↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【改稿版】  作者: 稿 累華
第2章:大人しくて目立たない娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/24

21話:王都の景色

「──こんばんは。今日はわたしから、見つけちゃいました」



 手摺(てす)りにぶらぶらと座って、林檎をかじっていた縹色の少年を見つけると、シェイラは横からひょっこりと首を出した。

 この少年とはじめて出会った石段をのぼると、高台の広場に出る。広場には石造の手摺りがあって、少年はそこに座っていた。

 覗いてきたシェイラに、少年はこれでもかというくらい縹色を見開いて、そのまま、げほげほと林檎をむせた。



「だ、大丈夫ですか?」



 シェイラが慌てて、背中をさすろうとすると、研がれた剣のような視線が向けられる。この少年からは最初から刺々しい視線を向けられてばかりだった。



「さわるな!」



 手がはじかれる。

 見た目よりも存外に強い力に、シェイラは少し驚く。はじかれた手がひりひりした。



「大丈夫ならよかったです」



 水でも買ってこようかと思ったが、なんとかなったらしい。少年は、シェイラから一馬身ほど距離を置く。それからまた強く、シェイラを睨みつけた。



「今日はちゃんと香料を付けてきたので、におわないと思います」


「…………」


「……えーっと、におわないと思っていたんですけど、においます?」



 ちょっと自信がなくなる。

 前回指摘されたにおいは、おそらくシェイラの〈脈〉から香る魔力香だろうが、念入りににおい消しを行っていたとしても、自分のにおいというのはわからない。人から指摘されてはじめてわかるのが、自分のにおいというものだ。



「──失せろ」



 林檎の香りを撒き散らしながら、にべもなく言われる。以前も感じた、とほほ、という気持ちが沸いてくる。

 けれど、シェイラは今日は引き下がるつもりはなかった。

 この宵燈(ランプ)が灯る時間にうろうろしていれば、会えるにちがいないと思ってそぞろ歩いていたのだ。


 今日で、三度目。


 見つけようと思って探していたわけではなかったけれど、また出会った。ということはやはり、この少年とは、なにか縁があるのだろう。



「その林檎、おいしそうですね。わたしもいただいてもいいですか?」


「は?」



 シェイラが屈託なく言えば、少年は茂みに〈這虫(ほうちゅう)〉でも見つけたかのような顔で、シェイラを見た。

 呆気に取られたものの、自分がかじっている林檎とシェイラを見比べてから、唾を吐くように言う。



「失せろって言っただろう」


「いなくなるかならないかはわたしの判断ですので。それとも、そう言ったらだれでも言うことを聞くような、やんごとなき身分の方でいらっしゃいますか?」



 小首をかしげれば、少年は不意を突かれたように固まった。

 上から下までの仕立てのよい衣を見れば、だいたいの人間はわかるものだと思うが、それを指摘されたことに驚愕と不安を同時に浮かべた。


 ──イディオン・ガルバディア。


(この子が、そうですね)


 できそこないと呼ばれる、第一王子。


 シェイラは、察しながらも、それ以上踏み込まなかった。



「すみません、ちょっとつっこみすぎましたね。わたしは、イディさんがどんな身分の方であろうとも、関わり方は変わりませんので、ご安心ください」



 名を呼ばれると、今度はそちらに驚いたようだった。シェイラのほうをまたもや目を皿のようにして見る。

 素直な反応だなあ、とシェイラは失笑がもれた。この年頃は、なんでも素直に反応してくれる。



「一番最初に会った時に、そう呼ばれてましたけど、ちがいました?」


「……べつに」



 ちがわない、と言ったように、ぶすっとした顔でイディ少年──イディオンの顔が背けられた。不貞腐れているような、弱みを握られたような、そんな顔だった。

 照れているようにも見受けられて、シェイラは問題なさそうだと結論づける。


 そのまま平気な顔をして、少し距離を取りつつ、同じように手摺りに座る。

 王都ガルバーンの煌然(こうぜん)とした輝きが、涼やかな音とともに一望できる景色だった。 



「この景色、素敵ですね。毎晩来たくなっちゃいそうです。イディさんは毎晩来てるんですか?」


「…………」


「さすがにわたしは、毎晩来る時間はないかもしれないですね。今日みたいな週末とか、〈静寂ノ日(きゅうじつ)〉にしか来られそうにないです」


「…………」


「ほんとうだったら毎日来たいんですけどね。ここの王都って色んなものがあって、見るところがたくさんあって、飽きないものですから。こんな都を造りあげたガルバディアという国と歴代の国王陛下には尊敬でしかないです」


「……お前、うるさい」



 シェイラがつらつらと思っていたことを話していると、やっとそんな言葉が返ってきた。

 シェイラは、ぱっと顔を明るくする。



「お前じゃなくて、シェイラータと言います! どうぞシェイラと。皆、そう呼びますので」



 興味を持ってくれたような気がしてうれしくなったが、イディオンからはいつぞやの時のように盛大に顔をしかめられた。聞いてない、とあからさまな反応だった。

 子どもの反応を大事にするシェイラは、直感でこの反応は無視してよいと判断する。



「ありがとうございます! では、これからはシェイラと呼んでくださいね」


「……だれが呼ぶかよ」



 ぼそっと聞こえたが、シェイラは機嫌よく笑う。

 反応があるのは、よいことだ。



「せっかくなので、仲よくなれた印に、いいものを──」



 シェイラが話している途中で、イディオンは、ひらっと手摺りから飛び降りた。そのまま、草の生えた斜面を勢いよくくだる。



「あ、イディさん!」



 シェイラの伸ばした手は届かない。

 イディオンの姿は、すぐに見えなくなってしまった。


 逃亡する王子と仲よくなる作戦一回目。

 空振りに終わる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。