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俺は覇王、今から世界を統一するが文句はないな?  作者: 物語あにま
厄災龍討伐編

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勇気の定義

 ヴォルカニオンの巨体を、巨龍の鱗すら断つ剣閃が切り裂いた。


「一ノ剣・鱗断ち」


 《サーマルゲイン》で集めた熱が剣に宿り、巨人の溶岩肌に食い込み、その下の硬質な岩肌を焼き切っていく。


 深々と刻まれた傷から、ドロっとした溶岩が体液のように噴き出した。


 しかし相手は腐っても上級の魔物。ヴォルカニオンは倒れない。


 傷口から炎が噴き上がり、肉が蠢くように、粘度の高い溶岩が傷口を埋めていく。まるで時間を巻き戻すかのように、切り裂かれた傷が徐々に塞がっていく。


「これでも再生するか!」


 ルシエルが舌打ちした、その直後。ヴォルカニオンの巨腕が振り上げられる。


 拳に纏った濃密な魔力が、瞬く間に炎の魔力へと変質する。


——爆発魔法エクスプロージョンか!


「――クソッ!」


 轟音が鳴り響く。巨腕が地面を叩きつけた瞬間、爆発が大地を駆け抜けた。


 土塊も岩石も、周囲の草木さえも木っ端微塵に吹き飛んでいく。


「ぐっ……固有駆動ユニークロード・サーマルバリア!」


 ルシエルは咄嗟に魔装ギリオンの魔導盾を展開。即座に、魔導盾から放出された熱の盾が爆炎を受け止める。


 それでも衝撃を殺しきれない。ルシエルは後方へと吹き飛ばされ、地面を転がった。


「ルシたん!」


「俺のことはいい!」


 ルシエルは跳ね上がるように立ち上がり、迎撃の態勢をとった。


 先ほど付けた傷は、まだ完全には塞がっていない。


「モルティ!」


「任せろってーの!」


 モルティが魔導杖を掲げれば、ヴォルカニオンの傷口を中心に、周囲の空間が崩壊していく。


「グォ……ッ!?」


 巨人は動こうとするが動かない。足が地面に縫い付けられたわけではない。《エリアコラプス》によって空間そのものに固定されているのだ。


「その傷……ぐちゃぐちゃにしてやるから……!」


 ヴォルカニオンの身体を固定したまま、鱗断ちによって刻まれた傷跡がさらに広がっていく。


「今よ!」


 モルティの合図でルシエルが魔装ギリオンの熱出力を引き上げ剣身が赤く発光するオーラに包まれた。


 次の一手で決める——そう意気込んだルシエルを嘲笑うようにヴォルカニオンの巨体が膨張した。


「なっ……?」


 不自然な挙動にルシエルの表情が変わる。


 ドォォォォンッ!!と灼界巨人の身体が、爆発四散した。


「――ッ!?」


 無数の溶岩石が周囲へ飛び散る。天墜星葬メテオリーテほどではないにしろ、一度後退するには十分な爆発だった。


 そしてヴォルカニオンは消えた。


「……倒、した?」


 モルティがあまりの手応えのなさに首を傾げた。これで上級? 中級最上位に毛が生えたレベルではないか、と。


「いや、魔力感知を絶やすな。まだ生きているぞ」


 ルシエルは魔導剣を構えたままだった。


 飛び散った溶岩石たちは消えていない。魔法生物は魔力核からの供給がなければ体を維持できずに崩壊するはず。


「上級というのは本当に、下手な人間より知恵が回る……!」


 ルシエルが苦汁を舐めたように歯ぎしりした瞬間、落ちた溶岩石どもがボコッ、ボココッと膨張していく。


 数十——いや、百を超える小さなヴォルカニオンたちが生まれていく。スケールは十分の一ほどになったもののいかんせん数の暴力というのはバカにならない。元が上級の魔物ならなおさらだ。


『グオオオオオオオオッ!!』


「分裂した!?」


 一体一体が元のヴォルカニオンから一回りほど小さな――それでも中級の最上位ほどの魔力を放っている。


 ヴォルカニオンは倒されたのではない。


 自らの身体を細分化することで、《エリアコラプス》による拘束から逃れたのだ。さらに――小型化したヴォルカニオンたちが一斉に魔力を高めながらこちらに突貫を開始する。


「まずい!」


 上級の爆発魔法エクスプロージョンによる自爆攻撃。


 人間大の溶岩ゴーレムとも言うべきそれらが数十、数百すべて自爆するつもりで突っ込んでくる。いくらなんでも広範囲すぎて《サーマルゲイン》でも《エリアコラプス》でもカバーしきれない。


「全員、退避しろォォォッ!!」


 ルシエルは叫んだ。この戦場に残っていた救助者や騎士、冒険者の生存率をわずかでも高めるために。


 ――その瞬間、少女特有の高い声が緊迫した状況で場違いに響いた。


「こんにゃろぉぉお! 悪あがきするんじゃねえですよっ!」



 灼界巨人ヴォルカニオンが戦場に出現してから、完全にホトは出遅れていた。魔鉄の森近くでドォン! 派手な戦闘音が連続して聞こえる。


「ヤバいですよ! もうドンパチやってるっぽいっす!」


「だから、ほかの魔物と戦わずに皆と待機しておれば良かろうと言ったであろうに!」


 ホトの頭の上でちょこんと乗ったキマイラが、呆れたようにため息を吐いた。


「だって魔物いっぱいいたし、放置したら他の人が怪我するじゃないっすか!?」


 昨日の野戦病院での惨状を目にしたホトは、一人でも多くの人を生かして返したいと強く思っていた。


 しかし、キマイラは諭すようにホトを叱った。


「人の心配をする前に、まず自分が生き残ることを考えよ」


「むぅ……」


 最もな物言いだった。アスターとウズメも自分の身を最優先に考えろと言うだろう。


 そんな言い争いをしながら、二人は群がってくる魔物を可能な限り無視して戦場を駆け抜けていく。


 焔蛙が跳びかかってくる。


「当たらないよ!」


 ホトは身体を捻ってかわす。


 雪狼が横合いから牙を剥く。


「邪魔!」


 身体を低くして避けて、そのまま走り抜ける。


 やがて――開けた草原へと飛び出した。


「――ここっすか!?」


 ドォォォォォンッ!!


 凄まじい轟音が大地を揺らした。


「うわっ!?」


 思わずホトが足を止める。


 遥か前方。空から落下してきた巨大な隕石群が、炎の尾を引きながら大地へと迫っていた。それがヴォルカニオンの放った高等魔法だとホトが気づくのは、隕石群を目で追った先にいる灼熱の溶岩巨人を見てからのことだった。


「な、なんすか……あれ……」


 ホトの顔からは今までの余裕が消えていた。


「アレは天墜星葬メテオリーテ……敵も味方も関係なく焼き尽くす高等魔法であるな。止めねばまずいぞ……!」


 キマイラの司る属性も火と土の二属性。天墜星葬の魔法を知っているし、使うこともできる。が、今のぬいぐるみのままでは対魔法アンチマジックを使い相殺することも叶わない。


 隕石群の直下には、二人の人影があった。


「あ、騎士団長さんと魔法師団長さん!」


 ルシエルとモルティと言ったはずだ。ホトはなんとか名前を思い出した。


 そこからは圧巻であった。二人は迫り来る超巨大な隕石群を固有魔法を使い、うまいこと天墜星葬メテオリーテをきり抜けてみせたのだ。しかも周りへの被害を一切出すことなく、だ。


「…………」


 ホトは言葉を失っていた。これまで戦ってきた魔物とは、何もかもが違う。


 内包する魔力の密度。


 魔法の威力の規模。


 ホトの喉が、ごくりと鳴る。


「これが……上級での戦い……」


 ホトの視線の先。炎と煙の向こうから、巨大な影——ヴォルカニオンが姿を現した。全身から灼熱の魔力を噴き上げる巨人が、一歩踏みしめただけで大地が揺れる。


 ホトは思わず後ずさった。戦いの次元レベルが違う。


「…………」


「怖いか?」


 頭上のキマイラが尋ねる。今までキマイラが見てきたホトの戦いではビビって口数が多くなることはあっても、黙って固まってしまうことなどなかったからだ。


「分かんない……」


 ホトは拳を握った。


「けど……入りづらいっす」


 その声には明らかな戸惑いが混じっていた。


 自分が入っていけるような戦場ではない。そう、本能が告げている。


 そんな舞台でルシエルとモルティは戦っている。


 高等魔法による暴力をいなしてしまう二人ですら、ヴォルカニオンを相手に一進一退の攻防を繰り広げ、他の騎士や冒険者を救助している余裕などなさそうだった。


 ならば、自分が行ったところで――。


「…………」


 ホトは立ち尽くした。己の無力をこれほど肌で感じたことは初めてだったのだ。


——人の心配をする前に、まず自分が生き残ることを考えよ。


 キマイラの言う通りだ。まだまだ未熟で、身を守ることも不十分なくせに、他の人間を守ろうとするなんて傲慢だった。


 しかし——。


「キマさん……勇気って、力がない奴は見せちゃ駄目なんですかね」


「……駄目ではない。が、人はそれを無謀という」


 ホトが「やっぱり」と思っていると、キマイラが「だが!」と続けた。


「不倶戴天の敵を前にしたとき、一歩を踏み出した者にこそ勇気が宿るのも事実! その時、諦めずに敵を見極め、己の武器を知り、立ち向かうことが勇気なのだ!」


 キマイラはぬいぐるみの肉球でホトの頭をポンと叩いた。


「それを教えてくれたのは他でもない、吾輩の主人であり、大切な友人——アスターだ」


 キマイラがホトの頭から飛び降り、向かい合って見つめてくる。


「今こそ問おうホトよ。お主がいま持っている"力"は悔しそうに握ったその拳だけか? この無様な姿のぬいぐるみはただのお目付け役であったのか?」


 そこまでしてハッとホトは気づいた。

 自分一人で何とかしようとしていた。その考えが烏滸がましいのだとキマイラは婉曲に諭してくれていたのだ。


 ホトのアーモンド色の瞳に再び闘志の炎が燃え上がる。


「キマイラさん、アタシに力を貸してください」 


 キマイラは「ふっ」と軽く息を吐いた。


「良かろう。ならば吾輩という力を使いこなせ——さあ解錠の呪文を唱えるのだ!」


 ホトは頷き、頭に叩き込んでおいた呪文を空で詠唱し始めた。


「ホトの名において命ず。ここに頑強にして壮健なる獅子を現したまえ。解錠せよ――――四聖"キマイラ"、《解錠》!」


「ガアァァァァァァッ!!」


 キマイラが元の金獅子の姿に戻って咆哮を轟かせれば、辺りの魔物はその迫力に呑まれ一斉に散って行った。


「キマさん背中乗りますよっ!」


「おうとも! ともに戦場いくさばを駆けようぞ!」


 ホトはキマイラの背中に飛び乗った。そしてヴォルカニオンを見据えると、戦局はルシエルとモルティに傾いていた。


 空間系の魔法でヴォルカニオンを足止めしているようで、そこにルシエルがとどめを刺そうとしている。——が次の瞬間、ヴォルカニオンは大爆発をかまし、その身を粉々に吹き飛ばした。


 それを見たキマイラが「マズいな……」とぼやいた。ホトにはヴォルカニオンを倒したようにしか見えなかったが……キマイラにはまったく別の状況が見えているらしい。


 その目利きは当たっていたようで、地面に転がった溶岩石たちはそれぞれが人間大のミニヴォルカニオンと化して蘇っていた。


「あわわ、なんすかあれ!?」


「ヴォルカニオンの分裂体だ! 魔力感知で良く観察するのだ! 本物のヴォルカニオンは一体しかおらん! ちなみに吾輩は魔力感知は苦手なので本物はわからん!」


「ええっ!?」


 じゃあアタシがやるしかないじゃないですか!? と言いたくなった。しかし、それこそが己のできることならば——むしろ望んで挑むべきだろう。


——やってやりましょうじゃないっすか!


「むぅ〜! 全力魔力感知っ!」


 ホトは感覚領域を広げ、この戦場の魔力を細かく洗い出し始めた。この時点で常人より遥かに優れた魔力感知能力だ。


 そしてミニヴォルカニオン軍団の中に、他とは違う魔力の動きをしている個体を見つけ出した。本体ヴォルカニオンは、大軍の中央に陣取っていた。そして他のミニヴォルカニオンたちの足元に地下から魔力を込めた溶岩流を流し、この場一帯を自分のフィールドに変化させていたのだ。巧妙に隠された戦術である。


 が、見破れたのなら脅威は半減する。


 ホトは本体がいる付近を指さしてキマイラに命令を出す。


「見つけましたキマさん! あの大群の真ん中に本体がいるですよ!」


「素晴らしいぞ!」


 ——何という早さか!


 ホトの才覚に感心する一方で、キマイラはゴッ!と四足を繰り草原を駆け出した。


 その間にもミニヴォルカニオンたちは猛り狂い、魔力を高めながら走り出した。

 

『グオオオオオオオオッ!!』


「まずい! 全員、退避しろォォォッ!!」


 全員を守り切れないと判断したルシエルが、この場の全員に撤退命令を下した。


「ヴォルカニオンめ! 爆発魔法で自爆攻撃をする気ぞ! ホト、突っ込んで止めるぞ!」


「えっ!? そんなことしたら——」


 ホトの懸念通り、こちらを優先的に爆発魔法で仕留めに来るだろう。


「うむ、我々が先ず狙われるであろうな! まあ、吾輩とホトであれば問題あるまい!」


 ——問題大有りなんですけど!?とホトが叫ぶ間もなく、キマイラはミニヴォルカニオンの群れに突っ込んでいく。


 謎の再生能力があるからと言って扱いが雑な件について、ホトがクレームを入れようと決心した瞬間だった。


「グオッ!?」


 ヴォルカニオンの本体もこの突撃に気づいたようだった。ヴォルカニオンにとってホトは虫けらのような存在だが、その騎獣となっているキマイラは脅威なのだから当然である。


 ホトたちを——正確にはキマイラのみを——迎撃するべく分体ヴォルカニオンたちの半数ほどを差し向けてきた。


「ふん、今さら吾輩の気配に気づいたか——飛べ、ホト!」


「ひぃん!」


 ヴォルカニオンたちが自爆しかけた瞬間、キマイラの尻尾にいる真ん中の緑蛇が、ホトのケツを思いっきり押し上げた。


 その瞬間、キマイラを衝撃と爆風が襲ったが、ホトは空中を飛んで難を逃れた。というより下方からの爆風に煽られて余計にふっ飛ばされたの方が正しいか。


 そして偶然とは怖いものでホトのちょうど着地点付近に本体ヴォルカニオンが見えていた。ならば情けない悲鳴を上げた汚名返上をするしかあるまい。


「こんにゃろぉぉお! 悪あがきするんじゃねえですよっ!」


 拳に魔力を込め、全力で殴りかかろうとする。


「グォ!」


 ヴォルカニオンも本体を守るために分体を一体を囮として壁にし、さらに三体のヴォルカニオンを飛びかからせた。


 ミニヴォルカニオンたちの魔力が膨れ上がり、爆発の気配を漂わせる。ヴォルカニオンの本体は表情こそ動かないものの余裕綽々として笑っているように感じられた。


「くっ!?」


「怯まず突き破るのだ! ガイアベール!」


 爆発魔法エクスプロージョンを物ともしなかったキマイラから援護の魔法がかけられる。身の守りを堅固にする土属性の上級魔法だった。


 刹那、ドォン!と三体のミニヴォルカニオンが破裂し、大爆発を引き起こす。


 岩の破片と黒煙が地面に落ちてゆく。


「ググ……」


 ヴォルカニオンが改めて王国軍の残党を殲滅しようと向き直り——


「カハッ!」


 ボフッと黒煙の中から飛び出してくる影、ホトが現れた。酸欠と黒煙中毒を防ぐために止めていた息を一気に吐き出し、丸めていた体を半身に開く。ガイアベールで守りきれなかった部分は肉が抉れたり、大火傷を負って黒焦げになっていたが、頭と胴体はしっかりと守り抜いていた。


——シュゥゥゥ……!


 黒煙に混じりながら、焼き焦げた右腕から再生の赤い煙が上がり、空に彗星の如く尾を引いた。


「グォ!?」


 まさか!?とヴォルカニオンがホトの生存に気づいた時には、すでにホトは無防備なその背中目掛けて拳を放って——岩盤を砕くような激しい打撃音を立て、ヴォルカニオンの魔力核を打ち抜いた。

次回更新は9/6(日)の予定です。

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