↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち  作者: 稿 累華
第2章:大人しくて目立たない娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/58

26話:同士の笑い

 ──あれはまずかった。


 シェイラは次の宵闇の日、ツェット魔法学園に赴きながら思い返していた。


 イディオンの前で、不用意に魔導師なんて言葉を出したのがよくなかった。

 少し警戒を解いてくれるようになっていたのに、最後のあの一言で全部台なしになってしまった気がする。もう避けられて会えないかもしれない。


 シェイラは、大きな溜息をつく。

 シェイラのずぼらな発言は少年の傷を抉ってしまったかもしれない。


(彫刻の文様は興味を持ってくれている感じでしたが……)


 魔法に関する話題運びは、慎重にしていたのだ。彫り込みを見て関心を惹かれている様子だったから、魔導師という言葉を出してしまったが、気のゆるみがよくなかったと反省する。

 イディオンの反応を最後まで追えなかった自らが招いたできごとだった。


 シェイラはそう思うと、また嘆息が漏れた。


(気持ちを切り替えませんと……)


 敷地内に足を踏み入れて、シェイラは顔を上げる。

 今は、目の前のことに向き合わなければいけない。



「──オーズ師、ちょっといいですか?」



 授業前に、シェイラは他の学環で授業をしていたオーズをつかまえた。先日リヨンが話していたことを、オーズにどうしても伝えたかった。

 シェイラは教導館から出てきたオーズを小走りになりながら追いかける。背の低いシェイラに対して、オーズはすらっと高い。どうしても、歩幅にちがいが出てしまうので、シェイラはいそいそと足を進めた。



「おっと、シェイラ師、すみません」



 後ろから呼びかけられたオーズは、シェイラに気がつくと、歩みを止める。追いつくのを認めると、オーズはもとの速度よりゆるめて歩き出してくれた。



「どうかしたんですか?」



 オーズが問う。



「リヨンさんのことで、少しお話をしておきたいことがありまして」


「……たしか〈沈黙症〉でしたっけ? 改善する方法でもわかったんですか?」


「いえ。不安からくる沈黙症は、すぐに解決するものではないんです。長い目で見守る必要があると、わたしは考えています」



 シェイラが答えると、オーズが肩を落とす気配がした。期待していたのに成果が得られなかった。そんな気配だった。

 いささか気まずい空気になりそうにながらも、シェイラは払拭するように明るい声を出す。



「ですが、解決のための糸口、きっかけになりそうなことはありますよ」


「きっかけですか……?」



 オーズの目に戻ってくるものがある。シェイラはにこりと笑ってみせた。



「レーネさんと、それからオーズ師です」


「レーネと俺? レーネはまあわかりますが。あいつは分け隔てなくいいやつですからね」



 レーネ・ブロンニは、裏表のない、だれとでも仲よくなるような女の子だという。隣の子に手助けが必要そうだから、手伝う。それを当たり前にやる。お世話係ではなく、彼女自らが選んでいる行為で、オーズは強いていない。


 昨年度の担任は、させているふしがあったということだが、オーズが、レーネの負担になりすぎないように気を配っているのは、シェイラも感じることができていた。



「リヨンさんは、レーネさんともう少し喋れるようになりたいと」


「へえ、あのぬいぐるみで聞き出したんです?」


「人聞きが悪いですね。ちょっと答えやすい方向に持っていっただけですよ?」


「聞き出してるじゃないですか」



 シェイラがおどけて言えば、オーズも笑った。

 何度か喋るうちに、こんな冗談を言えるようになっていた。


 シェイラは笑いながら、もうひとつも大事なことを告げる。



「オーズ師の授業は面白いそうですよ」


「え」



 オーズの足が止まった。止まって、シェイラの目を見る。真実を言っているのか確認しようとする目に、シェイラは応える。



「先生は面白くて、優しいって言ってました。だから、勉強も楽しいそうです」



 シェイラがつづければ、オーズは声を上げた。気持ちを隠すように、鼻の下を指で掻く。



「それは、かなり……うれしいっすね」


「ですよね」



 オーズのうれしそうな様子にシェイラも、うれしくなった。



「このあとの授業、やる気が出てきました」


「そうでしょう、そうでしょう。だから、お話をしたかったのです」



 オーズが、うし、と肩に力を入れるのを見て、シェイラもまた調子に乗ってそんなことを言った。



「今のを聞いて……俺は俺の信条らしく、リヨンに接しようと思いました」


「信条ですか?」


「学環を笑わせる。余すことなく。俺が教師をやる理由です」


「それは、めちゃくちゃかっこいいですね……!」



 そうか、とシェイラは思った。

 オーズもまた、あぐねいていたのかもしれない。


 リヨンが笑わないことに。どうして、笑ってくれないのだろう。そう、苦しんでいたのかもしれない。


 ──学環を笑わせる。


 そこに、オーズのどのような想いが込められているのかはわからない。けれど、表情から憑き物が落ちたようになるのを認めると、シェイラはリヨンの言葉をオーズに伝えた意味を感じた。


 顔がほころぶ。

 ふふっと笑いが出て、シェイラはオーズにいたずら仲間のように言った。



「でしたら、オーズ師、リヨンさんを絶対に笑わせましょう。わたし、そういうのならいくらでもお手伝いをします!」


「シェイラ師の手にかかったら、なんでもできそうな気がしますね。全力でリヨンを笑かしにいきますよ。面白いと思われてるんなら、こっちの土俵です。徹底的に、やってやります」



 シェイラとオーズはにやりと笑って、それから声をあげて笑った。


 教師と、相談を聞きに来た導師。子どものためになることはなにか。そういう根をともにする同士の笑いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。