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狐音幽荘物語  作者: かずや


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復興と狐音


 保護した少女は三日程で動けるまでに回復をした、狐音とユウメの人ならざる力もあった。

 本来なら回復は見込めず亡くなるのが普通の時代、少女は助けられた。

 

「私は……タカ」

「ふむ、性は……捨てるのか?」

「はい、もう一族から抜けます」

「決めた事なら何も言わんが……して、タカよお主今後どうしていくのじゃ」

 タカと名乗る少女は姿勢を正し、正面に座る狐音とユウメにハッキリと言った。

「助けて頂いた恩を返すまで、お二人に尽くさせて下さい」

 そう言い土下座に近い姿勢まで腰を折った。


「……ふーむ」

「狐音姐さん……」

 ユウメは心配そうにタカを見る。

 気持ちはわかる、多少回復したところで街に帰れば繰り返しになるだろう。それでは意味が無い。

「わかった、タカよ頭を上げよ」

「狐音姐さん……!」

「お主をこの幽荘の管理を任せる」

 頭を上げたタカは驚きから、目を見開き泣きそうになっている。

 タカの中では気持ちを伝えたが、また追い出されても仕方ない思いもあったのだろう。それだけそれが普通な世の中、だが狐音は幽荘の管理人として迎え入れる決断をした。

「ありがとうございます!」

「タカよ、こんな時代じゃがお主の人としての生き様を見せてくれ」

 幽荘には狐音の結界が張ってある、悪意を抱く者にはこの場所が認識出来ない。しかし、タカは幽荘まで来た。それは住人になり得る資格として充分だ。

「お主は二〇二に住め、管理人としてな」

「やったわね、よろしくタカさん!」

 ユウメに続き二人目の住人だった、ユウメも狐音が居るとは言え寂しかったのだろう。


「あの……狐音さん、気になっていたのですが……」

「ん?なんじゃ?」


「狐音さん……は、その……妖怪?なのですか?」

「ほう……お主、儂の尾に気付けたか」

「……はい、凄い綺麗な尾が出てましたので」


 狐音の尾は物理的にあるのではなく、視える視えない者と別れる。

 現に幽導村の村長として、最も狐音に近づけた男、九兵衛でも視る事は出来なかった。

 尾が視えると言うのは、その人間が純粋で綺麗な心を持ち得てる証拠だった。

「お主には隠さんでも良いじゃろう、儂は妖狐の狐音じゃ。察しの通り人では無い。」

 タカは驚きはしたものの、取り乱しはしなかった。

「……そうですか、でも私の決意は変わりません!幽荘の管理人として務めてみせます!」

「ほっほ!頼んだぞ……タカよ」

 タカの目を見れば、力を使い頭の中を覗かずとも理解できる。人が本気で思う目には、妖狐の力よりも遥かに強い力が宿っているのだから。


 タカが幽荘管理人として就任し一ヶ月経った。

 村の交流役としても非常に助かる存在だった、狐音とユウメだけでは人の理や線引きが掴みにくかったのだ。

 そんなある日タカから相談があった。

「狐音さん、なんとか銃を手に入れられないでしょうか?」

「何?銃とな?」

 いきなり物騒な事を言い出したタカを二度見する。

「ピストルじゃないですよ!ハントライフル……猟銃です」

「全く、そう言わんかい……むぅ」

「やはり難しいですか?」

「この場から手に入る可能性は闇市じゃが……金はあれど行く者がおらんのじゃ」

「私が言い出した事です、私が……」

「ならん、物は揃うがあそこはやはり危険すぎる」


「あら、じゃあ狐子さんにお願いしたらどうでしょう?」

 ユウメは話を聞いていたのか姿を現した。

「狐子……まあ、確かに各地を周り一度帰って来るには良いか……」

「狐子さん……?」

「狐音姐さんの双子の妹ですわよ〜」

 狐音は現在の幽荘の状況連絡も踏まえて手紙を飛ばした。


「しかし、何故いきなり猟銃なぞ?」

「この辺りは野生動物もまだ多く、獲り過ぎない範囲でなら幽荘と幽導村に恵みを分けれるかと。野草に頼りきっているので村側と取り合いになるのです」

「ほう、なるほどのう」

「素晴らしい考えですわね〜私達には無い発想ですわ」

 狐音とユウメの感覚では人よりも、野生動物の方が共に生きて来た存在が近い為に狩猟の考えは無かった。

 もちろん動物の領域を脅かすのはもっての外だが、必要とする分だけで。


 狐子に連絡を送り二週間程だった……


「一年ぶりくらいかな!狐音ー!ユウメー!」

 朝っぱらから外より元気な女の声が聞こえてくる。

「帰ったか、騒がしい……」


 ドアを開けた先には狐音とそっくりな顔をした女性、狐子が大きな荷物を背負って手を振っていた。

「帰ったやで!」

「一年ぶりじゃの……お主喋り方が変じゃのう」

「あちこち行っていたら方言が移ってなぁ!とりあえず荷物を置かせてくれんさい」

 方言どころか所作まで変わった気もするが、それだけ日本各地を見て周り吸収してくれたのだろう。

「ん?新顔さんが居るな」

 二階から不思議な者を見る目でタカは覗いていたが、目が合うと降りて来て挨拶をした。

「あの、初めまして!タカです!幽荘の管理人をやっています!」

「おお、狐音から聞いとるよ!あんたがタカか……良い眼をしてる」

「あ、ありがとうございます?」

「ほら、お望みのもんだよ」

 狐子は背負ったリュックから細長い包まれた棒を出してきた。

「え?これって……猟銃!」

「取り扱いは教えるからちょっと待ってな!とりあえず休憩させて、青森から走ってきたから……」

「ふわぁ〜……あら?狐子さんね〜?」

 また二階から今度はユウメが降りてくる。

「お……なるほどあんたがユウメか、確かに幽荘と狐音の力を感じる」

「うふふ、これからもよろしくね」

 とりあえず全国行脚より帰った狐子を迎え、せっかくだからと皆で狐音の部屋に集まった。


 狐子が土産にと持ってきた各地の飲食物を囲みながら、狐子はポツポツと語り出した。

「まず初めに広島、長崎へと行ったのさ……終戦直後、人への恐怖を感じたよ。人が人に対して争いは平安より前からの事だが……あれは違った、一方的な殺戮現場だった……」

 全員が息を飲んだ、実際に見に行った者の顔が空虚で思い出したくも無い、そう見えたからだ。

「アタシら妖狐で言う瘴気のようなモノが蔓延していたから早々に離れて、東京に向かったよ。鉄道もめちゃくちゃだったし終戦後だから疎開先から働きに戻る人々でごった返していた」

「空襲があったはずじゃが影響は無かったのか?」

 東京大空襲で栄えた都が一夜に焼け野原となったのは知っていたが、実際はどうだったのか。

「そこは人の立ち上がる力もあって、アタシが行った時には復興の影があったよ。それもやられた前よりもずっと強い物にしようと、全国から職人達が集っていたし世界からも物資が集まっていた」

「まあ……でもそれなら順に物資が流れてきてもおかしく無いのに、未だ食糧難はおかしいですわね」

 ユウメは不思議そうに首を傾げた、確かに首都に力を割きながら各地に流れないとおかしい。

「それは、やはり人なんだわ。もっと言えば人と金の関係が邪魔してる」

「金じゃと?」

「……私、わかります」

 タカは手に力を込めて言った。

「物資を手に入れる為の、お金を作る為に人が人を襲い物資を横取りし合う……地方の街に出来てる闇市はそうやって悪循環のお金を稼いでいるんだって」

「本当にそう、タカちゃん言ったように東京で買ったこの軍帽子だけど、同じのが山向こうの闇市じゃ二十倍の値段してたもん、たまげたよ」

 狐子はくるくる帽子を回しながら言う。

 地域の格差が生じているのは、物資の流れが正常なものでない事で釣り上がる現象だったのかと狐音は理解した、幽導村から出れてない為に外界とのズレを痛感する。

「狐子、お主を生み出して良かったわい」

「正直アタシもそこまで力使わないといけないかと思ったんだけどね……実際見るとビビるよ」

 狐子は茶を啜り、続けた。

「とりあえず世界からの手も入って東京や大坂、後は時間かかるけど広島長崎の重要都市復興が進めば、正常な価格で物も手に入りやすくなるはず。まだ数年はかかるかもだけど」


 千年以上生きた妖狐でも、この数十年が如何に濃いものだったか息を飲む。もう完全に人が主になる世界だった。

 狐子は更に一つ気になる事を言い出した。

「アタシ青森から来たって行ったでしょ?各地で小耳に挟んだのが……資材不足、土地不足だから山を削る、とか壊れた川の流れを変える、だったんだ」

「そんなことしたら人じゃなく、その土地由来の神が……」

 ユウメは顔を強張らせ言う。

 幽導村地域の土地神である狐音も含めて、特に自然には神が宿っている。

 それを大きく度を超えて削ったり変えたりする、つまり神の身体を削ったりするのと等しい。

 ユウメは狐音の力もあるが、幽荘自体の神と言っていい。それを無計画に突然壊したりしよう物ならユウメも壊れてしまうだろう。

 それが形を取らない山々や川と言った自然物に宿る自我を持たない存在なら無抵抗のままで……


 人間世界は戦争による復興の為、資材を、つまり木材や石材を取って行っている流れだ。

 タカは貰った猟銃を見て呟く。

「私……」

「一人で一頭二頭じゃ影響は無い、問題はこれまでの常識を超えた乱獲じゃ……」

 タカの頭を撫で落ち着かせる。

 そして、狐子が最後に言う。


「そこの山向こうも伐採始まっていたから、近くこの辺りも覚悟はいるよ」

「人が復興に力を入れる以上避けられないのでしょうね……」

「私達、人間は勝手な生き物……」


「それでも、儂は覚悟してきた。生きるのみじゃ」

 狐音は静かに茶を啜り、覚悟をし直した。

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