10.殺気
亀さんごめんなさい。
宿に何事もなく泊まることが出来た後、トレント討伐の依頼を済ませて元気にレーモーネ村からヴィルグランへと戻って来た神人はすぐにギルドへと向かって依頼終了を報告する。
「……おぉ、流石です……流石、ヴィルグランの期待の新星……」
「いえ、違います。……あの、そういうのは止めてほしいんですけど……過度な期待を掛けられても困ると言うか……」
【観測せし者】の効果がない状態での神人の結構強めな言葉はあっさりと躱されてまた次もよろしくお願いしますと言う言葉に掻き消されてしまう。
「一先ず、ジン様のギルドランクの見直しから行いますので、また明日、いらしてください。」
ギルド嬢の言葉に神人は一応発言をしておく。
「その、あまり過度なサービスは遠慮させていただきたいんですが……」
「まぁ、その謙虚な姿勢……素晴らしいです。査定に入れておきますね。」
「……止めろっつってんだろ……」
何を言っても無駄だと判断した神人は溜息交じりに聞こえるか聞こえないかレベルの声量でそう呟くが、ギルド嬢は気にした様子も見せずに軽く頭を下げた。
「申し訳ありません。なるべくお客様のご希望に沿いたいのですがこれも、仕事ですので。」
「……チッ。」
昇格すると言うのに態度の悪い神人に周囲から若干、苛立ちの籠った視線が向けられる。しかし、神人の方がイライラしている。
(これで下手に目を付けられて殺されたらどう責任とってくれんだよ……特に王国には目を付けられたくないってのに……最悪国外逃亡するぞ……)
苛立ちから察して欲しいと思いつつ殺気などが使えれば無言で黙らせることが出来るのに……とふと思い、ここがファンタジーの世界だということを思い出して後で殺気の練習をすることにした。
(と言うより、何で俺はここに留まろうと……まぁのんびり暮らしたいだけだから一々冒険するのが面倒なんだけどさ……鍛錬用の木も植えて成長してるし……でも最悪やっぱり逃げる準備だけはしておかないと……)
「それでは、ありがとうございましたー」
「……はい。」
遣る瀬無さを命いっぱい抱えながら神人はギルドを後にした。
道中疲れて先に家に帰らせたシズネのために果物を買って帰路に着きながら神人は色々考える。
(家、買ったから根付き始めちゃってたか……後で【観測せし者】さんで建築でも検索して魔術で簡単に家を作れるようになればそう言う感覚もなくなるかも……あ、でもその前に相手を威圧できるようにもならないと舐められがちだし……)
この世界の常識に染められつつ、神人は先にシズネを帰らせた家に着く。そこで体を洗うと休息の為に少し寝て、【観測せし者】を起動して現状の打開を開始した。
「ん……やっぱり、殺気とかあった方が格好いいよな……俺、あんまり喋るのは得意じゃないし失言とかあったりするし……だからって舐められるのも嫌だし……というか、単純に格好いいし……」
(格好いいとか格好悪いとかよりも機能を重視した方が良いのでは?まぁ、あんまり口出しして堅実に向かわれると面白さを損ねると造物主様のご不興を買うので好きにすればいいのですが……)
【観測せし者】の言葉を聞きながら神人は独り言をつぶやくようにしてベッドに腰掛けたまま悩む。
「一回で、やったら……痛いんだよなぁ……」
(痛くない物もありますが。)
「……何か得体の知れない説明が怖いから止めとく。」
頭の中に流れてきた情報が怖かったので神人は現在欲しい物をある程度諦めて【観測せし者】にそう返す。すると嘆息が実際に聞こえるような口調で【観測せし者】は同意した。
(まぁ、人間では分からないでしょうね。ヘタレ。そうした方が良いです。で、結局どうするんですか?死にます?)
「いや、生きるけど……」
神人は悩んだ挙句、一先ずは殺気のコントロールを手に入れることにし、他の候補は消した。
(では、参ります……あ、明確な死のイメージが流れ込むので死にたくないのでしたら頑張ってくださいね。)
「え?っっっっ!か、っは……うわあぁぁぁぁああぁぁぁっ!」
頭の中でのた打ち回る死のイメージ。
圧死、暗殺、縊死、憂死、壊死、殴殺、貫死、噛殺、狂死、苦殺、決死、枯死、惨死、刺殺……
「あが……いぎぃいぃぃぃいいぃっ!」
「どうしたんですか!?」
……銃殺、蝕死、失血死、殉死、呪死、焼死、ショック死、水死、戦死、穿死、素死、炭死、恥死、痛死、癲死、凍死……
「大丈夫ですか!?一体何が……?【癒しの風】!」
「ぐあ、が……ひゅっ……はぁっ……だ、だだいじょ……がぁあああぁぁあっ!」
……撫死、念死、伸死、破死、火死、封殺、憤死、変死……
「すぐに誰かを呼んできます!」
シズネが人を呼びに行こうとした手を神人は掴む。その間にも魔死、魅死、無死、滅死、薬殺、癒死、熔殺、螺殺、躙殺、濾死、話殺……など元の世界では味わうことが出来ないであろう様々なことに出会い、そして落ち着いた。
「つっ……あぁ……悪いな……っ!これ……」
「あ、これは大丈夫です……その、大丈夫ですか?」
恐ろしい程の力で掴んでしまったらしく、シズネの手の色は一目で分かるほど変色していた。シズネは弱々しい笑みを見せつつもそれを癒し、神人の方を心配そうに覗きこむ。
……肉まんのお面の角度から、覗き込んだと思われる。
(【観測せし者】さん、どうすれば……)
(氣の解放を久々に行って、あまりにも久々だったので失敗し、それを無理矢理収めるためにあの状態になったと説明しなさい。後、屑男の所為で痛んでしまった手についての謝罪をしっかりすること、それと、抑え込んだため、氣の解放が出来るようになったことを告げてこれからのことに違和感をあまり持たれないようにしておきなさいDV最低野郎。)
神人はすべて【観測せし者】の言う通りにし、それに加えて後でお詫びをすることを約束した。




