表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィリオスルピアの夢  作者: 栗衣栗広
最終話 夢のその先へ
29/31

第29節 フィリオスルピアの夢

 美しい吟遊詩人の少女。

 それは霊鳥の見た夢。

 いずれ夢は覚めて、また新たな夢を見る。

 だから少女は、いつも真っ白。心も記憶も、ぜんぶ。

 たとえ汚れても、傷ついても、まっさらに戻される。

 だから彼女は、いつだって何もない。

 空っぽだった。

 軽い心と体は飛んでいってしまいそうで。

 その背にまとった大きな翼は、彼女を縛り付ける鎖にも似ていた。


 空間のゆらめきの中に飛び込むと、景色は大きく変わった。

 見渡す限りの草原。頬の撫でる風。草の匂い。それは大自然というべき光景だった。

 遠く、荒れた岩山が見える。そこが進むべき道だということは、なんとなくわかった。

「行こう、みんな」

「うん」

「ああ」

「はぁ……」

 リアンが声をかけると、ティア、キード、シファの順番で返事をする。

 四人は草原を進んだ。

 途中で大型の魔物が出てきたが、キードの魔術やティアの奇跡、シファの剣術、それにリアンの持つ剣の力であっさりと倒すことができた。

 真実の剣は、本当に強力だった。ただ軽くて斬れ味に優れるだけではない。小さな力で振るっただけで、ものすごい威力を発揮して、心なしか身体も身軽になっている気がする。

「すごい剣だ」キードが言った。「おそらく、この剣であれば不死の勇者も倒すことができるのだろう」

「……そうだね」

 この剣があるから勇者ラスベルより強くなったとは思わない。けれど、勝たなくてはならない。ラスベルの無念を知ってしまったのだから。それを終わりにしなくては。

「たぶん、ラスベルはこの先にいる……わかるんだ。俺には」

「……そうですか」

 シファは疑うこともなく、その言葉にうなずいた。

 それからティアが言う。

「さ、ここからは岩山だね。いっそう大変な道のりになるけど……がんばろう!」

 その儚げな声と笑顔に皆が奮い立って、さらに先へと進む。

 岩地を。それを越えたら、崖際の道を進んでいく。びゅうと風が吹き、少しでも足を踏み外したら真っ逆さまの道を、ピッケルなどの冒険用の道具を駆使して少しずつ慎重に。ときどきキャンプを張って休みながら、襲いかかる魔物や動物を倒して追い払いながら。

 その道の先。

 渓谷を進んでいくさなか、リアンたちは強大な魔物と遭遇した。

 大地を揺るがすほどの巨体に、鋭い爪と牙。頭には禍々しい角が生え、背中には大きな翼。

「あれは……」

 言いかけたキードの言葉を、リアンが引き継ぐ。

「ドラゴンだ!!」

 竜。ドラゴン。それは気配を察知する能力も高いらしく、隠れていたリアンたちの姿をその宝玉のような瞳が捉えていた。

「どうやら、戦うしかなさそうだな……みんな、準備はいいか?」

 激闘が始まった。

 キードやティアが魔術を放つが、魔術への耐性が高いドラゴンにはほとんど効果を示さない。シファの斬撃も、硬い鱗に阻まれて歯が立たない。

 対するドラゴンの吐く炎は、直撃を避けてもすさまじい熱気によって体力が奪われていく。

 気づけば、辺り一面が火の海だった。決め手になるのは、リアンの持つ「真実の剣」しかない。

 そこでキードは地面から蔦を生やしてドラゴンに絡み付かせて阻害し、隙を作る作戦に切り替えた。シファは飛び散る破片を刀でさばき、受け流し、ときにはその身を盾にしてリアンをかばって道を作る。そんな前戦の二人の受けた傷を、ティアは奇跡の魔術で癒やした。

「今だ、リアンくん!」

「ああ!」

 キードの残り少ない魔力を使って行使した魔術によって地面が隆起し、ドラゴンの体勢が崩れる。翼でバランスを取るも、その隙は大きく、リアンは一気に接近して、ドラゴンの首めがけて思い切り剣を振るった。

 莫大な霊力が込められた真実の剣が、一閃の光芒を描く。

 すでに数多くの傷を負っていたドラゴンは、その一撃によってついに地に伏した。

「やった……!」

 拳を握りしめたリアンに、ティアが飛びついてくる。

「やったぁ! すごいよリアン!」

「いや、みんなのおかげだよ」

 キードも満足げにうなずく。

「これで我々もついに、誉れ高きドラゴン殺し(キラー)というわけだね」

 シファはただ茫然と自分の手のひらを見つめている。

「どうしたんだ、シファ?」

「いえ……ずいぶんと遠くに来たと思いまして」

 世界の交わる地まで来て、ドラゴンと戦い、ついに倒してしまった。その実感がまだ湧かないのだろう。

「……そうだな」

「まあ……こんな大物が出てきたのだから、私たちの道のりもあと少しなのでしょう?」

「たぶん。……そんな気がする」

 確実に近づいているのを感じる。霊鳥フィリオスルピアに。勇者ラスベルに。旅の終着点に――。

「行こう」

 リアンたちは荒野を進む。


 荒れていた大地は、ぽつり、ぽつりと少しずつ緑の色を見せ始める。

 遠く、前方に見えるのは、自然豊かな山だった。

 その道中。

 こちらに背を向け、一人の男が立っていた。

 風になびくマントを、背負った大剣が押さえつけている。

 後ろ姿から発する気配だけでも、その人物が尋常ではない使い手であることがわかる。

「来たか……」

 彼が勇者ラスベルだ。口に出さずとも、誰もがそれを理解した。

 リアンは剣を構え、キードとティアとシファも各々の武器を取り出す。

「この先に見える山が、霊峰フィレニス。フィリオスルピアの住処(すみか)だ」

 ラスベルが振り向く。精悍な顔立ち。真紅の瞳がリアンを見据えた。

「お前の夢は、そこにある」

 武者震いを感じながら、リアンは尋ねる。

「……俺たちの道を阻むつもりか?」

 ラスベルは背負っていた大剣を抜き、構えた。

「そうだ」

 ラスベルは何を思ってこの場所で待ち、リアンたちの前に立ちはだかるのか。それは推し量ることしかできないけど。

 この大きな壁を、幼い頃からの憧れを乗り越えなくては、きっと夢にはたどり着けない。

「なら……俺はあんたを倒す」

「ああ」

「……勝負だ、ラスベル」

 リアンも背中から剣を抜いた。真実の剣。この世でもっとも強いという、夢から生まれた剣を。

「ティア、キード、シファ……ここは俺一人で戦う。……やらせてほしいんだ」

 シファとキードが静かにうなずくが、ティアだけは驚いてリアンに駆け寄る。

「一人で……大丈夫なの?」

「わからない。でも、やらなくちゃいけないんだ」

「で、でも……」

「どうしても、なんだ。……ごめん」

 固い決意に、ティアは引き下がった。その表情を見ていられないというふうに、うつむきながら。

「そんな顔されたら……何も言えないよ」

 続いてキードがリアンに近づく。

「一人で戦うのはいいが、せめてこのくらいはさせてくれ……炎よ、武具に宿れ――ファイア・エンチャント!」

 発動した魔術によって、リアンの剣に炎の力が宿った。

「あ、あたしも……! お願い、クリステイン……あたしの大切な人に、祝福を!」

 身体強化の魔術だ。ティアの霊石が発する奇跡の力によって、リアンは全身に力が湧くのを感じる。

「ありがとう、キード、ティア!」

 最後にシファがすぐそばまで近づいてきて。背の低い彼女が、リアンを見上げた。

「他の二人と違って、私は何もできませんけど」

 そう前置きをしてから。

 少しだけ背伸びをしたシファは、リアンのことを、そっと抱きしめた。

「……どうか、無事で」

「ああ」

 それを見たティアは少しだけむくれてから、困ったように微笑みながらため息をついた。

「行ってくる」

 リアンはもう一度、炎に包まれた剣を構えた。目の前に立ち塞がった勇者ラスベルへと。

「俺は憧れを、越える」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ