第56話 神様との最終決戦(クレーム処理)〜ちゃぶ台をひっくり返したら宇宙が割れた〜
「……とりあえず、お茶淹れて。熱すぎず温すぎないヤツ」
完全に俺の実家(六畳間)と化した、神界の元・VIPルーム。
俺は部屋のど真ん中に鎮座する『ニ〇リ』で買ったような安物のちゃぶ台に肘をつき、盛大なため息を吐いた。
目の前では、かつて全宇宙を統べていた最高神(クソ爺)が、ペラペラの座布団の上で綺麗に正座している。
「ひ、ひぃぃぃ……。お、お茶と言われましても、今のワシには魔法でお湯を沸かす力すら……!」
「いいから早くしろよ! こっちはお前の不手際のせいで、異世界に強制連行された『被害者(お客様)』なんだぞ!」
俺はちゃぶ台をバンッ!と叩き、理不尽なクレーマーの如く凄んでみせた。
権限を失って元の世界に帰せないなら、せめて実家気分を味わうために、コイツをパシリにしてやる。
「(どうせ帰れないなら、徹底的にお客様アンケートで最低評価つけてやるからな……!)」
俺はポケットから、いつの間にか入っていた『お客様ご意見カード』とボールペンを取り出した。
そして、ちゃぶ台の上で「満足度:星一つ」「理由:勝手に殺された挙句、アフターサービスが最悪」と書き殴り始める。
ただの「お客様センターへのクレーム処理」である。
しかし、俺がちゃぶ台でペンを走らせるその姿は、周囲のポンコツたちには全く別の光景に見えていた。
「(……ッ! 旧き神を罪人として正座させ、新たなる神が『裁きの祭壇(ちゃぶ台)』にて判決を下しておられる!)」
メリルは部屋の隅で障子に張り付き、感動のあまりボロボロと涙を流していた。
「(あのピンク色の紙片は、魂の行き先を決める『閻魔帳』……! いよいよ、宇宙の歴史がマスターの御手によって清算されるのですね!)」
「違うから! ただのスーパーの意見箱に入れるようなアンケート用紙だから!」
俺の悲痛なツッコミは、狂信者の耳には一切届かない。
さらに、障子の向こう(外はまだキャバクラのネオン街)から、ルナが電卓を叩きながら顔を出した。
「……ジン。元・神様の身ぐるみ剥がした。……パンツ以外、すべて差し押さえ完了」
「お前は神様から何を回収してんだよ! いくらなんでもパンツ一丁は絵面が汚すぎるだろ!」
見れば、クソ爺の着ていた豪華絢爛な神衣はすべて剥ぎ取られ、本当に白いブリーフ一丁で正座させられていた。
ただでさえカビ臭い六畳間が、一気に『昭和の頑固親父の部屋』へと成り下がってしまった。
「……お兄さん、このイグサの床、美味しい。……抹茶ポッキーの味がする」
「アリス! お前はさっきから畳のヘリを齧るな! 敷金引かれるって言っただろ!」
ブラックホール胃袋を持つ大魔導士は、もはや四つん這いになって畳をムシャムシャと食べ進めている。
俺の六畳間が、物理的に削り取られていく。
「ひ、ひぃぃぃ! 命だけは! ワシの存在データだけは消さないでくれェェェッ!」
ブリーフ一丁の神様が、ちゃぶ台の向こうでガタガタと震えながら命乞いをしている。
俺の周囲には、狂信的な剣聖、腹ペコ大魔導士、守銭奴盗賊、そしてパンツ一丁の元・最高神。
「(……もう嫌だ。なんで俺、異世界の神界まできて、パンツ一丁の爺さん相手にクレーム処理してんだよ……)」
俺は『伊〇園』のお〇〜い茶すら出てこない最悪のサービスに、限界を迎えた胃壁をさするのだった。
◇
「おい、聞いてんのかクソ爺! 俺はな、お前が落とした雷のせいで、発売日当日に買った『ド〇クエ』の新作をプレイできなくなったんだぞ!」
俺はちゃぶ台をバンバンと叩きながら、ブリーフ一丁で正座する神様に説教を始めた。
「徹夜でレベル上げする予定だったのに! さらに、月額五百円の『ア〇ゾンプライム』のアニメ見逃し配信も期限が切れちまった! 俺の失われた週末とサブスク代をどうしてくれるんだ!」
ただのゲーマー&オタクの恨み言である。
しかし、その小市民的な怒りは、クソ爺の耳には『宇宙規模の絶望』として響いていた。
「(ひ、ひぃぃぃ……! 『ド〇クエ(=導かれし者たちの魂の探求)』という神聖な儀式のみならず、『ア〇ゾンプライム(=全次元の魔力供給源)』への接続すら断ってしまったというのか……!)」
クソ爺は顔面を蒼白にし、ガクガクと震えながら畳に額をこすりつけた。
「(しかも『月額五百円(=星々の命五百個分)』という膨大な供物を支払っていたのに……! ワシは取り返しのつかない大罪を犯してしまったんじゃ!)」
「ちっ! とにかく、この『お客様アンケート』にサインしろ! 責任者の欄にお前の名前を書け!」
俺は先ほど書き殴ったピンク色のチラシ(アンケート用紙)を、ちゃぶ台越しに突きつけた。
「ここにサインして、本社(もっと偉い神)に提出してやる! お前なんか窓際部署に左遷されちまえ!」
俺としては「店長を呼べ」レベルの、ただのクレーマーの脅しだった。
だが、その言葉を聞いたメリルが、またしても聖剣を震わせてしゃしゃり出てきた。
「(……ッ! 自らの手で裁くのではなく、あえて『大いなる理(本社)』の審判に委ねるというのか!)」
メリルは感動の涙を流しながら、俺の背中に向かってうやうやしく一礼した。
「(しかも『窓際部署への左遷(=次元の狭間への永遠の追放)』という、最も残酷で慈悲深い刑罰……! これぞ、絶対神のみが下せる完璧な采配!)」
「違うから! ただのサラリーマンの左遷だから! 次元の狭間とかそんな物騒なトコ飛ばさないから!」
俺の悲痛なツッコミは、狂信者の耳には一切届かない。
さらに、神様の身ぐるみ(概念)を剥がし終えたルナが、恐ろしい提案をしてきた。
「……ジン。左遷の前に、この爺さんに生命保険をかける。……受取人は私。そして、病死(物理)に見せかける」
「お前は神様で保険金殺人しようとすんな! どんだけ金にガメついんだよ!」
ルナが白紙の保険契約書(どこから出した)を広げ、クソ爺の寿命を計算し始めている。
「ひ、ひぃぃぃぃッ! サインします! 左遷でもなんでも受け入れますから、ワシの命と年金だけはお助けをォォォッ!」
ブリーフ一丁の神様が、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら命乞いをする。
「じゃあ早くこのアンケートに名前を書け! ボールペンはそこにあるだろ!」
俺がちゃぶ台の上のペンを指差そうとした、その時だった。
「……お兄さん、この細長い棒、美味しい。……イカスミの味がする」
「アリス! お前は俺の唯一の筆記用具を食うなァァァッ!!」
バキッ、ムシャムシャ。
アリスのブラックホール胃袋に、俺の百均ボールペンが飲み込まれていった。
「ああっ! 俺のペンが! これじゃクレームのサインが貰えないじゃないか!」
俺が頭を抱えて絶望していると、クソ爺が「ひぃぃ!」と短い悲鳴を上げてちゃぶ台の端に後ずさった。
「(ま、まさか……! 契約の筆を自らの眷属に喰わせることで、『サインすら許さない(=対話の完全拒絶)』という意志表示をしたのか!?)」
「ちげーよ! うちの腹ペコ大魔導士が勝手に食っただけだよ!」
「(もう終わりじゃ……! ワシは、この六畳間で、存在そのものを消し去られる運命なんじゃぁぁぁ!)」
完全に噛み合わない会話のドッジボール。
俺の胃痛が限界を突破し、胃酸が逆流しそうになっていた。
◇
「もういい! お前ら全員、いい加減にしろォォォッ!!」
俺の限界を超えたストレスが、ついに物理的な行動として爆発した。
俺は両手で『ニ〇リ』の安いちゃぶ台の縁を掴み、力任せにひっくり返したのだ。
日本の伝統的かつ昭和を代表する怒りの表現、『ちゃぶ台返し』である。
「こんなカビ臭い部屋で、パンツ一丁の爺さんと不毛な会話してられるか! 俺は帰る!」
俺の腕力(スライム以下)でひっくり返されたちゃぶ台は、大した勢いもなくパタンと裏返った。
その拍子に、ちゃぶ台の上にあった『急須』が放物線を描いて飛んでいく。
カラン、コロコロ……。
ただの安いプラスチック製の急須だ。
それが、六畳間の奥にある『すりガラスの窓』に向かって飛んでいき、コツンと当たった。
ピキッ……。
その瞬間、窓ガラスにヒビが入った。
いや、窓ガラスだけではない。窓枠から壁、そして六畳間の空間そのものに、巨大な亀裂が走り始めたのだ。
「……え?」
パァァァンッッ!!
凄まじい破砕音と共に、すりガラスの窓が粉々に吹き飛んだ。
だが、その向こう側に広がっていたのは、見慣れた日本の住宅街……ではなかった。
「な、なんじゃこりゃあぁぁっ!?」
パンツ一丁のクソ爺が、頭を抱えて悲鳴を上げた。
割れた窓の向こうには、星々が渦巻く『底なしの宇宙空間(銀河)』が広がっていたのだ。
今の俺は、百均のハンコによってこの空間(元・VIPルーム)の『最高管理者』になっている。
そのため、俺がちゃぶ台(管理コンソール)をひっくり返したことで、次元の境界そのものが物理的に割れてしまったらしい。
「(嘘だろ!? どんだけ手抜き工事なんだよこの部屋!)」
俺が青ざめていると、メリルが割れた次元の裂け目を見つめ、恍惚とした表情で震え出した。
「お、お見事ですマスター……! まさか『祭壇』を裏返すという所作のみで、この腐敗した次元そのものを破壊するとは……!」
「違う! ただちゃぶ台ひっくり返しただけだよ! 昭和の頑固親父のマネしただけ!」
「ええ、分かります! ちゃぶ台に蓄積されたエネルギーを『急須』という触媒に乗せ、世界の理(窓)を粉砕する『神域の卓返し(ちゃぶだい・ブレイク)』!!」
「どんな必殺技だよ! ダサすぎるだろ!」
メリルの狂信翻訳は、宇宙空間の真空すらも突き抜けて絶好調だった。
さらに、割れた次元の裂け目から、凄まじい引力が発生し始めたのだ。
「ひぃぃぃ! 吸い込まれるぅぅ! ワシの存在が宇宙の塵になってしまうぅぅ!」
ブリーフ一丁の元・神様が、畳のヘリに爪を立てて必死にしがみついている。
「……ジン。宇宙の裂け目の向こうに、未知の鉱石(星)が大量にある。……採掘権は私がもらう」
ルナが裂け目に向かって、釣り竿(先端にマジックハンド)を垂らし始めた。
この期に及んで、まだ新しいビジネスチャンスを狙っているのか!
「やめろルナ! 宇宙空間で一本釣りしようとするな! 吸い込まれて死ぬぞ!」
「……お兄さん、あのキラキラしてる丸い石(星)、美味しそう。……かじってくる」
「アリス! 窓から宇宙に飛び出そうとするな! 星は金平糖じゃないんだよ!」
俺の悲痛なツッコミは、次元の崩壊音に掻き消されていった。
俺の六畳間は今、宇宙の危機(物理)に直面していた。
◇
「もう嫌だ! こんなポンコツだらけの世界、一回全部ぶっ壊してやり直させろォォォッ!!」
俺はちゃぶ台の脚にしがみつきながら、魂の底から絶叫した。
ただの現実逃避である。ゲームで詰んだ時にリセットボタンを押す、あの感覚だ。
だが、次元の裂け目から吹き荒れる宇宙の暴風の中、俺の叫びは最悪の神託として響き渡った。
「(……ッ! ついにマスターが、この腐敗した宇宙の『初期化』を宣言された!)」
メリルが暴風に銀髪をなびかせながら、恍惚とした涙を流す。
「(古い次元を真っ真っさらにし、新たなる理想郷を創世する……! 我々はその歴史的瞬間の、最初の目撃者となるのですね!)」
「違う! ただのゲーマーの愚痴だよ! セーブデータ消すノリで宇宙を消さないで!」
俺のツッコミは、ブラックホール並みの引力に吸い込まれて完全に消滅した。
さらに、畳にしがみついていたパンツ一丁の元・神様が、絶望のあまり白目を剥いた。
「(お、終わりじゃ……! ワシが丹精込めて作った宇宙が、あんな百均のハンコと安いちゃぶ台のせいでログアウトしてしまうぅぅ!)」
「ひぃぃぃ! データ初期化だけは! ワシのブラウザの検索履歴(女神の画像集)だけは残してくれェェェ!」
「お前は死ぬ間際まで煩悩まみれか! てか神様なら履歴くらい自分で消しとけ!」
俺は必死にツッコミを入れながら、ポケットから万能の修復アイテム『セ〇テープ』を取り出した。
そして、星々が吸い込まれる次元の亀裂に向かって、ペタペタと透明なテープを貼り付け始めたのだ。
「(くそっ! すきま風(宇宙空間)が寒すぎる! とりあえずこれで応急処置を……って、直るかこんなモン!)」
俺が自暴自棄になってテープを貼っていると、メリルがまたしても感動に打ち震え始めた。
「(おお……! 崩壊する次元を、あんな脆弱な粘着テープ一本で繋ぎ止めている!?)」
「(破壊と再生を同時に行う、まさに絶対神の御業……! マスターの慈愛、五臓六腑に染み渡ります!)」
「ただの物理的なすきま風対策だよ! お前も感心してないで手伝ってくれ!」
俺がセ〇テープ片手に悪戦苦闘しているその後ろで、さらなるカオスが進行していた。
「……ジン、釣れた。……土星の輪っか、純金製。……時価数兆円」
「……お兄さん、あの一番大きい星(太陽)、美味しそう。……ちょっと齧ってくるね」
ルナが釣り竿で土星を六畳間に引きずり込もうとし、アリスがヨダレを垂らしながら太陽系に向かってダイブしようとしている。
「バカお前ら! 宇宙の摂理を物理的に乱すな! 太陽かじったら地球が滅亡するだろ!」
俺は必死にアリスの足首を掴み、セ〇テープで次元の裂け目を塞ごうと悪戦苦闘する。
狂信者、守銭奴、腹ペコ魔導士、そして泣き叫ぶブリーフの神。
崩壊していく宇宙の狭間で、俺の胃痛が限界を迎えたその瞬間。
脳内に、いつも通りふざけきった無機質なシステム音声が鳴り響いた。
『ピロン♪』
『条件を満たしました。称号【新世界の創造主】が【次元を畳む者(物理)】に進化しました』
『追加スキル:【ちゃぶ台・ハルマゲドン】を獲得しました』
「どんな最悪なスキルだよ! 俺はただ実家のコタツで平和にミカンが食いたいだけなんだよォォォッ!!」
俺の悲痛な叫びは、またしても誰の耳にも届くことなく、セ〇テープで補修されたツギハギだらけの次元の彼方へと吸い込まれていくのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
ただ「お客様アンケート」を書かせていただけなのに、宇宙規模の絶望を与えてしまったジン。
ついにちゃぶ台をひっくり返して次元を割り、セ〇テープで応急処置を始めるという最強の物理ギャグが炸裂しました!
「ちゃぶ台・ハルマゲドンw」「パンツ一丁の神様不憫すぎるw」と笑っていただけましたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、ジンの胃痛が少しだけ和らぎます!
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