第6節 再会
歩きに歩いて隣町についたリアンは、両親にもらった路銀の一部を使って宿で一泊だけ休んでから、また旅を続けた。フィリオスルピアの情報は、もちろん何もない。そんな簡単に見つかるものではないとは思うけど、伝承に存在するということは、世界のどこかにいるはずだとリアンは思う。
次の町を目指して、リアンは山道を進む。
木々の間に続くのどかな景色を歩いていると、小川のせせらぎに混ざって、かすかに竪琴の音が聞こえた。
まさかと思って、リアンは音のほうへと走った。
木々の間を抜けて、落ち葉を踏み締めて。
すると、小川の岸辺にある岩の上に腰掛けて竪琴を奏でている、一人の少女がそこにいた。
「……ここにいれば、また会えると思っていました」
神秘的な演奏を続けながら語りかける、白いワンピースの少女。
「セーラ……」
名前を呼ぶと、セーラはピン、と演奏の手を止めて綺麗に微笑んだ。
「あなたも、旅をすることにしたのね」
「うん。……俺も、きみみたいになりたいと思ったんだ」
リアンが胸の内を素直に答えると、セーラは照れたように少しだけ頬を染めながら、ころころと笑ってみせた。
「セーラ」
「はい。リアン」
「俺は、夢を見つけたよ。ほんとに現実味がなくて、バカらしいことかもしれないけど」
セーラのまっすぐな瞳がリアンを見つめる。
「……聞かせてくれますか?」
「うん」
リアンは軽く深呼吸をしてから、夢を語った。
「俺は……伝説の霊鳥フィリオスルピアに会いたい」
セーラは、驚きに目を丸くした。
「まあ。フィリオスルピアに?」
「叶えてもらいたい願いはまだ決まっていないのだけど、とにかく俺はフィリオスルピアに会ってみたいんだ」
「それが……あなたの夢?」
「そう。幼い頃からの……って、やっぱ変だよな」
セーラは静かにかぶりを振った。長い金髪がさらさらとなびく。
「そんなことない。素敵な目標だわ」
彼女が肯定してくれて、リアンは安堵とともに胸の中が熱くなるのを感じた。つい調子に乗っていろいろ話してしまいそうなのを、軽く咳払いして抑える。
「ありがとう。……だから、俺は旅に出ることにしたんだ。いつか、霊鳥に会うために」
「そう……」セーラは立ち上がり、ゆっくりと歩いてきて、その真珠のように綺麗な両手で、リアンの手をそっと握った。「こちらこそ……。あなたの夢、教えてくれてありがとう」
空色の瞳にじっと見つめられて、なんだかリアンは胸の中だけでなく頬も熱くなってきて、思わず視線をそらした。
「そ、それでさ、セーラ……」
「なあに?」
「その……せっかくまた会えたのだから、いっしょに――」
リアンはまた視線をセーラのほうに向けると、上目遣いにこちらを見つめている彼女があまりにも可愛らしくて、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「いっしょに……行かない? 旅……」
「わたしと……?」
意外にも誘われることは予期していなかったのか、セーラはきょとんと小首をかしげた。
「あ、セーラもいろいろあるだろうし、アレならぜんぜん断ってもいいから!」
アレというのは迷惑とか嫌という言葉を入れる予定だったけど。まだセーラのことはあまり知らないけど、たぶん優しい子だと思うから、どうにかして逃げ道を作ってあげたくてこういう言い回しになった。
「わたしは――」繋いでいた手を離したセーラは、唄うように言う。「風のように自由に生きています。だから、どこにも、だれにも縛られることはないわ」
「……そっか」
なんだか納得してしまった。彼女は一人で生きていきたいのだ。だから嫌われているわけではないけど、いっしょに行くことはできないだろう。そう思ったのだけど。
「あなたも――そんな生き方をしてみませんか?」
「え?」
セーラは背を見せたままこちらへと振り返る。その顔は少しだけ、はにかんでいた。
「いっしょに、行ってくれるのかい?」
「はい。喜んで」
うれしかった。うれしくて、リアンは思わず「やった!」と飛び跳ねてしまった。
「ともに紡がせて。あなただけの冒険譚を」
「俺の……冒険譚」
これから、どんな冒険が待っているのだろうか。それを思うと本当にワクワクする。
「うん。約束するよ。俺は絶対、すごい冒険家になる!」
「とっても楽しみ……二人で、素敵な旅にしましょうね」
冒険家の少年と、吟遊詩人の少女。夢を求める二人の旅路は、ここから始まった。




