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俺は覇王、今から世界を統一するが文句はないな?  作者: 物語あにま
厄災龍討伐編

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小手調べの第一波

 王都から遠く離れた草原。眼前には、黒鉄色の幹を持つ鋼群茂クラウディオが生い茂る森——魔鉄ダマスカスの森が広がっていた。


 吹き抜ける風が草を揺らし、そのざわめきとは裏腹に、レグノム王国陣営には張り詰めた空気が漂っている。


 草原には幾重もの陣が敷かれ、王国騎士団、冒険者、魔法師たちが整然と配置についていた。武器の手入れを終えた者は険しい顔で前方を見据え、魔法師たちはいつでも魔法の起動句を唱えられるよう準備を整えながら魔力を巡らせている。誰もが迫り来る戦いを理解していた。


 その中央に立つレオンハルトは、魔鉄の森を真っ直ぐ見つめていた。腰に佩いた赤き魔剣へ手を添え、微動だにしない。その姿は、戦場を見据える一国の王子としての威厳に満ちていた。


 その時、一頭の軍馬が土煙を上げながら陣営へと駆け込んでくる。


 馬を降りた騎士は息を整える間もなく膝をつき、力強く報告した。


「レオンハルト殿下、冒険者の斥候部隊より伝令です! 魔鉄の森の先より初級、中級の魔物の群れが押しよせているとのこと!」


 周囲の騎士たちに緊張が走る。しかしレオンハルトの表情は変わらない。


「群れの構成と規模は?」


「焔連山と紫氷山の初級・中級が大半です! 上級魔物は確認されておりません! 飛行する魔物は火喰い鳥とアイスバーンの二種のみです! その数、地上およそ五千、飛行種が二千!」


 報告を聞いたレオンハルトは静かに頷く。


 予想と大きな違いはない。こちらの兵力は一般兵士が二千、王国騎士団が五百に魔法師団三百ほど、そこに加えて冒険者が二千あまり。ほぼ互角と言っていいだろう。


 それに、敵は数こそ多いが、脅威となる上級個体は確認されていない。事前に練り上げた布陣で十分に迎え撃てると判断した。


「それならばおおむね予測通りだ。作戦の開始を各隊に通達せよ!」


「ハッ!」


 騎士は再び馬へ飛び乗ると鞭を入れて走らせ、各部隊へ命令を伝えるため草原を駆け抜けていく。


 その背を見送りながら、レオンハルトはゆっくりと魔鉄の森へ視線を戻した。


 ――始まる、か。


 草原を吹き渡る風が、戦の幕開けを告げるかのように旗を大きくはためかせた。


――次の瞬間だった。


 魔鉄の森の奥から地鳴りにも似た轟音が響き、無数の魔物が魔鉄の森を突き破って姿を現す。



「カカカッ!」「グルァーー!」「グァッ! グァッ!」「シャァーーッ!」「グオオオオオ!」


 その数は数千――いや、それ以上。


 氷属性と炎属性に偏った構成から紫氷山と焔連山の魔物たちに違いあるまい。それらが合わさり濁流のような勢いになった大群が、王国軍めがけて一斉に草原へ雪崩れ込んだ。


 土煙が舞い上がり、大地は激しく震える。


 だが、王国軍の陣形は微動だにしない。


 戦列後方の弓兵は静かに矢を番え、中央では魔法師団が杖を掲げて詠唱を開始する。そして最前列には歩兵隊、左右から遊撃するように冒険者たちが得物を握り締め、その時を待っていた。


 レオンハルトは迫り来る魔物の大群を真っ直ぐ見据え、静かに右手を掲げる。


「弓兵隊――放てッ!」


 号令と同時に、無数の矢が空を覆い尽くした。矢は黒い雨となって魔物の群れへ降り注ぐ。鋭い悲鳴が草原に響き、先頭を駆けていた魔物たちが次々と倒れていく。しかし、その程度で勢いが止まるほど敵の数は甘くなかった。後続の魔物が倒れた仲間を踏み越え、なおも王国軍へ向かって雪崩れ込んでくる。


「魔法師団、続け!」


 間髪入れず、後方に控えていた魔法師団が一斉に杖を掲げた。


 炎が奔流となって地を焼き、氷の槍が敵陣を貫き、暴風や雷光が空を裂き、火喰い鳥と氷飛竜アイスバーンを容赦なく撃ち落としていく。


 様々な属性の魔法が絶え間なく降り注ぎ、魔物の進軍は大きく乱された。


 そして――。


「歩兵隊、騎士団突撃!」


「ギルドも続けぇぇぇッ!」


 鬨の声とともに歩兵隊と王国騎士団が正面突撃、鉄級から金級の冒険者達が左右両翼から一斉に駆け出した。


 怒号が草原を揺るがし、剣と槍を掲げた兵士たちが魔物の群れへと突撃する。冒険者たちも長剣や戦斧、長槍や戦鎚、珍しい者だと魔導銃を手に続いていった。


 戦場はすぐに怒号と咆哮が入り混じったものになっていく。剣戟が響き、魔法が炸裂し、草原は乱戦の様相を呈していく。


 そんな戦場の一角で銅級冒険者の男と焔蛙フレアトードが死闘を繰り広げていた。周囲の他冒険者らは各々魔物を相手にしていて助太刀に入れそうになかった。


「ゲッコォオ!」


 赤熱する焔蛙の前腕が振り下ろされた。銅級冒険者程度の装備と魔纏装ではとても防ぎ切れない一撃。しかし体勢が崩れて受けざるを得ない状況故に剣で受けてしまう。

 

「くっ……!」


 焔蛙の熱爪を受け止めた衝撃で剣が弾き飛ばされ、体勢を崩してしまう。


 その眼前で、大きく口を開けた焔蛙が飛びかかる。


「しまっ――!」


 近づいてくる灼熱の息が頬を焼き、眉毛が焦げる臭いが鼻をつく。


(終わった)


 剣はない。身体も動かない。真っ赤に燃える口腔だけが、ゆっくりと迫ってくる。


 刹那、濃厚な魔力を纏った拳が一閃。


「やぁぁぁっ!」


 小さな影が横から飛び込み、振り抜かれた拳が焔蛙の醜い横っ面へと炸裂した。


 轟音とともに焔蛙の巨体が吹き飛び、他の冒険者と戦っていた狼型の魔物を巻き込みながら地面を何度も跳ねながら転がっていく。ウルフ系の魔物はその衝撃で即死したようだった。


「なっ……!?」


 倒れた男が目を見開く。そこに立っていたのはキマイラのぬいぐるみを頭に乗せた少女――ホトだった。


 焔蛙は痛みに呻きながらも怒り狂って起き上がり、口から灼熱の火球を連続で放つ。男は思わず叫んだ。


「危ない!」


 だがホトは慌てることなく一歩踏み込んだ。迫る火球を余裕を持ってかわし、そのまま懐へ潜り込む。


「セイッ!」


「ゲェッ!?」


 そしてアッパーで一閃。たるんだ腹部へ華奢な腕がめり込み、焔蛙の巨体が浮き上がる。


「まだまだぁッ!」


 息つく間もなくホトの脚が半月を描き、ハイキックを頭部に叩き込み、浮き上がった蛙の巨体を地面へと叩きつけた。哀れ焔蛙の頭部はひしゃげ、地面へ叩きつけられて潰れてしまった。


 土煙が舞い上がる。


 煙が晴れた時、そこには完全に動かなくなった焔蛙の姿だけが残っていた。


「大丈夫っすか!?」


 ホトは振り返って若い冒険者の身を安じる。ホトを見た冒険者は息を呑んだ。


 それはつい最近のことだ。男は、ホトがギルドで銅級の指定クエストに挑もうとしていたのをたまたま見ていた。酒場の隅でこんな子供が銅級に上がれるわけがないと仲間内で盛り上がっていた。


『なんだあのちっこいの』


『子供が鋼群茂クラウディオの採取なんてできるわけないぜ、ハハハ』


 そんな言葉を口にした。己の実力不足にかこつけて、酒場で管を巻いているだけの男が偉そうに。


「すげぇ……」


 思わず呟いた冒険者の男に、ホトはきょとんと首をかしげる。アスターとウズメの地獄の修行に加えて、闇ギルドで修羅場を潜り、モニカのしごきに耐えたホトである。今さら焔蛙を倒したことに凄いと言われてもいまいちピンとこなくなっていた。


「この人、頭でも打ったんですかね? ケガしたなら早く逃げたほうがいいっすよ! ここはアタシが受け持つんで! ほら、立てるっすか?」


「あ、ああ……」


 男は震える手でホトの手を握り返してようやく立ち上がった。


 男は胸の奥が締め付けられるのを感じた。自分はこの勇敢な冒険者を笑い者にしたのだ。


 子供が銅級になれるはずがないと。


 採取依頼すら満足にこなせないだろうと。


 そんな身勝手な決めつけで見下し、己の鬱屈を晴らすように酒場で笑い者にした。


 だが現実はどうだ。


 男が殺されそうになった焔蛙を、この少女はたった一人で、しかも徒手空拳で圧倒した。


 剣も槍も使わず。


 魔法に頼ることもなく。


「……悪かった」


「え?」


「いや、なんでもねぇ」

 

 今さら謝ったところで、ホトは何を言われたのかすら覚えていないだろう。

 ただひたすら修行に打ち込む日々の中、他人から向けられる悪意を覚えている余裕などなかった。その積み重ねが、今のホトを形作っていた。


 そして、その在り方が男にはなにより眩しかった。


「ありがとう。あんたは命の恩人だ」

「えへへっ! 無事ならよかったっす!」


 屈託のない笑顔。

 敵を倒した誇らしさも、自慢もない。ただ目の前の人が助かったことを心から喜んでいるだけの笑みだ。

 男は思わず笑みを浮かべる。


「……本当に、すげぇ奴だ」


 この戦場で生き残ったらこの小さな女冒険者の武勇伝を酒場で広めてやろう。


 そのために今は剣を取って生き残らなければ。


 男は魔物の群れに飛び込んでいくホトを尻目に、退路を切り開いて撤退していくのだった。

次回更新は8/16(日)21:00の予定です。

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