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フィリオスルピアの夢  作者: 栗衣栗広
第三話 黒竜伝説
24/31

第24節 照らし合わせ、伝承を読み解く

 薄青色と白。リアンは空の中にいた。

 上も下もわからない。どこに立っているのかも。地に足がついていないから、宙に浮いているのかもしれない。

「リアン……」

 誰かが呼びかけてくる。遥か遠くから聞こえるようで、あるいは耳元にささやきかけるような。

 初めて聞く声なのに、懐かしいような。不思議な声だった。

「俺を呼ぶのは、誰?」

「リアン、聞いてください」

 問いに答えることなく、その声は言葉を続ける。

「これから行われようとしている、黒龍封印の儀は……本当に正しいことでしょうか?」

「それは……正しいか、なんて……」

 間違っているとは思う。だが、それを放棄すると、世界が危機に瀕することになる。そこに是非はないはずだ。

「この儀式には、ある矛盾があります」

「……矛盾?」

「あなたは、それに気づいているはずです」

 たしかに。黒龍封印の儀には、何か違和感がある。

 あと少しのところで、言葉にできないのがもどかしい。

「それは、歴史と伝承……」

「え?」

「あなたの知る過去の歴史の、表と裏の両方を読み解いて、その過ちに気づいてください。……あなたなら、できるはずです」

 伝えるべきことは伝えたとばかりに、声の気配が遠くなっていく。

 空はかき消え、やがて辺りは闇に包まれた。


 空と雲が消えて、暗闇の中。

 あぐらをかいて座りながら、リアンは考え続けた。

 歴史と伝承――。

 これまでの情報の中に、おかしな点はないか。今のリアンにできることは、おそらく考えることだけだから。

 黒龍封印の儀には、生贄が必要。

 そう、生贄だ。

 儀式の日、巫女は火山に飛び込む。

 霊石の巫女の役目は、命を賭して儀式魔術を発動させることだ。それによって黒龍は封印できるという。

 だが、千年前のラスベルはそれをせずに、何らかの方法で黒龍を封印している。

 そして、ラスベルは――黒龍封印の儀という習慣を作った……?

「何かが、おかしい……。当時のラスベルやエレナは、そんな誰かの命を使った封印で()しとしたのか?」

 封印の維持には巫女の犠牲が必要ならば、最初の生贄になるのはエレナだったのではないだろうか。

 だが、黒龍イリュードフレアを封印した後に、エレナは暗殺者によって殺害されている。

「……何か…………前提が、間違っている……?」

 手記で見た内容だけでなく、実際の伝承とも比べてみるべきだ。

 実際の伝承では、どうなっていた――。

 生贄。

 黒龍の復活。

「常闇の賢者は……巫女の命を生贄に捧げることで、黒龍を現世に呼び寄せようとした……」

 勇者ラスベルの作った、黒龍封印の儀というしきたり。

 勇者――だが、リアンの出会ったラスベルは、勇者というにはあまりにも恐ろしい人物だった。

 もしラスベルが、その頃から人間に対して憎しみを抱いていたとしたら。

 黒龍の呪いをその身に宿したラスベルが、黒龍の復活を望んでいたとしたら。

 黒龍封印の儀は、本当は――。


 そこでリアンは目覚めた。花畑の中で、朝日を浴びて。

 隣にいたはずのティアもいないことに気づいて、リアンは飛び起きた。

「ティア、どこに……そうだ、儀式は!?」

 周囲を見回すと、ちょうど村のほうから白いワンピースを着た金髪の少女が駆けてきていた。

「リアン、ここにいたのね」

「セーラ。もう動いて平気なのか?」

「はい。それよりも、もう儀式が――」

「セーラ、ラスベル冒険記のストーリーは覚えてるよね?」

「え? ええ……」

 突然のリアンの質問に、セーラは戸惑いながらもうなずいた。

「その……常闇の賢者が黒龍を現世に呼び出した方法って、どんなのだった?」

「えっと、それは……」

 セーラは顎に指を当てて、頭上を少し見上げてから答える。

「巫女であるエレナの命を捧げようとして、でもラスベルに邪魔されたから、最後は自らの命を使って黒龍イリュードフレアを顕現させました」

 そこまで言ったところでセーラは、はっと表情を変えた。

「え……これって、もしかして……」

「セーラ、気づいたか?」

 セーラはきっと頭がいいから、これだけの情報でも何か違和感を覚えたのだろう。

「伝説の勇者――ラスベルは言っていた。『すべての人間に復讐する』って。……その方法が、黒龍イリュードフレアを復活させることなら」

 リアンたちの知っている伝承だって、廃都で見つけた手記だって、間違っているかもしれない。長い年月によって歪められているだろう。

 だけど、それはこの「黒龍封印の儀」だって同じだ。

「黒龍封印の儀は……黒龍イリュードフレアを甦らせるための儀式だったんだ」


 その直感は、おそらく正しい。

 黒龍封印の儀はラスベルが提唱して始められたと伝えられている。

 であれば、それ自体が過ちであり、仕掛けられた罠なんだ。

 それには、セーラも肯定した。

「たしかに……儀式魔術が必要だとしても、巫女が火口に身を投げるなんて方法は、おかしいわ」

 リアンは走った。儀式の行われる山のほうへ。

 前回の儀式を放棄したときに黒龍イリュードフレアが不完全な状態で復活したのは、それだけ力を取り戻しているという証拠だ。

 急がないと。もう、儀式が執り行われている頃だ。

 山に向かって装飾された道を通り、リアンはただ走った。後ろからはセーラが遅れてついてきているけど、待っている余裕はない。

 火口に近づくと、動物の牙や宝石などたくさんの装飾によって飾られていて、そこに人が密集している。おそらく村中の人が集まっているのだろう。

「儀式を……儀式を中止してくれ!」

 叫びながら、人波をかき分けて、リアンは進む。

「これは罠だ! 儀式を中止するんだ!!」

 その声を聞いた村人たちが、リアンを取り押さえようとする。

「黒龍封印の儀をやめろだって!?」

「やはり余所者が儀式の邪魔をするのか……!」

 火口に近づこうとするリアンを、村人たちが止めようとする。

 腕や肩、腰を掴まれても、それを懸命に振り払ってリアンは進んだ。

「ティア!」

「リ、リアン……?」

 火口縁では、霊石の巫女としての衣装で着飾ったティアが、途切れた橋のような飛び込み台の上に立っていた。

 美しかった。思わずリアンは、一瞬だけその姿に見惚れる。

「おとなしくしろ、余所者め!」

 その間に、リアンは村人たちに取り押さえられた。

 ちょうど近くにいたキードが、驚いてそれを見ている。

「リアンくん!」

「キード、儀式を止めてくれ!」

 それを聞いたキードは、悲しげな顔をして言う。

「リアンくん……もう、それは無理だよ……彼女の心のことを考えても、ここは島の掟通りに――」

「ちがう、これはラスベルの罠なんだ!」

 キードは目を見開いた。

 そのとき、人波の中から黒い影が飛び出してくる。

「よくわかりませんが……」

 シファが、リアンを取り押さえていた村人の一人に飛び蹴りをかました。

「なんだかおもしろそうなので、付き合いましょう」

「……シファ! 助かる!」

 シファが刀で村人たちを脅しているうちにリアンは抜け出して、ティアのもとへと走る。

 儀式を取り仕切っていた村長のエルマンが、慌てて皆に指示を飛ばす。

「くっ、早く儀式を完遂させるんだ。急げ!」

「待ってください……!」

 リアンの叫びも届かず、火口縁にいる人々が呪文のようなものを唱え始めた。

 駆け寄ろうとしたリアンの腕を、キードが掴んだ。

「リアンくん、待つんだ。もう遅い。ここで儀式を止めるのは、まずい……!」

「離してくれ。今は説明している場合じゃ……くそっ!」

 リアンはキードの腕を振り払って走る。

 同時に、エルマンがティアに告げた。

「さあ、ティア……火口に飛び込むんだ」

 儀式の最後の行程。ティアは自ら火口へと身を投げ出すことで、儀式は完成する。

「ごめんね、リアン……」

「待って――」

 ティアは深呼吸して、火口へと向かって体を倒す。そのまま、真っ逆さまに落ちていくように。

「ティア、だめだ! その儀式は間違いだ! ラスベルは巫女を生贄にすることで、黒龍を復活させようとしているんだ……!!」

 火口に身を投げ出しながら、ティアは目を見開いた。

「え……?」

 火の中に落ちていく、華奢な体。何かにつかまろうと、ティアは手を伸ばす。火口縁に駆け寄ったリアンも、必死に手を伸ばした。

 届かない。

 二人の手は、空を切った。

 そのとき、火口の中から、炎によって形成された龍の頭が飛び出してきた。

『――我が復活の(かて)となれ』

 巨大なあぎとが開く。

 驚きに目を見開く村人たち。

 炎の顎が、落ちていくティアの体を飲み込んだ。

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