第59話 神界のガサ入れ(ウ〇ーイーツ)〜出前を頼んだら大天使が突入してきた〜
「はぁ……やっとカクカクのポリゴン世界から元の画質(4K)に戻ったか……」
俺はカビ臭い六畳間(元・神界VIPルーム)のコタツで、深く長いため息を吐いた。
防虫剤(タ〇スにゴ〇)によるウイルス駆除が完了し、宇宙のシステムは無事に通常モードへと復旧したらしい。
アリスの顔も、クソ爺の白いブリーフも、すっかり滑らかな高解像度になっている。
「……お兄さん、お腹すいた。……ポリゴンのバグ、消化が早くてすぐお腹空く」
「お前があんな得体の知れないもん食うからだろ! ……まあ、俺も流石に疲れて腹ペコだけどさ」
俺はコタツの上に転がっていた、神界の管理端末(見た目はただのヒビ割れたス〇ホ)を手に取った。
「神界のシステム乗っ取ったんだから、出前くらい頼めるだろ。……よし、『ウ〇ーイーツ』みたいなアプリ起動できたぞ」
画面には『神饌デリバリー』という、胡散臭いサービスが表示されている。
「とりあえず、一番安い牛丼大盛り四つな。あとクソ爺、お前は玄関(襖)の前で商品受け取る準備しとけよ」
「ひ、ひぃぃぃ! 全宇宙の創造主たるこのワシが、パシリ(受け子)じゃと!?」
パンツ一丁の元・神様が涙目で抗議してくるが、俺は一切の容赦をしなかった。
「うるさい! 俺をこんな世界に巻き込んだ罰だ! 絶対置き配にしろよ! チップ(おひねり)も払うなよ!」
俺がただの『出前の受け取り』を命じた、その時だった。
ドンドンドンッ!!
襖が激しく叩かれる音が響いた。
出前にしては早すぎるし、叩き方が完全に借金取りのそれだ。
「お、来た来た。ほらクソ爺、早く受け取ってこい。牛丼が冷めるだろ」
クソ爺がビクビクしながら襖を開けた、その瞬間。
「――神界防衛局・特務監査課! 次元の不正アクセスおよび、システム強制初期化の容疑でガサ入れに来まし――」
襖の向こうに立っていたのは、四角いバッグを背負った配達員などではなかった。
六枚の純白の翼を生やし、神々しいフルプレートアーマーに身を包んだ、超絶美女の『大天使(監査官)』だった。
だが、その大天使の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
彼女の目に、信じられない光景が飛び込んできたからだ。
「……え? そ、創造主様……? なぜ、そのようなお姿(ブリーフ一丁)で、カビ臭い部屋の玄関に……?」
大天使は、全宇宙の頂点であるはずの最高神が、半裸で「出前待ち」をしているという事実に、完全に思考を停止させた。
すると、俺の隣でコタツでミカンを剥いていたメリルが、またしても聖剣を震わせて立ち上がった。
「(……ッ! マスターは、ただの『食事の調達』すらも、旧き神への『屈辱的な調教』として利用しておられる!)」
メリルは感動の涙を流し、大天使に向かって胸を張った。
「(旧・創造主すらも小間使い(パシリ)に成り下がる、この絶対的なヒエラルキー! 監査官よ、我が主の底知れぬ権威にひれ伏すがいいッ!)」
「違うから! ただ牛丼の受け取り頼んだだけだから! なんで警察(監査官)が来ちゃってんの!?」
俺の悲痛なツッコミは、またしても誰の耳にも届かない。
宇宙のバグが直ったと思ったら、今度は神界の警察に踏み込まれるという、最悪の日常(クレーム処理)が始まろうとしていた。
◇
「……そ、創造主様? なぜそのような破廉恥なお姿で、しかも正座など……」
大天使はガタガタと震えながら、ブリーフ一丁の最高神を見下ろした。
彼女の背負っていた『神界防衛局』の監査バッグが、ポロリと床に落ちる。
「た、助けてくれミカエルちゃん! この男、ワシのシステムを乗っ取ったばかりか、ワシをパシリに使おうとする悪魔なんじゃ!」
「ちょっと待てクソ爺! 警察(監査官)に変な吹き込み方すんな!」
俺はコタツから身を乗り出し、大天使に向かって必死に弁明を始めた。
「違うんですお巡りさん! 俺はただ、初回限定の『出前無料クーポン』を使って、特盛の牛丼を頼みたかっただけで!」
「この爺さんが俺のゲームのデータを消したから、その慰謝料として昼飯をおごらせようとしただけなんですよ!」
ただの小市民的すぎる言い訳である。
だが、その言葉を聞いた大天使ミカエルの美しい顔が、恐怖で青ざめていく。
「(……ッ!? 『初回限定クーポン(=次元創世の初期化権限)』を行使し、この宇宙を己の都合の良いように書き換えたというのか!?)」
「(しかも『特盛の牛丼(=最高ランクの神獣の供物)』を要求し、あろうことか創造主様にその代償を支払わせるだと……!?)」
大天使の脳内で、牛丼の特盛が宇宙レベルの生贄の儀式に変換されていた。
彼女は後ずさりし、純白の六枚羽を激しく震わせる。
「(なんという恐ろしい男……! 創造主様の命すら、彼にとっては一杯の『安飯(牛丼)』以下の価値しかないというのか!)」
すると、俺の背後でコタツに入っていたメリルが、またしても感動の涙を流し始めた。
「(流石ですマスター……! 神界の法と秩序を司る大天使を前にしても、己の『食欲(絶対的支配欲)』を少しも隠そうとしない!)」
メリルは立ち上がり、大天使に向かって不敵な笑みを浮かべた。
「(監査官よ、これが新世界の法です! 旧き神の命など、我が主の胃袋を満たす前菜にすら満たないのです!)」
「だから牛丼はただのジャンクフードだよ! 俺をカニバリズムの魔王みたいに言うな!」
俺の悲痛なツッコミは、完全に監査官の恐怖を煽るだけのBGMと化していた。
さらに、事態を悪化させるポンコツたちが動き出す。
「……ジン。あの大天使の鎧、純度百パーセントの神星鋼。……剥ぎ取って質屋に入れる」
ルナが恐ろしい査定の目を向け、大天使の装甲の隙間にバールのようなものをねじ込もうとしている。
「やめろルナ! 警察官の制服を身ぐるみ剥がそうとすんな! 公務執行妨害で完全に実刑食らうだろ!」
「……お兄さん、あの背中の白いフワフワ(六枚羽)、美味しそう。……大きなフライドチキンみたい」
アリスがヨダレを垂らしながら、マヨネーズのボトルを取り出して大天使の背後に回り込んだ。
「アリス! 大天使にマヨネーズぶっかけてかじりつこうとするな! ケン〇ッキーのファミリーパックじゃないんだぞ!」
俺は必死にポンコツどもを止めようと、コタツから飛び出した。
しかし、その必死に仲間を制止しようとする俺の姿は、大天使の目には『さらなる絶望の合図』にしか見えていなかった。
「(ひぃぃぃっ! この男が一言発するだけで、狂信者の剣士が法を否定し、盗賊が身ぐるみを剥ぎ、魔獣(大魔導士)が私の羽を捕食しようとしている……!)」
大天使ミカエルは、あまりのカオスに腰を抜かし、カビ臭い畳の上にへたり込んだ。
「あの、本当誤解なんで! 俺はただの巻き込まれた一般人で!」
俺が平謝りしようと一歩前に出た、その時だった。
ズルッ。
俺の足が、コタツの横に転がっていた『ミカンの皮』を見事に踏み抜いた。
◇
「ああっ!?」
俺の体は、コントのお手本のような見事な放物線を描いて宙を舞った。
その拍子に、俺が握りしめていた『神界の管理端末(ス〇ホ)』が手からすっぽ抜ける。
それは回転しながら飛んでいき、ミカエルが床に落としていた『監査バッグ』にクリーンヒットした。
ガシャンッ!
衝撃でバッグが弾け飛び、中から神界の警察グッズが大量にぶちまけられた。
その中にあった『神封じの手錠』が、空中の端末に弾かれてビリヤードのように軌道を変える。
カチャッ、ガチャンッ!
「……ひゃんっ!?」
手錠は宙を舞い、なんと大天使ミカエルの両手首と、俺の実家の『コタツの脚』を完璧に連結してしまったのだ。
俺がミカンの皮で滑っただけで、神界のトップエリートがコタツの囚人と化してしまった。
しかも俺の体は、そのままミカエルの膝の上に頭からダイブする形で見事に着地した。
「(や、やばい! 公務執行妨害どころか、警察官へのセクハラ現行犯まで追加された!)」
俺が青ざめて顔を上げると、ミカエルは顔を真っ赤にして涙目になっていた。
「こ、こんな一瞬で私の装備を解除し、拘束するなんて……! あ、悪魔! 破廉恥な魔王ぉぉっ!」
「違う! ただミカンで滑って転んだだけだから! 俺にそんな高度な体術はない!」
俺の悲痛な言い訳は、またしてもメリルの狂信翻訳によって最悪の神託に変換された。
「(おおお……! 一切の殺気を放たず、果物の皮を触媒にして神の使いを無力化する『神域の捕縛』!!)」
メリルは感動のあまり、聖剣を打ち鳴らして拍手喝采を送っている。
「(しかも、あえて敵の膝に頭を預けることで、『生殺与奪の権』を完全に握っていると誇示する圧倒的強者の余裕!)」
「だから不可抗力のラッキースケベみたいな状況になってるだけだよ! 誇示してないから!」
俺が慌ててミカエルの膝から退こうとした、その時だった。
「……ジン。大天使の身柄、闇市場で一千億。……コタツごと売り飛ばす」
ルナが手際よく、手錠で繋がれたコタツの脚に梱包材を巻きつけ始めている。
「……お兄さん、この銀色の輪っか(手錠)、美味しい。……硬いドーナツの味がする」
「アリス! お前は大天使を拘束してる手錠を食い破ろうとするな! 証拠隠滅の罪が増えるだろ!」
俺が魂のツッコミを入れた直後、開けっ放しの襖の向こうから、間抜けな電子音が鳴り響いた。
『ピロリン♪ 神饌デリバリーでお待ちの、霧雨様ー! 牛丼特盛四つ、お持ちしましたー!』
なんと、このカオスな状況下で、本物の出前配達員(下級天使)が呑気に到着してしまったのだ。
「ひ、ひぃぃぃ! 警察(上司)がコタツに繋がれて泣いてる現場に、出前が来ちゃったんじゃがぁぁ!」
ブリーフ一丁のクソ爺が、頭を抱えて絶叫した。
配達員の下級天使は、ブリーフの最高神と、コタツに拘束されて泣く大天使を見て、持っていた牛丼の袋をガタガタと震わせた。
神界の警察を物理的に無力化し、コタツに繋いだ俺の六畳間。
そこへ届いた「特盛の牛丼」は、もはや最悪の供物(証拠品)にしか見えなかった。
◇
「お、おお……ご苦労様。とりあえず、そこの畳に置いといてくれ」
俺はミカエルの膝の上から転がり落ちながら、出前の下級天使に声をかけた。
だが、俺の気まずい取り繕いは、配達員の目には『魔王の冷酷な命令』にしか映っていなかった。
「(ひ、ひぃぃぃっ! 神界トップの特務監査官様が、コタツに繋がれて涙目に……!)」
配達員は、ブリーフ一丁の旧・創造主と、プチプチで梱包されかけている大天使を交互に見て、ガクガクと震え出した。
「(しかも『畳に置け(=床に這いつくばって供物を捧げよ)』という、絶対的支配者の恫喝! 噂に聞く新世界の魔王は、警察機構すらペット扱いにするのか!)」
「ち、ちが……俺はただ、牛丼の汁がこぼれないように……」
「お命だけは! この『特盛(神獣の生贄)』で、どうか私めはお見逃しをォォォッ!」
配達員は持っていた牛丼の袋を放り投げ、カビ臭い畳に額をめり込ませるほどのジャンピング土下座をキメた。
「ああっ! 俺の牛丼が! 特盛の汁が畳に染み込んじゃうだろ!」
俺がひっくり返ったプラスチック容器(牛丼)に駆け寄ろうとした、その時だった。
「……逃げなさい、配達員! 私は既に、この『悪魔の祭壇』の虜囚……!」
コタツの脚に繋がれた大天使ミカエルが、涙を流しながら悲壮な決意で叫んだ。
「この男の恐るべき体術の前に、神の法は無力でした! 早く防衛局に『コタツの魔王』の誕生を知らせるのですッ!」
「だから警察官が勝手に魔王を爆誕させないで! 俺はただの巻き込まれた被害者なの!」
俺の悲痛なツッコミは、またしてもメリルの狂信フィルターによって最悪の神託に上書きされる。
「(……ッ! 『被害者(=旧き法によって虐げられた者)』と名乗り、大義名分をもって神界に宣戦布告するおつもりか!)」
メリルは感動のあまり、牛丼の汁が染み込んだ畳にうやうやしく平伏した。
「(出前(兵站)を断ち、警察機構をコタツに縛り付ける完璧な制圧劇! マスターの知略、宇宙の理すら凌駕します!)」
「違う! 俺の昼飯が台無しになっただけだよ! お前も牛丼の汁を神聖な顔で舐めるな!」
「……ジン。大天使の身柄と、特盛牛丼四つ。……セット価格で闇オークションに出品した」
「……お兄さん、この赤いお肉(紅生姜)、美味しい。……ピリ辛の味がする」
ルナが恐ろしいオークションを開催し、アリスが畳に散らばった紅生姜を直接舐め取っている。
警察(大天使)はコタツで泣き、配達員と旧・神様はブリーフ姿で土下座し、俺の昼飯は畳のシミになった。
その地獄のような光景を前に、俺の胃壁はついに限界を迎えた。
「(もう嫌だ……。誰か俺を、普通の牛丼屋のカウンターに連れてってくれ……!)」
俺が胃を押さえてコタツに突っ伏した、その瞬間だった。
脳内に、いつも通りふざけきった無機質なシステム音声が鳴り響いた。
『ピロン♪』
『条件を満たしました。称号【深淵のバグハンター(防虫)】が【コタツ魔王(警察の天敵)】に進化しました』
「どんな最悪な進化だよ! 俺はただ特盛の牛丼を食いたかっただけだぞォォォッ!!」
俺の魂の叫びは、またしても誰の耳にも届くことなく、牛丼の匂いが充満する神界のボロアパートに空しく響き渡るのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
牛丼の出前を頼んだだけなのに、ガサ入れにきた大天使をミカンの皮でコタツに拘束し、ついに『コタツ魔王』として神界防衛局にマークされてしまったジン。
「神域の捕縛w」「大天使が不憫すぎるw」と笑っていただけましたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、ジンの胃痛が少しだけ和らぎます!
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