第28節 真実の剣
島国ライドラは、鍛治の国とも呼ばれている。
多くの名高い鍛治師を生み出した国であり、職人の国だ。
その港町も意匠を凝らした雑貨が多く、セーラがいたら喜びそうな町並みだった。もちろんティアも、未知の世界に興奮していた。
ライドラの港町で停泊し、数日間滞在して英気を養ったリアンたちは、辺境にある御霊の森を目指して歩いた。
その間も、リアンは暇さえあれば休むことなく剣の鍛錬を続けた。港に滞在しているときも、道中の野営のときも。
シファがその鍛錬にずっと付き合ってくれていることもあり、持ち前の集中力でリアンは剣の腕がかなり上達した実感があった。その証拠に、シファにもたまに一本取れるようになっていた。
そうして。
セーラと別れてイスカ島を出港してから二週間が経過した頃、一行は御霊の森にたどり着いた。
深い自然の森。
リアンたちがたどり着いた御霊の森は、そういう場所だった。
高い大きな木には蔦が巻きつき、苔が生えていて、木の根が幾重にも合わさって道ができている。たしかに迷ったら出てこられなさそうだ。しかし、太陽の光は木漏れ日としてしっかり行く手を照らしてくれていて、視界は悪くない。
どこからか川のせせらぎが、かすかに聞こえる静かな森だった。これなら問題なく進めそうだ。
「行こう」
リアンの言葉にキードもティアも、シファもうなずいた。
森の中を進んでいく。迷わないように慎重に。
歩き始めて少し進んだところで、前方から美しい音色が聞こえてきた。竪琴の音。旅の間、何度も聴いた彼女の調べ。
「この音……」ティアが耳を澄ましながらつぶやく。
リアンはうなずいた。
「ここにいるんだな、セーラ」
竪琴の音のほうへと、リアンたちは進んでいく。
音色は遠くなったり近くなったりと、まるで彼らを導いているようだった。
やがて、竪琴の音色は安定してすぐ近くになり、茂みを越えると、そこに白いワンピースを着た金髪の少女がいた。
「やっと見つけた」
リアンの言葉に、セーラは微笑む。以前と変わらぬ、息を呑むほどに美しい顔で。
「ついてきてください」
「うん」
再会したのも束の間。さらに森の奥へと進んでいくリアンとセーラを見て、キードとティアとシファの三人は互いに顔を見合わせた。
「ついてこいと言われても、これからどこに行くんだい?」
「ねぇ、久しぶりに会ったんだし、ゆっくりお話しない?」
「…………」
樹木の根を跨ぎながら、木漏れ日の中をセーラは先導して歩いていく。その背中を追っていると、ぽつりとセーラがつぶやいた。
「これから……皆さんに、わたしのすべてを明かします。……といっても、わたしは空っぽだから、伝えられることは、そう多くはないのだけど」
何度か木々の間を通り抜けたところで、視界が開けた。
湧き出る泉によって作られた池。奥にはひときわ大きな大樹。
そして大樹の真下に。池の中央、蔦に絡まれて苔むした石の台座に、一本の剣が刺さっているのが見えた。
シンプルだが美しい装飾の、銀に煌めく刃を持つ剣だ。
「リアン」
セーラが振り向く。その瞳に映る感情の色は薄く、考えを読み取るのは難しかった。
「この剣は……?」
「これは、真実の剣。かつて一人の冒険家が願い、霊鳥がそれを叶えて生み出されたもの。およそ世界でもっとも強力な対魔の剣です。……今のあなたには、必要なはず」
今度はキードが疑問を投げかける。
「どうしてそんなことを知っているんだ……? きみはいったい、何者なんだ……」
リアンがそれに答えるように、つぶやく。
「……やっぱりきみは、俺の夢だったんだね」
セーラはうなずいた。
「わたしは、あなたの冒険をずっと見てきたわ。楽しいときも、苦しいときも。頑張っているときも、のんびりとしているときも」
そして、彼女は微笑んだ。いつものように、綺麗に。
「さあ」
白魚のような手が、この先に進むようにうながす。
リアンは一歩ずつ、慎重に泉の中へと入り、台座へと近づいていく。
それをティアたちは、静かに見守った。
やがて泉の奥に来たリアンは、台座に刺さった剣の柄に手をかけて、ゆっくりとそれを引き抜く。
剣はあっさりと抜けた。
驚くほど軽く、そして計り知れないほどの霊的な力を感じる。
「セーラ、俺……」
振り向いたとき、セーラは膝を抱えて座り込んでいた。まるで眠っているように、あるいは時間が止まってしまったように、身じろぎ一つしない。
皆が見守る中、セーラの瞳から涙が一雫、零れ落ちた。
刹那――。セーラの背中から白い大きな翼が広がり、柔な体が羽に包まれる。そして彼女は虹をまとった霊鳥へと姿を変え、空に向かって羽ばたいていった。
「セーラ!」
リアンとティアが同時に叫んだ。シファもキードも息を呑んで頭上を見上げている。
『世界が交わる場所にある……霊峰フィレニスで、わたしは待っています』
空を羽ばたく霊鳥から、あるいは耳の奥から、かすかに声が聞こえた。
ふと奇妙な感覚に襲われて背後に目を向けると、剣の刺さっていた台座の奥にある大樹がゆらりと歪んだ。いや、大樹の手前の空間が歪んでいるのだ。
「この先に進めば、世界が交わる場所というところに行けるんだね……セーラ」
キード、ティア、シファの三人も、木の根などを伝ってリアンの近くに来る。
「リアンくん、行くのかい?」
「うん」
「まさか、セーラちゃんが霊鳥フィリオスルピアだったとは……」
そう言うキードだけでなく、予想外の事実にみんな驚いていた。だけど、三人ともゆっくりとそれを受け入れて、リアンのそばに来る。
「リアン……あたしも最後まで付き合うよ」
「ありがとう。みんな、いっしょに行こう。俺と……夢を叶えてくれ」
「まあ……私もすることがないですし、行きますけど」
ゆらゆらと揺れる、空間のゆらめき。そこにリアンはまず手を突っ込んで確認してみる。大丈夫だとわかったら、今度は体ごとそのゆらめきに飛び込んだ。




