交渉成立
「な、なにをしたのフリージア!」
しばらくの間惚けていたエウリオ先生が、私の服に掴みかかってくる。あれ?なんかいけないことした?
「いま、治癒系統魔法を作ったわよね!?」
興奮して息が荒いエウリオ先生の問いに、首を縦に振って頷く。
「どうやって?!」
「どうやってって、普通に治癒のルーンと消毒のルーンを刻んでから効果を限定させただけですよ?」
効果を限定させた方が成功率が高くなるしね。
「消毒?なんで消毒のルーンを刻むのよ?」
「もし傷口に細菌が付いていたとしたら、そのまま治癒してしまったら細菌を体内に取り込んでしまうじゃないですか」
首を傾げながら不思議そうに答えた私の言葉に、エウリオ先生はやけに納得しながら何度も頷いた。
「それよりも、なんで今まで治癒系統魔法が存在していなかったのですか?」
似たような物ならあると思うんだけれど。
「実は、治癒系統魔法は存在してるのよ。不完成な形でね?」
そう切り出して、エウリオ先生は語り始めた。
「傷口を塞ぐ程度の魔法なら存在しているの。でも、塞いだ後にどうしても膿んだり塞いだ場所が壊死したりしてしまって、治癒する前より酷い状態になってしまうから、実質的に使われていないわ。
それと、治癒系統魔法を一から作るのはかなり高度な技術を要求されるということらしいの。魔法陣で試した人もいたそうだけど、治癒のルーン一文字刻んだところで昏倒してしまったということらしいわ」
なるほど。ということは、この世界には消毒という概念がそもそも定着していない。消毒のルーンがあるけれど使われていない。そして、治癒系統魔法は難しくて作れず、魔法陣は使用魔力が多すぎて作れない、ということね。
「それに比べてフリージア、貴女は天才だわ!」
私の脇に手を差し入れ、持ち上げてバンザイする。子供じゃないのだけど。
「別にすごく無いです。それと、このことはエウリオ先生が作ったということにしてください」
「なんで?」
「まだ私は子供です。あまり目立ちすぎて行動を制限されたくないので。その分エウリオ先生は多大な功績を持っています。今更功績の一つや二つ増えたって変わらないでしょう。この用紙を上げますから」
治癒系統魔法陣の用紙をエウリオに渡す。他人の功績を自分の功績にする罪悪感と、治癒系統魔法陣の欲しさと戦っていたエウリオ先生だけど、最終的には用紙を受け取った。交渉成立ね。
「それと、皆さんにもこの用紙を上げますから、内緒にしてくださいね」
高速で十五枚の治癒系統魔法陣を仕上げた私の言葉に、先輩達はカクカクと首を縦に振った。




