16.未知との遭遇
「っ……! 何でここが!」
現在、神人たちは山狩りに遭って包囲されていた。神人はそんな中で【観測せし者】を行使しつつシズネの手を引いて逃げ回っている。
(……まぁ、【観測せし者】があれば別に逃げられるし、一応元同級生だから殺したくないからな……ということで、【観測せし者】さん。逃げ道を教えてくださいな。)
(……お好きなルートをお選びください。)
念話先の声に従って逃げて行く神人。その精度は凄まじく一度も元同級生たちと鉢合わせすることもなく山の深部へと進んで行く。
そこまではよかった。
(……まだ追って来るのかよ……こっちは疲れてるってのに……)
相手はずっとしつこくついてきた。それに伴いこちらの体力が切れ始め、【観測せし者】の発動時間も心許ないものになり始めたのだ。
「チッ……【観測せし者】!」
「居たぞ! さっきから変な魔術を使ってる! まずは魔力を吸い取れ!」
「なぁっ!?」
俺が対策を【観測せし者】に尋ねる暇もなかった。魔力を吸い取られた俺は強制的に【観測せし者】を解除させられてシズネと一緒に囲まれる。
「……チッ。」
「ご主人様……」
舌打ちをして毒づいてみるが内心ではもう限界が近い。これまでは最悪の場合に陥っても【観測せし者】が何とかしてくれるという安心感があったが、それが失われたことから一気に追われる恐怖が襲い掛かって来た。
(何で逃げられなかったんだ? 【観測せし者】の不調? そんなことがあるのか?)
考えられなかったことだが、こちらの常識など通じないような世界なのだ。この様なことがありえなくもない。しかし、神人はそのようなことを完全に失念しており事ここに至ってしまってはどうしようもない状態だった。
(くっ、それでも何とか逃げないと……!)
自分だけが捕まるのであれば【神武撲殺杖】もあるし、最悪助命嘆願を行って何とか処刑の日を遅らせることが出来れば、明日にでも再び【観測せし者】を使って逃げられるのだが、シズネがいると分断されて人質にでも取られると身動きが出来ない。
神人は一気に奪われてしまった魔力の残りを使ってシズネだけでも逃がそうと能力を発動する。
「ご主人様!?」
「悪い、後で合流するから先に逃げててくれ……」
光の中に包まれて行くシズネは自分がどういった状況に置かれているのか理解して悲痛な声を上げる。しかし、この状況下でもどうにかなるだろうと高を括っている神人は軽く笑って消え行くシズネを見送るだけだった。
「……? おい、片割れはどうなった?」
術式の発動に気付いてすぐにこの場に現れた元同級生たち。神人はシズネを逃がしたことに満足気に笑いつつ両手を上げて降参の意を示しながら告げる。
「愛想尽かされたよ。王城から呼ばれてるんだろう? 抵抗しないから連れて行ってくれ……」
神人の言葉に訝しむように元同級生たちは顔を見合わせる。しばらく警戒のために様々な術式が掛けられるが問題はないと判断された神人は王都に向かって護送されることになったのだった。
神人が送られた先は彼が想像した王城ではなく、大聖堂と呼ばれる教会の勢力下だった。その地下牢に連れて行かれた神人は首を傾げながら粗末なベッドに腰掛ける。
「……魔術はやっぱり使えないか。」
護送中などもずっと横になって休む代わりに回復して来ていた魔力を使ってシズネを逃がした時のように転移の魔術を組もうとするがそれは失敗に終わる。それは想定内だったので次の手段に移った。
「【神武撲殺杖】」
神人の手に単純な杖ながらあまりにも美しい杖が現れるとそれを持って神人は牢を破壊しにかかり、
「……やっぱり間違いないねぇ。」
「っ!?」
突如として背後から聞き覚えのない不明瞭に割れている青年の声が聞こえてきた。その異質さに慌てて後ろを振り向くとそこには認識することも許されないような人型の何かが漂っていた。
「君、それはこの世界のモノではないよね?」
「っ、あ、あぁ……ヒュッ!?」
「口の利き方に気を付けたまえ。」
世界の狭間に落とされた時のような息苦しさに陥る神人、しかし影が忠告を入れた後は何事もなかったかのように重圧から解放される。そんな彼に影は続けた。
「そして、君が元いた世界のモノでもない。……じゃあ、それは何だい?」
「俺にも解りません……」
「黒いローブの男性神からもらった?」
ド直球に尋ねられたその言葉に神人は思わず息を呑んだ。その反応を受けて影は揺らめいて不明瞭で割れた声を震えさせ、最悪の音を奏で始める。
「き、きひっ、アレが、史上最悪が、ここにっ? いや、なら、こいつが俺に捕まるなんて、こんなことになってる訳がない。じゃあ、ナンダオマエ?」
「わっ、かりません……」
その答えに人型の影が揺らめいて急速に接近し、手と思われる何かが神人の首を掴み、神人は闇に触れてしまう。
「あっ、がっ……」
「ホントに、分からないみたいだ……が、何か条件が……下手に刺激を与えると、後が……」
すぐに興味をなくしたかのように神人を解放する影。何か呟き居ながら檻の側によると奇妙に明るい声で神人に告げた。
「じゃあ、下手に刺激を与えて殺されてもヤダし、君は一生ココで生き永らえてもらおうか。何となく察したけど君に定められた条件は他殺されないことみたいだからねぇ……」
影の顔らしき部分に裂け目が入って赤々とした何かが見える。その光景にぞっとしてしまう神人は身を強張らせて反論することも出来なかった。そんな神人を見て影は更に笑う。
「クックック、正解、かな? じゃあ大人しく天寿を全うしてもらおうかね……なぁに、安心して一生そこにいるといい。その杖に触れると危険そうだから放置するけど檻はその程度じゃ壊れないように設定してある。」
心配事が片付いたと愉悦の笑いを響かせながら彼と思われる人型はシズネのお蔭で神人を見つけられて本当に良かったと言い残して消えて行った。
神人は人影が急に消えたこと、そしてシズネが人影に神人を見つける手助けをしたという発言に呆然となり粗末なベッドに仰向けに倒れ込むと、何も言うことが出来なかった。




