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狐音幽荘物語  作者: かずや


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6/16

狐音の未来


 後の世に継がれる第二次世界大戦は、原爆と言う禁断の力で日本を叩き潰し終戦となった。


 様々な感情を抱かせた戦争は終わり、狐音は幽荘の主と呼ばれ孤児の受け入れや幽導村への繋ぎ役として日々を過ごしていた。

 戦争徴兵され、財産没収を見越した九兵衛からの隠された遺産と土地の証書は狐音に継がれている。

 狐音が村長とされなかったのは、自由に生きる狐音を想っての事からだろう。

 土地と財産は狐音が持つ、つまり未来に向けて九兵衛は村長の責任を無くし、時代の流れのまま財産だけ任す事にしたのだ。


「村の維持ではなく、村人が今後を縛られずにどう生きられるかか……」

 九兵衛は村はあくまで道具、人が生きれなければ枷になるだけだと予想したのだろう。

 敗戦を予想してその先に起こる人の動きまで予測していた事に狐音は笑う。

 また、それがぴたりとハマる。

 もし今村長になる者が居ても続かないだろう、それだけ物資に苦慮する世の中になったし闇市なる所でしか買えない。

 幽導村みたいな小さな村より大きな村か、いっそ都会に出るのが個人として稼ぎになる。

 そして、その波は孤児にも現れた。

 全国的に復興の人手が足りない、特に優先順位は都会からとなり全国から人が向かう時代だった。

 未成年だろうが稼げる機会がある、幽荘の孤児達もこぞって街に向かい出ていった……


「狐音姉ちゃん……行ってくるよ!」

「……身体に気を付けてな」

 その日、最後の幽荘住人を見届け何年振りかの独り身となった。

 幽導村全体も最盛期の時数十軒あった家屋もわずか四〜五軒になっていた。

 村の栄枯盛衰自体は千年で幾度も経験している、思い入れの度合いが変わっただけだ。

「さて、どうするかの」

 人が居ないとは言え狐音はまだ離れられない、滅ぶ最後まで見届けたい。しかし、世の中の状況がわからない。

「千年以上生きての初めての挑戦をする時か……」


 狐音は幽荘自体に結界を張った、これで悪意ある者や気付かない悪意の芽を持つ物には辿り着けなくなった。

 幽荘の住人を資格制にしたのだ。


「九兵衛よ、儂が出来る挑戦みておれい」


 狐音は服を脱ぎ、川で身を清めた。

 きめ細やかな肌になめらかな曲線を描く背から腰にかけた部分だった。

 金色に輝く三本の尾が生えてくる。

 狐は妖狐の力を全身に集め一世一代の力を使う。

 誰に教わったわけでない、ただ本能でやれると確信していた。

 

「……フッ!」


 狐音の全身に光が集まり収束していく……集まった光を空間にかざす。

 部屋が光で見えなくなり、一箇所に収まっていく……それは人の形を作り出していた。

 妖狐として初めての儀式、狐の尾は二本に減っていた。


「……狐音、良かったんだな?」

「うむ、儂が全てを受け入れる」

 狐音の前には裸の狐音そっくりな女が居た。


「お主の名は狐子じゃ、全国を見て今を教えとくれ」

「承知した」

 狐子と名付けられた狐音の分身は、服を着て旅支度を始めた。

「出来れば各地を細かく見てくれ」

「了解だ、力を使い過ぎんなよ姉貴」

「ふ、そうじゃなお主は妹として生きよ」

 狐子はパッと笑顔を見せて街のある方の山に消えていった……


 (私も、役に立ちたい)

 狐音に聞こえた声は聞き慣れぬものであった。

 だが、考える前に直感で答えを出した。

「ふむ、お主幽荘か?」

 (そう、あなたのおかげで自我が芽生えた)

 どうやら狐子を生み出した時に出た強い力が、幽荘自体に影響を与えたのだろう。

「何かやってみれば何かが生まれるもんじゃのう」

 狐音は自身の尾を見て決意した。

「お主も見届けるか?人は面白いぞ」

 (はい!)

「うむ……少し待つのだ」

 狐音は集中して全身が光り出した、呼応するように幽荘も光出す。

 狐音の光と幽荘の光が一つに凝縮されていく……

 バチバチと弾ける音がして一つになった光が更に強まり……少しずつ収まっていった。

 そこには和と洋の雰囲気を持つ顔立ちと美を体現する恵体の女が居た。

「お主の名はユウメ、幽荘の幽に芽吹きの芽で幽芽(ゆうめ)とする」

「ありがとうございます狐音姐さん」

 

 狐音は枯れた尻尾二本を抜いて外で火を付けた。

「あら、燃やしちゃうのですね」

「ああ、線香代わりじゃ。儂の唯一愛した者への」

「うふふ、狐音姐さんの尻尾が線香なんて贅沢な殿方ですわ」

 燃えゆく尻尾の煙に狐音は誓った、幽荘は守りつづけるからなと。


 狐子とユウメが生まれたものの、幽導村にわざわざ住み着こうとする者は未だ現れずに数ヶ月経っていた。

「狐音姐さん、結界は解かないんですか?」

 ユウメは不思議な顔をしている。

 解けば人も入りやすくなるが、その分危険な輩も入り込む可能性が高まる。

 敗戦後の日本は一人が生きる為に何かを奪ったり、それを暴力に頼る風潮があった。

 日本各地を遠征する狐子からの情報で懸念する事態だった、都会には仕事が溢れているが田舎の幽導村では自給自足の生活が主であるし、食糧の生産が出来る田舎だからこそ金品ではなく食糧を狙い大人も子供も山を越えてくる。

 残念ながら手放しで全てを受け入れる訳にはいかなかった。

 これには妖狐の力を持つ狐音でも対応できない、襲われても返り討ちには出来るが、その場しのぎの事で未来に繋げられない。

「土地神と呼ばれた時代はあってもそんなもんじゃ」

「難しい時代がきてしまいましたわね」


「外国からの圧力や支援で復興が本格化してきている、また新しい時代が始まりそうだ」

 狐子からの連絡で外部は大きな動きがある直前だと知る。


「狐音姐さんー!大変ですわ〜!」

 ある日ユウメが騒がしく狐音を呼び出す。

 何ごとかと部屋を出た先にその光景が見えた。

 幽荘の敷地内、つまり結界の中で行き倒れている少女が居た。

「こやつ……こんな時代でも入れる心を持つのか、ユウメ介抱してやれ」

 歳は十〜十四くらいの人間の少女、酷く衰弱していたが手当てを行い落ち着いている。

「狐音姐さん……」

「ああ、こやつは選ばれたんじゃ」


 行き倒れの少女を保護した翌日、少女は意識を取り戻した。

「あ、れ?私……」

「長い旅をしていたようじゃの、安心せい。ここは安全じゃ」

 少女は助けられていた事に気付き、起きあがろうとしたがうまくいかなかった。

 明らかな栄養不足、それも長期間その状態で山を越えたのだろう。

「まだ動くな」

 狐音は少女の頭を撫でて落ち着かせる。

「お主、山を越えて来たのか?」

「……はい、家は戦争で無くなり親戚のとこに行かされたけど……追い出されて……」

 この時代、よくある話だった。

 元々の住処を無くし親族をたらい回しにされるも、食糧難から追い出されて路頭に迷う。

 男なら復興の人手に連れて行かれるが、女はそうもいかなかった。捨てられた先で、大抵は酷い目に遭わされまた捨てられる、それが珍しい事ではないのだ。

 その中でも生きる為に悪行に手を染める心が生まれる、まだ警察も機能している状況ではなく、皆生きるのに必死だったのだ。

「全く、戦争は終わってもまだ尾をひきよる」

「はーい、狐音姐さんできましたよー」

 部屋に入ってきたのはユウメであり、手鍋を持ち少女の側に座る。

「お嬢さん、ゆっくりお食べ」

 野草とほんの少しの米を煮た粥だった。

 少女を支えながら上体を起こさせる。

「え……なんで、お姉さん達……いいの……?」

 よほど辛い思いをしたのだろう、施しを受ける事に疑問と罪悪感を抱いているようだ。

「まず話は食べてからね?私はユウメ、そちらは狐音さんよ」

「うむ、少し街の事も聞きたいからの、まずは回復に務めよ」


 介抱はユウメに任せて狐音は外に出た。

 もう陽は落ち、夜空には星が瞬いている。

 こんな破壊と再生が濃く入り混じる時代だからこそ、人は不安定になる。

 狐音は江戸後期から昭和の戦後間もない今まで、目まぐるしく変わった世界を思い呟いた。


「これが人間の感覚か……悠久を生きる儂には刺激が強くなったわい」

 狐音は死が隣り合わせの人の脆さを憂いていた。

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