魔法研究
壊れたハティから逃げるようにして、私は魔法研究の教室へ逃げ込んだ。といっても、まだ始業の開始時間まであと五分あるけれど。
「へぇ、この授業を選択する人間がいたのね」
席についた私に、一人の女性が話しかけて来た。黒色の髪の毛に、長く尖った耳。エルフ。魔法技術に長け、魔術の深淵を知るもの。
「ってあれ?人間じゃない。ハーフエルフじゃない」
「どうも、エウリオ先生」
エウリオ・ハーマティス。エルフの間では知る人ぞ知る人だ。「魔法を行使するためには、まず魔法の真髄を知らなければならない」をモットーにする先生であり、私はこの先生だからこそこの魔法研究を選択した。
「あら?私を知っているのかしら?フリージア・フェルマール」
「私もハーフとはいえエルフの末端ですから。名前くらい知っていますよ。この授業を選択したのは、「魔法を行使するためには、まず魔法の真髄を知らなければならない」というモットーに共感したからです」
エウリオ先生のモットーを口にした途端、エウリオ先生は凛とした雰囲気を崩し、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「なら、歓迎するわ。この授業は総勢十五名のエルフが選択しているわ。貴方で十六人目。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
そういって、エウリオ先生と握手を交わした。ちょうどその時、エルフの生徒達が教室へ入ってきた。全員エウリオ先生に挨拶しながら席に付く。
この学校の初等部は三年生で、一年ごとにリボンの色が変わる。一年生は赤。二年生は黄色で、三年生は緑色だ。
今入ってきた生徒達のリボンの色は黄色と緑色。全員上級生だ。
「はい、全員揃ったわね。これから魔法研究の授業を始めます」
全員揃ったことを確かめたエウリオ先生は、号令を掛けた。
「さて、本年度最初の授業ということで、この授業についての説明をします。この授業は他の授業とは違って自由です。魔法について調らべたり、現在使われている魔法の効率化を求めたり、新たな魔法を作ってもいいです。なにをしてもいい。これがこの魔法研究です。わかりましたか?」
簡単な魔法研究の説明に、全員が頷く。
「さて、では、各々の活動を始めてください」
先生はそういって手を叩く。その合図に従って生徒達は各々の活動をはじめた。
私かこの魔法研究を選択した理由は二つある。一つはエウリオ・ハーマティスが先生だということ。そしてもう一つは、新たな魔法を創り出すため。
この世界の魔法の系統はかなりの数があるが、なぜか治癒系統の魔法だけがない。治癒のルーンがあるのに限って、だ。
そうなると治癒などはすべて手作業でやることになってしまい、手作業ではまだ技術が足りず、手遅れになる危険性ある。
もしハティや母様達が大怪我をした時に、医療技術を持たない私ではどうすることも出来ない。なにも出来ないというのは歯がゆいもので、そうならないために私は新たな魔法を創り出すことにした。
とはいっても一から魔法を創るというのはかなり難しいことで、簡単にできるものではない。それを簡略化するために、私は魔法陣を使う。魔法陣という物はいわゆるショートカット。魔法陣さえ用意しておけば、いちいち詠唱しなくとも魔法陣を発動させれば、その魔法陣に登録してある魔法を使うことができる。もちろん、登録する手間があるが、登録するのは簡単だ。
エウリオ先生から魔法陣創作用の特殊の紙をもらい、机の上に広げる。指に魔力を込め、魔法陣創作用の紙に三重の円を描く。
内側の円に治癒のルーンを刻み、真ん中の円に消毒のルーンを刻む。そして外側の円に治癒の効果を限定させる。
すべてのルーンを刻み終えたあと、そっと魔力を込める。
魔力を込められた魔法陣は薄く発光し、私の頭の中に創った魔法陣が浮かんだ。今回創ったのは簡単な切り傷を治癒する魔法だ。
「よし」
効果を確かめるため、風魔法で薄く腕を切る
。そして、魔法陣を発動させる。足元に緑色の魔法陣が浮かび、切り傷が瞬く間に塞がった。
成功ね。
ふと後ろをみると、十五人のエルフ達が私を見て固まっていた。




