。


 その渇きを満たせる場所は、一つしかない。


 つまり――次の狩り場は、とっくに決まっている。


 C級ダンジョン『蟻王の巣』。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 街道を、俺は軽い足取りで進んでいく。


 腰には先日ようやく手に入れた白銀のスチールセイバー。歩くたびに鞘が腰で小気味よく揺れ、ベルトに規則正しく重みを預けてくる。まだ本気で振ってはいないが、こいつが俺の極振りにどこまで耐えてくれるのか、正直ちょっとした楽しみだった。


 まあ、どうせ長くは保たないだろうが。


 所詮、俺の一撃に最後まで付き合える得物なんて、この世に存在しない。だが、それでいい。折れるまではせいぜい、良い相棒でいてもらおう。安物のアイアンソードが一日で砕けたあの頃を思えば、こうして憧れの一本を腰に下げているだけでも、上等な出世だ。


 首元では、賢者のアミュレットが胸に冷たく馴染んでいる。歩調に合わせて宝玉が鎖骨のあたりをことりと叩く。ただ歩いているだけでは何も起きない。だが一度でも魔物を狩れば、こいつが裏でこっそり経験値を水増ししてくれる。日陰者にしては、実に働き者の相棒だ。


 装備も、資金も、レベルも。今の俺には申し分ない。あとはそれをぶつける相手さえいればいい。


 しばらく行くと、前方の空気ががらりと変わった。


 ぴりつく魔素の密度。D級の森とは比べ物にならない。肌を撫でる風にすら、うっすらと刃物のような鋭さが混じっている。なるほど、これがC級か。


 一歩ごとに空気が重く喉へ絡んでくる。並の探索者なら、この魔素の圧だけで足がすくむだろう。実際、街道の脇には引き返す算段でも始めたのか、青い顔で立ち止まっている一団の姿もあった。だが俺にとっては、久方ぶりに感じる心地よい緊張だった。


 道の先に、見上げるほどの巨大な岩山がそびえていた。その麓に、ぽっかりと黒い坑道が口を開けている。無数の穴が、まさしく蟻の巣のように岩肌を貫いていた。日の当たらない穴の奥は、覗き込んでも底が見えない。


 坑道の奥からは絶えず、カサカサと、無数の脚が擦れ合うような音が漏れ聞こえてくる。ときおり、それに混じって甲殻を打ち合わせるような硬い音が響く。中にいったいどれだけの数が蠢いているのか。想像するだけで背筋がぞくりと粟立った。――嫌悪じゃない。武者震いだ。


 C級ダンジョン『蟻王の巣』。


 噂によれば、数えきれないほどのソルジャーアントが巣くう、厄介な物量の狩り場だという。一体一体はさほどでもないが、鋼のような外殻と、統率の取れた集団行動が厄介極まりない。D級を出たての探索者が迂闊に踏み込めば、あっという間に数の暴力に呑まれて命を落とす。ソロなど論外――そう言われている。


「……ま、俺には関係ないけどな」


 むしろ好都合だ。魔物の数が多いということは、それだけダムを満たす燃料が揃っているということ。溜まりに溜まったあの水を一気に決壊させるには、これ以上ない狩り場じゃないか。


 物量で押し潰す、か。だがそれは、まともに一対一で戦う探索者にとっての脅威にすぎない。数がどれだけ群れようが、極振りした一撃の前ではまとめて薙ぎ払われるだけの話だ。むしろ数が多いほうが、一度に稼げてありがたいくらいだった。


 思えば、次はどんな強敵がいるだろうと胸を高鳴らせるのは、いつ以来だろうか。最弱の烙印を押されたあの日から、俺の毎日はむしろ驚くほど充実している。誰にも縛られず、誰にも遠慮せず、好きなだけ強くなっていく。これ以上の贅沢があるものか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ゲートに近づくにつれ、あたりには物々しい装備の探索者が増えてきた。


 誰もが、森あたりでうろついている連中とは、まるで顔つきが違う。値踏みするような視線。ひりついた殺気。装備の傷み方ひとつ取っても、修羅場をくぐった数が違うとわかる。ここから先は生き死にの世界だと、その面構えが物語っていた。


 ゲート脇の掲示板には、C級の討伐依頼がびっしりと貼り出されている。パーティ募集の張り紙。装備商のワゴン。担架に乗せられ、外へ運び出されていく負傷者。呻き声と、それを励ます仲間の怒声。森ののどかな空気とは打って変わって、ここには一攫千金と死のにおいが、濃く入り混じっていた。


 そんな中を、くたびれたパーカーのオール5がのんびり歩いていく。当然あちこちから、不審げな目が突き刺さった。「なんだあのひょろいのは」とでも言いたげだ。


 いつものことだ。俺は気にも留めず、ゲートのほうへ足を向けた。


 ――と。


 その時ふと、背中にちりっとした違和感が走った。


 周りの不躾な視線とは、明らかに毛色が違う。もっと静かで、もっと鋭い。まるで研ぎ澄まされた刃の切っ先を、そっと首筋に添えられているような。


 俺は思わず足を止め、後ろを振り返った。


 だが、そこにあるのは行き交う探索者の雑踏ばかり。人の流れは何ひとつ乱れておらず、それらしい人影はどこにも見当たらなかった。


「……気のせい、か」


 胸の奥に小さな胸騒ぎだけを残して、俺は前へ向き直る。目の前には、蟻王の巣へと続く物々しいゲート。


 だが、その小さな引っかかりも、これから始まる"お楽しみ"を前にすれば些細なことだ。今はただ、目の前の狩り場に集中しよう。


 その正体不明の視線の主が誰なのか――この時の俺は、まだ知らない。


ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくお願いします。


気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価お願いします。

下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』なら執筆のモチベーションが上がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ