13.悪手
ゲートから戻ってランドドラゴンを持って帰ったギルドでは絶句。その文字が相応しい対応を受けた。
蒼褪めた顔でかすかに震えながら素材を受け取り、依頼を達成したことを承諾するギルド嬢は神人に告げる。
「こ、この度は……こちらの、不手際で、誠に申し訳ありません……」
過度に怯えるギルド嬢に神人は軽く笑った。
「誰にでも、間違いはあるからね……仕方ない。」
「ご、ご寛恕、感謝いたします!」
勢いよく頭を下げるギルド嬢。そんな彼女は事務事項を続けて言った。
「こちら、王都に報告させていただき……」
「はぁ?」
「ひぃっ!」
神人が不機嫌そうな声を出したことに怯えるギルド嬢。そこまで怯えられることはしていないと思っている神人は頭を掻きつつ彼女に告げる。
「国に、報告するの?」
「は、はい……規則でして……私は、その……」
「……じゃあこれは引き取って別の町に行くか……」
神人の言葉にギルド嬢は非常に困った。
実力は、ドラゴンを倒すことから明白。
性格は、先日のギルドでの一件。また今回の対応からして見て不安定でどこに危険があるのか分からない。
頭脳も、非常にムラがありどう出たらいいのか分からない。
ギルド嬢は死にたくない気持ちから引き下がりたいが、ドラゴンという非常に貴重な素材を手に出来なければギルドを去らざるを得ないだろう。
まずは、慎重に説得を試みる。
「く、国の……特別機関、自由騎士に……」
「国と関わりを持ちたくないんだが?」
しかし、その努力も神人の一言ですぐに打ち砕かれた。無駄な言葉を弄すれば地雷を踏む可能性がある。
ギルド嬢は泣きそうになる自らの心を押し殺して神人を見た後、若手の為別の詳しい人物を……と言って周囲に助けを求める視線を向けた。
こちらを窺っている気配はあったのに、目は一切合わない。普段暇そうにしている人ですら書類に目を落としてこちらに意識を向けない。
「……あー……もしかして、君じゃ対応できないの?」
はいそうですと言ってしまいたい感情とギルド職員としての矜持が一瞬だけ戦い、即座に自己生存欲求が勝利する。ギルド職員は上司に丸投げすることに決めた。
「そう……です……誠に申し訳ありませんが、少々……お待ちいただけると……」
「あぁうん。わかった。」
重圧から解放されるギルド嬢。神人が機嫌を損ねないように素早く後方に下がり、誰か代わりになる上役を探す。
神人の方はこの対応はもしかしてギルドマスターコースかな~などと呑気に構えながら隠蔽工作しないと国に、いや元同級生たちに目を付けられるなどと考えていた。
しばらくして、ギルド嬢が強面の男を連れてくる。
「……あなたがドラゴンキラーですか。」
「いや、たまたまですよ。」
無駄な謙遜をする神人。そんな彼に強面の男はどう出たものかと考えながら口を開いた。
「初めまして。この町のギルドマスターを務めさせてもらっているランドルフです。」
「えぇと、初めまして。ジンです……冒険者です。」
神人は何と返事を返したらよいか分からなかったので取り敢えずそう返しておいた。
「さて、世間話もいいですが。ランドドラゴンの討伐に関してですよね。まずはこちらの不手際でご迷惑をおかけしたこと、誠に申し訳ありません。」
しっかりと腰を折って謝罪するギルドマスターランドルフ。自分より年配者のこんな姿を間近で見た神人はそれを宥めて顔を上げさせる。
「もういいですから、その……ドラゴンの素材とかに関しての話をお願いします。国に報告とか……」
「……ギルドの方から一定額以上の支払いを行う場合、国に報告義務があるのですよ。脱税を疑われないため、そして国の方から予算を貰って買い取りを行うという業務をするために。」
ギルドマスターはまだ謝罪をした方が良いだろうと思っているが、向こうが話を先に進めようとしてくるので平身低頭で説明をしていく。つまるところ、最初に告げた理由で報告義務があるということを伝えながら言葉の間に謝罪を混ぜていく方針だ。
「あの、そこまで謝られてもこちらが気にするので、それよりどれくらいなら国に連絡しないで買取できます?」
「……ドラゴンの指、程度ですかね……」
ギルドマスターは自分が取っていた謝罪が逆に相手を不快にさせていたことを知り、背中にじっとりとした汗を滲ませつつ話を進める。
それと同時に目の前の彼がどうやら王国に何らかの負い目を持っている、もしくは王国で何らかの重罪を犯したのではないかと推測した。
対する神人はやはり交渉ごとは自分ではできなさそうだと痛感し、今日の所は戦闘で【観測せし者】を使用している為、もう使えないから諦めて明日、続けて交渉をすることにした。
「えぇと……やっぱり疲れているのでこういう話は明日にします。シズネは大丈夫かな?」
「ぁ……私は……何もしていないので……申し訳ありません……」
「何で謝るの? まぁいいや。帰ろう。」
交渉を途中で切って神人はシズネを連れて自宅に戻った。そんな彼を見送るギルド側はすぐさま王国に対して連絡を取る。
ギルドの特徴などの通報により神人が異世界人であることに気付かれるまで、そう時間はかからなかった。




