15.邪神
【観測せし者】のアドバイスに従って逃げた先で神人とシズネはスローライフを行い始めた。
彼らは農地を耕し、木の魔術で栽培を行ったり、土と金の魔術で必要なミネラルを取れるようなサプリを創り出し、狩りを行うことで生計を立てていく。
(……というより、ここまで便利な物を創れたんだなぁ……わざわざ奴隷なんていらなかったんじゃ……)
遅れながら神人はそんなことを思うが、永遠に山の中で一人きりと言うのもなかなか精神的に辛い物があっただろうとして後悔はせずにシズネに目を向ける。
(……イカン。やることがないからか……どうもシズネの何気ない行動が扇情的に見える……)
肉まんの仮面の中に表情は隠されているがどうもエロティシズムを感じさせるスタイルの良い身体にあどけない仕草。それほど広くない小屋に長い期間二人きりな上、他の人と出会うこともない。
「……どうかなされましたか?」
「あ、あぁ……いや、何ともない……」
見過ぎていただろうか。シズネの涼やかな声音で我に返る神人は首を振って前を向く。これからどうするかはまだ特に考えていないが、トレーニングだけは欠かさない。そんな彼を尻目にシズネは静かに水浴びの為に小屋から出て行った。
湖にて、シズネは溜息をつく。
「……アピール、してみたんですが……」
豊満なバストに引き締められた身体。肉付きの良いヒップにかけての曲線に水滴を流しながらシズネはそう呟いて仮面を後頭部にずらして顔を洗う。
「……いえ、ですが……意識はして貰っている様子ですから。もう少し、頑張りましょう……」
先程の神人の様子を見る限り、全くもって異性として見られていないというわけではなさそうなので気を取り直してシズネは透明感あふれる湖面に体を沈め、魔術で以て清めていく。
「いつ、何があるか分かりませんからね……せめて体だけでも綺麗に……」
不意に気配を感じてシズネは体を湖の中に全て落とし、気配を辿ってそちらを睨む。そこには何もいなかったが、シズネはどこか嫌な気分になったのですぐに沐浴を切り上げて小屋へと戻って行った。
王国。
神人と同郷の人間たちが召喚によって呼び出された国の外れで彼の同級生たちが3人1組で舌打ち交じりに巡回をしていた。
「チッ……見つかんねぇなぁ……幾ら魔法がある世界だからっていってもこんだけ広いんだしあいつ見つけるのとか無理じゃね?」
「まぁ、でもこれ仕事だしなぁ……うろうろして適当に時間潰してるだけで金になるんだぜ? バイトより楽だしこれでもいいだろ……」
「でも見つけろって言われてるのにな……」
比較的真面目に働こうとしている男と別に見つからないなら見つからないで適当にやって給料だけもらえればいいという考えの男が並んで歩いているとそこに最後の一人が走って来る。
「おい、さっき全裸で水浴びしてた人がいた! めっちゃスタイルが良くてよぉ……」
興奮気味な男子生徒に二人は冷ややかな目で答える。
「そりゃ、甲冑身に纏って水浴びする奴はいないだろ。」
「はいはい、どーせ筋骨隆々のおっさんとかだろ?」
こっちが一所懸命……別に一所懸命に動いていない奴もいるが、サボらずに探し回っているのにこいつは何をやっているんだろうと軽く苛立っているとその男はにやにや笑いながら続けた。
「いや、多分美女。あんまり見えなかったけどな~雰囲気は美人だったぜ。」
「……で?」
「王宮で腐るほどヤレるしなぁ……正直、もう面倒というか……」
冷ややかなスタンスを崩さない二人に走って来た男は不満気になる。
「んだよ。前だったらノッて来たくせによぉ……取り敢えず、俺さっきの子の情報集めるわ。」
「お前、そんなのより鈴木見つけろよ……」
「無理、俺の能力視認した相手の情報しか手に入らないから。」
真面目に働く男の言葉を端的に断って適当に働く男が軽くイラッと来ている真面目な男を宥めていると急に覗きをしていた男が声を上げた。
「んだよ。実は男だったとかか? ざまあ。」
「いや、違う……さっきのは普通に女だった、けど。見つかったぞ……」
「何がだ? ふたなりか?」
「……そのネタから離れろよ。」
腹いせにからかってくる仕事に対して真面目な男に覗きをしていた男がにやりと笑って告げた。
「水浴びしてた女、鈴木の奴隷だってよ。何らかの手掛かりは持ってるはずだ。この辺りを虱潰しに捜してさっきの女を捕まえよう。」
「げっ……お前見つけんなよなぁ……」
「給料もらってるんだからその分は働くぞ! オラ、文句言ってないで行くぞ!」
3人は王国に報告を入れてから山狩りの準備を始めた。
「……おかしいな。」
その存在は、彼が与えた能力を行使したことによって得られた情報を見て思わずそう呟いた。
(鈴木 神人。彼は僕の能力が付かなかったはず……なのに、まだ生きてた? しかも、データをよく調べてみるとドラゴンまで倒してる……)
能力を付与してもドラゴンを倒すことが出来るようになるまでにはそれなりの時間が必要だ。そういう風に世界は設定されているのだから。
元々、それほど強い能力は与えていないはずで、実際に見てみると能力などなかったのだがそれでも現在の情報を見ると幾つもの能力を手にしており更に調べると局所的に派手な動きを示している。
「異常だね……これは僕が直々に見る必要があるな……【天眼】。」
彼は情報が送られて来た場所を見下ろし……すぐさま仰け反った。
(な、何っだ……あの、禍々しい棒は……僕はあんなものをこの世界に創り出した覚えはないぞ……か、【解析】……)
思わぬ異物を発見してすぐさま排除に乗り出すその存在。そして彼は百面相を行うことになる。
(め、【冥魔邪神】の創った……【冥魔邪神】の本来の加護は掛かってないみたいだから一安心だが……適当に生み出されてるのに何て威圧感……絶対排除しないと……僕の計画が破綻したらことだ……)
この世界を全て壊す前に反乱が起きたら面白くない。この世界を統べる邪神はそう考えて神人が持つ棒を何とかしようと思考を巡らせる。幸い、向こうはこちらに気付いていない。
(【冥魔邪神】と敵対はしたくない。だからあの棒には手を出さない方が良いか……あの男自体には加護はかかっていない。でも、棒を経由して通信のようなものが繋がってる……向こうも手は出さないつもりみたいだが、こっちが下手に刺激をしたら……)
身を起こして動き始めて考える。過去のデータを分析して対策を打たなければいけない。そして、彼はある情報を聞きつけた。
「へぇ……こいつは寿命で死にたいんだな……? なら、簡単だ……死ぬまで幽閉するとしよう……下手な影響が世界に及ばないように……それにあの棒を自動で動かすことも出来ないみたいだしな……」
邪神が、動き始めた。




