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フィリオスルピアの夢  作者: 栗衣栗広
最終話 夢のその先へ
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最終節 夢のその先へ

 戦いが終わり、仲間たちが駆け寄ってくる。

「やったんだね。リアン。……本当にすごい」

「……まあ、いいんじゃないでしょうか」

 ティアとシファが口々にリアンを称える。

 そしてキードがぽつりと言う。

「きみは、新たな伝説をまた生み出したね。セーラちゃんにも聞かせてやりたい」

「……そうだな」

 残すは目の前にそびえ立つ、霊峰フィレニスを踏破するのみだ。

「さあ、みんな、先に進もう。……旅の終着点へ」

 休憩もそこそこに、リアンたちは登山を始めた。

 山の中は穏やかで、獣道すらないけど、歩きにくい地形もなかった。

 小鳥のさえずりと風の音。草木と土の匂い。暑くも寒くもない、心地よい陽気だった。

 三時間ほど歩くと、山頂が見えてきた。茂っていた木々が晴れ、麓まで見渡せる場所だ。

 青空の下。

 虹がかかり、そこから白い大きな霊鳥が舞い降りて、目の前で羽を休めた。

「フィリオスルピア……」

 リアンたちが、誰ともなくつぶやいた。

 すると、心の中に聞き慣れた少女の声が聞こえてくる。

「あなたは、神となる資格を得ました。いずれその命が尽きるとき、あなたは夜空を覆う星々のひとつとなるでしょう」

 荘厳で神秘的な声音だった。

 それが一転して優しい、聞き慣れた口調に戻る。

「リアン……ここまで来てくれるって信じていたわ。ラスベルの魂を救ってくれて、ありがとう……」

 少女の、煌めくような笑顔が見えた気がして、リアンは胸が切ない気持ちになった。

 それから、また声は神秘的な音色に戻る。

「さあ、あなたたちの願いを叶えましょう」


 神になる、という言葉はよくわからないけど。

 目の前には、ずっと夢に見ていた存在がいる。出会った者の願いを叶えるという霊鳥フィリオスルピアが。

「それは……」リアンが尋ねる。「どんな願いでも叶えてもらえるのか?」

 すると、申し訳なさそうな少女の声が聞こえてくる。

「いいえ。……フィリオスルピアの願いを叶える力は、万能ではないの……。『財宝が欲しい』『力が欲しい』といったものは叶えられるのだけど……多くの人間の認識が影響すること――たとえば『名誉が欲しい』とか『王様になりたい』というような願いは叶えられないわ」

 なるほど。フィリオスルピアでも人の心は変えられないらしい。

 願い。それはあまり考えてなかった。リアンにとってフィリオスルピアと出会うことそのものが夢であって、望みを叶えてもらうことは二の次だったからだ。

「セーラは……これからどうなるんだ?」

 彼女がどういう存在なのか。それはリアンにも、なんとなくわかっていたけど。

 セーラの声が答える。

「わたしは……これまでの記憶を消し、眠りについて、いずれまた旅を始めます。新たな神となる人間を探して……」

 まっさらになる。白く。どこまでも白く。

 いっしょに旅をした記憶も、楽しかった思い出も。すべてをまっさらに。そうして綺麗なままでいる。

 それは、なんだかとても悲しいことだと思った。

「俺は……」

 一つだけ、願いを叶えてくれるというのなら。

「俺の夢は、きみに会うことだった」

 きみといっしょに、世界をもっと冒険したい。

 だから。

「……俺の願いは、決まった。セーラを自由にしてほしい」

 大きな白い霊鳥が光に包まれ、一人の少女へと姿を変える。

 金髪の、白いワンピースを着た少女は、こてんとかわいらしく首をかしげた。

「リアン……?」

「セーラ。きみと、また冒険がしたい」

 セーラは驚きに目を見開く。

「わたしは……まっさらで真っ白にならない、本当のわたし(・・・)は……あなたが思っているほど、綺麗な人間じゃあないかもしれないわ」

「構わないよ」

 リアンは微笑んだ。

「それでいい」

 もう一度、セーラは表情を揺らして。

 それから、きらり、きらりと煌めく涙を零した。


 リアンの願いを聞いたキードとシファとティアは、三人ともうなずいた。

 キードが言う。

「私が求めるのは多くの知識……そして世界の真実だ。だが、それは自らの目で……この足で、追い求めたいんだ」

 シファが。

「まあ、私はもともと願いなんてありませんし。……お金があったら便利でしょうが、今は別段困っていません」

 そして、ティア。

「あたしも……もう夢は叶ったから。リアンたちのおかげで。だから、リアンの夢を叶えるのが、今のあたしの願いだよ」

 霊鳥に叶えてほしい願いはない。三人ともすがすがしい表情でそう言った。

 なら。

 リアンは仲間たちを見渡した。

「じゃあさ。こういうのはどうだろう? ――新たな冒険を」

 その言葉を聞いて、一人は眼鏡に触れながらうなずき、一人は目を輝かせて、一人は呆れたように肩をすくめた。

「いいね。私はそれにしよう」

「あたしも! それがいい」

「……まあ、私はなんでもいいです」

 すると、セーラは微笑んだ。

「では、わたしの最後の仕事です。……あなたたちの願いを叶えます」

 セーラが両腕を広げて目を閉じると、その背から大きな翼が。

 そして揺らめく虹とともに、霊鳥フィリオスルピアへと姿を変えた。

 それが青空に向かって舞い上がると、煌めく光の粒子とともに、一枚の古びた紙がひらりひらりと目の前に落ちてきた。

「これは……?」

 リアンが紙を拾い上げて広げる。すると、それは何かを記された地図だった。

 横から覗き込みながら、キードが興奮した口調で早口に言う。

「これはなんだろうか? 伝説の海賊ブライトが遺した宝の地図とか? あるいは、もっと別の……たとえばイスカ島のような、隠された聖地が記されているのかもしれないね」

 それを聞いて、ティアがはしゃぎ出した。

「すごい! 新しい冒険の始まりだね!」

 シファが苦笑する。

「好きですねぇ」

「シファは好きじゃないの?」

「私はべつに……」

 ティアが首をかしげる。

「じゃあ、シファはどうしていっしょに旅を?」

「それは……まあ……」

 シファがぼそりと小声で言う。

「あんたたちが、好きだから……」

 リアンたち三人はそれを聞き逃さなかった。みんな笑顔で互いの顔を見合う。

 そのとき、フィリオスルピアの体が大きな光に包まれた。

 白い羽根と光の粒子とともに、一人の少女がゆっくりと舞い降りてくる。

 ワンピースを着た金髪の少女は、竪琴を手に、ころりと綺麗に笑って見せた。

「あなたの冒険の旅に、わたしも連れて行ってくださいな」

 リアンが手を差し出すと、セーラはその手をそっと握った。

「もちろん! いっしょに行こう、セーラ!」




 この物語は、これでおしまい。

 夢を追い続けた冒険家リアンの、最初のお話でした。

 彼の冒険はきっとこれからも、まだまだ続きます。

 また、次の冒険譚でお会いしましょう――。

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