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フィリオスルピアの夢  作者: 栗衣栗広
最終話 夢のその先へ
30/31

第30節 憧れとの戦い

「……準備は整ったようだな」

「待たせたな、ラスベル。……伝説の勇者」

 少年は青年と向かい合う。剣を構えて。

 こうして憧れであり最大の敵と向き合っていると、さまざまな想いが溢れてきた。

 幼い頃の記憶。旅立ちの日に見た両親の顔。旅の途中、仲間たちとの出会い。挫折。それでも諦めずに立ち向かって、手にした栄光。

 風が吹く。

 やがて風が止んで、均衡が崩れる。

「行くぞ!」

 リアンとラスベルは同時に叫び、動いた。

 甲高い金属音が鳴り響き、剣と剣が交わる。

 今度は受けられる。ラスベルの豪剣を、リアンは確かに受け止めていた。

 真実の剣の力と、ティアたちがくれた援護のおかげだ。

 そして、さらに別の何かが――目に見えない力が、リアンの背中を押してくれている。

「……ずいぶんと力をつけたようだな」

「いや、俺の力じゃないさ。……俺の大切な仲間たちと……」

 感じる。偉大な先達たちが力を貸してくれているのを。

「この地を通り抜けてきた冒険家たちが、この剣を通して……俺に力をくれている」

「……そうか」

 リアンの言葉に、ラスベルは小さく短く答えた。

「ずるいかもしれない。でも、こうでもしないと、俺の憧れている勇者には勝てないからな」

「構わん」

 ラスベルが気合いの声を発すると、その覇気によって大地が揺れ、風が吹き荒れる。

「ぐっ……!」

「ならば、過去の英霊も……お前の持つ絆の力も……すべてを賭けて、かかってこい!」

 気迫とともに、リアンはラスベルへと打ち込んでいった。

 一合、二合と剣を打ち合わせる。そのたびに大地が揺れ、衝撃に草木が踊った。

 両者の力は拮抗していた。だが、技術はそうはいかない。

 千年の時を生きるラスベルの剣術はすさまじく、リアンの渾身の一撃を大剣を使って軽く受け流し、フェイントを絡めた反撃によって、リアンはどんどん追い込まれていく。

「そんなものか……冒険者!」

「くっ、負けるか――!」

 全力を込めた一撃。それをラスベルはさらなる力と技をもって弾き飛ばした。

「はぁぁッ!」

 ラスベルが深く息を吐き、神速の突きを繰り出す。

 目で捉えることができないほどの速さ。ギリギリのところで体を捻って(かわ)そうとするが、避けきれずにかすめた脇腹から鮮血が飛び散る。

 背後で遠く、ティアたちの悲鳴が聞こえた。

「終わりだ!」

 ラスベルが天高く飛翔する。物語にも出てきた、勇者が多くの敵を屠ってきた必殺の一撃を繰り出したのだ。リアンが憧れ、何度も真似してきた上空からの斬撃。それが目の前で繰り出された。

(ああ……なんて……かっこいいんだ)

 たとえ憎悪に支配され、心が邪悪に飲まれていたとしても、やはり彼はやはり憧れの勇者なのだ。

 その姿が、リアンをもう一度奮い立たせた。

勇者ラスベル(・・・・・・)……俺に力を貸してくれ……!」

 真実の剣が光を帯びる。心の中の憧れを、強く思った。

 ――がんばれ――負けるな。

 過去の冒険家の英霊たちが、リアンを励ますのを感じた。

 リアンは立ち上がり、地面すれすれに剣を構える。

「うおおお――ッ!」

 剣を、大地ごと突き上げた。

 振り下ろされる大剣と、振り上げる真実の剣がぶつかり合う。

 計り知れない衝撃とともに、激しい雷光が巻き起こった。

「受け止めただと……?」

 隙の生まれたラスベルに向けて、リアンは剣を横薙ぎに振り抜く。

「だが、ここまでだ……砕け散れ、爆裂の魔術(エクスプロージョン)!」

 すでに魔力を練っていたラスベルは、強大な爆発を巻き起こす。

 刹那。心の中に声が響いた。

 ――大丈夫。勇気を出して、前へ。

 聞こえたのは女性の声だった。リアンは爆発の中心部に向けて、剣を振り抜く。

「リアン!」

「リアンくん!」

「……ッ!」

 見守ってくれている、仲間たちの声が聞こえた。

 爆風は真っ二つに裂け、その衝撃の余波が辺りの岩や木々を薙ぎ倒す。

 驚愕するラスベルの、強大な魔法を行使した反動で硬直するその体に、リアンは真実の剣を叩き込んだ。

「俺の勝ちだ……ラスベルッ!!」

 炎を宿した真実の剣の強大な魔力が、奔流となって爆発する。

 勇者のかつての記憶が、走馬灯のごとく二人の瞳に映し出される。黒龍から受けた不死の呪いが、沸き立つ霊力によって打ち消されていく。

 やがて、その爆風が晴れたとき。

 ――ラスベルの体が、霊峰フィレニスの麓に倒れた。


「見事だ……」

 神聖なる地に、倒れ伏したラスベルがつぶやく。

「……まだ、名を聞いていなかったな」

「リアンだ」

「……冒険者リアン。夢を追い求めるお前の想いが、この俺を打ち倒した」

 ラスベルの体が光に包まれていく。真実の剣の霊力が、呪いに蝕まれた勇者を浄化しているのだ。千年以上を生きる、その命ごと。

「勇者……ラスベル……」

「そんな顔をするな。俺は……とっくに死んでいるはずの人間だ」

 ラスベルは真紅の瞳を閉じる。

「胸を張って、進め……リアン。今こそ、お前の夢を叶えるときだ」

 光はいっそう強くなり、常に強張っていた勇者の体から力が抜ける。

「あんたは……俺の憧れで……ヒーローだ。幼い頃から、今も、ずっと……」

「そうか」

 勇者が、かすかに微笑んだ。その身が、溶けるように消えていく――。

「エレナ……やっと、きみのところに……」

 その言葉を最後に、ラスベルの体は消失した。

 達成と喪失。さまざまな感情が胸のうちに渦巻いて、リアンは拳を握りしめながら、いつの間にか涙を流していた。

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