11.お詫びとして
翌日、神人はシズネに謝罪として好きな物を買ってもらうことにした。当人たちは両方ともデートだと思っているが、両方とも下心を見せないように取り繕っているので買い物という名目で小売りの店などを渡り歩く予定だ。
その為に神人は午前中にギルドの用件を殺気を用いて自分なりに上手く処理して午後、ギルドから出た場所で家から出てくる予定のシズネを待ちつつ切札である【観測せし者】を行使する。
(ま、まずはどうしたらいいんですかね……?)
(…………使う場所間違えていると思うんですが……まぁいいです。童貞君に今回の相手が喜ぶことをお教えしましょう。まず、今回のケースの場合既に同棲していますし、化粧はあの仮面で隠されているので出会った時に褒めるのは服装や装飾品の類だけになります。)
(きょ、今日の服はどの服ですかね……?)
【観測せし者】は溜息をついたようだ。
(電話越しにあなたの下着は何ですか?と尋ねてくる不審者ぐらい気持ちが悪いですが一応答えておきますと……モノトーンを基調とした服装でスカートの下にはチュールが入った物ですが……)
(……よく似合ってるよ、とか……いや、あの服に……)
(あなたは何をしようとしてるのですか?)
【観測せし者】が不意にそう尋ねると神人はその質問の意味が分からずに少し止まって答えた。
(いや、服装を褒めろって言われたので……褒め言葉を今から考えるべきだと思って……)
(これだから童貞は……服自体を待ち構えて褒めてどうするんですか?デザインコンテストでも開くんですか?褒めるのは相手のセンスです。服を褒められて喜ぶのは仕立て屋であって彼女ではないですよ?)
神人は黙った。
(全く……死んだ方が良いんじゃないですか?それに、似合ってるも何もあなたが選んだ服でしょうが……正確には私が選んだものですが。間接的に自分を褒めているだけですよ?)
(……じゃあどうすれば……)
(まぁ今回はそれでいいんですけどね。)
いきなりの掌返しに神人はその場で目を開いて周囲の人に訝しがられる。
(ど、どういう……)
(今回の場合は相手が奴隷と言う自分より完全な格下で、相手も主人にとって相応しい自分になりたいという願望を持っているので自分のセンスに似合うという言葉は褒め言葉になります。よかったですねチキン野郎。)
(じゃあ何でそこまで罵倒されたのか……)
(ただ似合ってるだけじゃ褒め言葉として足りないからですよ。相手が望んでいるのはあなたの趣味に、自分が適合しているという安心感です。尤も、あなたの望むものとは外れているので言いたくないでしょうから私はここで止めておきますが。)
いろいろ考えることはあるが、何も言い返せない。取り敢えず似合っていると褒めることにして神人は次のことに思考を移動させる。
「えぇっと……」
(不審者みたいなので思考でお願いします。)
(……さっきから酷いな……)
(ムッとする暇があったらさっさと質問してください。神の叡智に対して奴隷という絶対的なアドバンテージを持つ相手へのデートの質問をする方がおかしいのですが、聞いて差し上げてるんですよ?)
何の反論も出来ないので神人は内心でもやもやしつつ告げる。
(デートのプランは……どういう物が良いですかね……?)
(……少しは自分で考えられたらどうなんですかね……一応、初頭効果というものとピークエンドの法則と言うものの説明を頭の中に入れてあげますが……)
要するに一番最初と大きく盛り上がる部分。そして最後の部分が印象に残るというものだ。
(細かく内容を決めて行くよりも入りを良くしてこの後の流れを掴み、全体的な印象をよくしてあまり気を張らせず、決めるところは決めて最後に繋げるという物です。)
(……成程。勉強になります……)
(市場などに一緒に出掛けた際に彼女の反応を見ていれば相手が望むことも手に取るようにわかりますよね?)
……肉まんの仮面なので良く分からない。そう思ったので反論したがそれに対して【観測せし者】は呆れるように返す。
(……逆に、視線の幅が狭まっているとは考えられないんですか?あなたはいつも自分のことしか考えてないんですね。歩くペースにしてもそうですし。)
(そんなの言われないと分からないに決まってるじゃ……)
(……相手は奴隷ですよ?主人に対して言えると思ってるんですか?死ねばいいのではないでしょうか?)
デート前にメンタルをボコボコにされながら神人はデート前の準備を済ませてシズネを待つ。
そして、デートが始まった。
「……はぁ。こいつはダメです……」
【観測せし者】のシステム応答室で神人の対応をしていた女神はそう呟く。
「まぁ、社長的には面白い展開になってるからいいんじゃないか?」
「……でも、サポート的には困り物なんですよ……」
ヘルプサービス課の課長の応答に女神は困ったように返した。
「……午前中のギルドの対応……何故、私を呼ばずに力尽くで解決しようと……ギルド側も対策を打って来るに決まってるじゃないですか。」
「何を打たれた?」
愉しげに質問されて女神は溜息交じりに答える。
「処分ですよ。適正ランク以上のモンスター討伐による、事故で処分するみたいです。……まぁ、社長様の【神武撲殺杖】がある限り相手がよほどのモノでもない限り負けはないんですが……今の所野良ドラゴンのようです。これは楽勝なんですがね……」
「名声が高まるとその神が出張るからな。クックック……」
「部下の困り顔を見て笑うとは……」
課長をジト目で睨む女神。それに飽きると神人からの要請に答えつつ会話を続ける。
「……短くなりそうですねぇ……このお話。社長様の渡した本、全然埋まらないで死なれると困るんですが……」
「ここからが腕の見せ所だろう?質問されたことだけに答えつつ、条件はギリギリで躱し、生かさず殺さず。ずっと欲求を満たすために動かせ続けるのが私たちの仕事だ。」
「……せめて蒔いた種くらいは回収してから死んでもらいたい物ですが……」
「ま、期待しておくよ。」
そう言って課長が離れて行くのを見送った後、女神は神人を中心とした世界を眺めて呟く。
「……個人的には、伸び白があるという感じで嫌いではないんですがね……」
誰にも聞こえない呟きの後、彼女は再び業務に戻った。




