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狐音幽荘物語  作者: かずや


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14/16

タカと狐音


 ——旅館温泉女風呂

「ふ〜〜〜溶けるのー」

「あーわかるー動きっぱなしで、でもこの瞬間がたまらんのよ」

 狐音と狐子は妖狐らしからぬ人間のおじさんのような感想を語り合う。

「ふふ、お二人ったら神様なのにおかしい」

 タカはそんな二人を笑いながら湯を感じている。

「スズメさーん、すっごい肌綺麗ですわね〜背も高いし顔も美人……人相手なら無双できますわよ、私とモデルしませんこと?」

「あらあら、ありがとうございます〜やはり母体の自然のおかげですかね〜開発工事はされてますが山は大きな物ですから〜」

 あちらはユウメとスズメで自然スケールで人の世界の話をしている。

 狐音は皆が揃い落ち着けた時間を愛おしく思った。


 ——男風呂

「今日の宿泊のべっぴんさん達凄くないか?母ちゃんと同じ人間か?」

「ああ、タカちゃんの家族なんだろ?神聖な空気もあって近寄れねぇよ」


「……隠す気はないのかあいつらは」

 化け狸のヨウリは呆れ顔で湯に浸かっていた。


 ——旅館大部屋

 六人は揃い、本題と向き合った。

「え〜まず幽荘の改築状況だ」

 狐子が口火を切った。

「職人と話しながら約三ヶ月やってきたが順調に進んでいる、ちょうど折り返しって所だな」

「ふむ、結界解いた影響は無いか?」

「やっぱり一部崩壊しそうな場面はあったけど、大丈夫改修中に立て直せたよ」

「建物にも寿命がありますからね〜」

「ユウメさん……あなたの一部ですよね?」

 のんびりした事を言ってるユウメにタカが呆れてる。

「まあとにかく、後三ヶ月は必要だな」

 狐子はそう締め括った。

「ありがとうの狐子、もう少し頼むぞ。さて一番の本題じゃな」

 狐音はタカを見る、タカも覚悟が決まってるようだ。


「私はここの旅館で働き出して、人間と今の世の中に身を戻しました」

 皆静かに聞いている。

「親族に追い出された希望無く死にかけた少女時代、対して毎日が充実しながら人として生きる今」

 タカは手に力を込めて人生を振り返っている、真逆の方向で生きている人生はタカを更に強く、想いを固めていた。


「私は、人間のまま寿命を全うしたい」


 タカの眼に迷いは感じられなかった、妖狐の力で現在身体の時が止まるタカは、狐音が手を加えればこのまま老いずに生きられる道もある。

 選んだのは、人としての人生と終わりのリミット。

 神の力に頼らない自身の命で生きていく決意だった。


「……タカよ、すまなかったな」

「え?……いやいやそんな頭を上げて下さい狐音さん!ちょ皆も!」

 狐音に倣い皆が頭を下げている、タカの覚悟と決断に下げざるを得なかった。

 本来ならこんなに悩ませる事が無かったし、実際に時が止まり気付けず人生を不可抗力ながら介入してしまったのだ。

 狐音や皆は神として謝罪したかった。

 一人腕を組み微動だにしないヨウリが口を開く。

「人とは一瞬の光が強いものだな……しかし、現実どうするんだ?一緒に居ればタカの問題解決しないぞ」

 ヨウリの言う事はもっともだった、いくら想いが強くても直接的に力の源に触れていれば、時は止まったままだし今は狐音、狐子、ユウメ、スズメ、ヨウリと妖術仙術神術と人が描いてる人ならざる力の源しか居ない。


「儂に考えがある」

 狐音は遠くを見て自身の計画を語り出した……


 ——それから三ヶ月が経った

 三ヶ月の間は各々幽荘近くで過ごしていた。

 狐音は狐子と共に工事の進捗を見守りながら近くの小屋で生活を。

 ユウメはヨウリを連れて東京に出て、首都の発展を見聞しながら臨時のモデル、ヨウリはそのマネージャーを。

 スズメは幽導村の数少ない村にお世話になりながら、タカ仕込みの狩猟で生活に恵みを。

 タカは温泉旅館の住み込み中居をしながら時を待った。

 それぞれが人ならざる者にとっては短すぎる三ヶ月を、人としてなら凝縮された長い人の三ヶ月を過ごしていった……


「……できたの」

「……ああ、生まれ変わった幽荘だ」

 狐音と狐子は並び立ち綺麗に生まれ変わった幽荘を見上げる。

 と言っても枠は変わらないので外観が少し綺麗になったくらいだ、どちらかと言えば電気通信網と上下水道を敷いて生活インフラが格段に向上した事だろう。

 そして嬉しい誤算もあった。

「まさか工事最終盤で温泉湧くなんてな〜」

 狐子はその場所を見ている、幽荘の上下水道を整備している際、荘の裏手にあった小さな池の近くから湧いたのだ。

「うーむ、とりあえず工事は出来る範囲で良かったが、活用出来れば良いの」

 別の専門の追加工事になる為、今回は見送っている。


「狐音さーん、狐子さーん!」

 完成日の知らせは皆に送っており、一番近いスズメから駆けつけた。

「はぁ〜出来たんですね〜やはり人の生活をしていると時間感覚が違いますね〜」

 スズメはウロウロ幽荘の周り回っている。

「そうじゃの……お?あやつらも来たか」

「皆さーん東京土産ですわよ〜」

 元気なユウメと、少し人社会に揉まれたヨウリが帰ってきた。

「変わりないかユウメ?」

「ええ、でもヨウリさんが……」

「ん?なんかあったの……か?」

 近くに来たヨウリを見て狐音は目を丸くした。

 そこに立つ男は老紳士のヨウリでは無く、若き男の姿となっていたヨウリだった。

「お、お主東京で何があったんじゃ……」

「俺は学んだんだ、人世界で優位に立つには容姿を合わせる方が良いとな」

「まあ、一理あるが……思い切ったのう。ジジイから青年って普通逆の進み方するんじゃぞ?」

「ふん、俺は人世界始まりの一年目だ。変わるなら早い方が良い、狸変化は専門だ」

「ダンディなお姿のヨウリさんも良いですけどね?たまには見せて下さいまし〜」

「ええ、ユウメさんにはお見せしますよ」

 どうやら何か東京行きは、二人の仲を近づけたらしい。狐音はまあ良いかと笑った。


「皆様、ただ今帰りました」

 その日の夕方、タカも帰って来た。

 少し緊張をしているようだ。

 無理もないだろう、これから神(・)の(・)儀(・)式(・)の(・)中(・)心(・)になるのだから。


 ——「儂に考えがある」

 三ヶ月前、狐音は温泉旅館でそう言った。

「考え?」

 タカは首を傾げた。

「……お主が我等の力の影響を受けて時が止まるならば……受けた分の時を進めるのじゃ」

 狐音の言い分は止まった時計の針を合わせてしまおうと言う事だ。

「それ、大丈夫なのか」

 ヨウリは言った。

「化け狸の意見だが、外見を変えるのと内面……実年齢を操作する事は大きく違う。俺でも内面は操作出来ん」

「私も同じ意見ですわ、山神としての力は使えますが命の速度を進める事は出来ません」

 化ける事に関しての専門家ヨウリ、強大な山の神として自然の力を持つスズメ。

 二人が難色を示した。

 狐子とユウメは静観している……この二人は狐音の分身、少しなら狐音の行動や思惑が読めたからだ。

「狐音……」

「狐音姐さん……」

「心配するな二人共」

 どうやら察したようだが、安心させるよう微笑み掛けた。


 タカは時が止まっている、それは狐音の力に起因する。十数年、妖狐には僅かな時でも人はそうじゃない。

 その時間共に過ごし続けば影響がある、それが人間の時止まりだったと言う事だ。

 本来、人と生活を長年する事はない存在同士、ましてや力で覆われた幽荘の中。狐音ですら気付かなかった。

 そして、考え抜いた狐音は至った

 

 自身の人ならざる者の力、その源泉はどこからか?

 当たり前のように自分にあったこの力が無自覚に漏れ出ているならば、それがタカに影響しているならば……止めれば良い……だから


「儂の尾を切れば良い」


 全員が耳を疑った。

 妖狐の尾を切る、それは狐音が妖狐でなくなる意味であった。

 

「狐音さん、賛成できません」

 普段のスズメではあり得ない真剣な表情で言う。

「あなたは既に狐子さん、ユウメさんを生むために二本消費されているはず……今、尾は一本でしょう?」

「そうじゃ」

「それを今回使(・)う(・)じゃなく、切(・)る(・)と言う事は自死すると同じ……それはさせれません」

 スズメの言う事はおそらく当たっている、狐音もやった事等無かったがそうなるだろう確信があった。

 ヨウリも口を挟む。

「お前、それはどうかしているぞ。タカがそれを望んでまで自分の想いを優先するのか?」

「狐音さん、それはダメです……私一人の為に狐音さんが命を失うのは違います!」

 タカも泣きながら反対する。


「狐音、独りじゃなくていいんじゃないかな」

「あら、狐子さんも同じ考えですわね?」

 静観していた狐子とユウメが口を開いた。

 

 狐音から生まれた分身である二人は察していた事だろう、そこから更に考えを提示した。

「尻尾は一本しか無い、でもアタシらはその尻尾から生まれている」

「……ならば半分ずつお返しすれば一本ですわね?」

「お主ら……」

 狐子とユウメは自分達を半分ずつ捧げるつもりだ。

「……力を無くすぞ?」

「アタシはもう人間世界で生きていけるツテがある、十年の全国行脚の賜物さ」

「私はモデルとして溶け込みますよ、ありがたい事に容姿は良く生んでくださったのですから」

 二人は笑い合う。

 狐音は言いようのない感謝に浸っていた。

「……馬鹿者どもが」

「本体が馬鹿な事独りでやろうとするからでしょう」

「本当ですよ〜私達は狐音姐さんが、歩いてこなかったら生まれてないのですから」


 狐音は涙を一筋流した。

 (九兵衛との別れの日以来、人生二度目じゃな)


 スズメもヨウリもタカも、もう反対はしなかった。


 

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