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僕の奥さん、のようなひと  作者: 花鶏
§ 鈴木議員との決着 §
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話し合い


「理子さんは体調が悪いみたいなので。お話なら僕が伺います。――そもそも、どうして僕のいないところで、この男と理子さんを会わせる必要があったんですか」


 僕の視線に、白髪の男性がしどろもどろに答える。


「藤村さんの上司の、野中です。

 鈴木先生が、親戚の男の子が藤村さんに騙されているのではと心配されていたので、彼女はそんな人ではないという話を……」


「奏汰くん。君は目上の人間を『この男』などと呼ぶような子じゃなかったはずだ。

 誰の影響なんだね?」


 この男は、何がしたいんだろう。

 僕を怒らせたいのだろうか。

 何のために。


(……僕を感情的に怒鳴らせて、第三者に、僕はまだ子どもだと、思わせるため……)


 理子さんの職場に、理子さんは金を持った判断力の弱い男と結婚したと思わせるため。


 何のために。


 正俊は、紬を欲しがっていた。

 あの女は、あの家を欲しがっていた。

 この男は何が欲しいんだろう。

 数年に一度、冠婚葬祭でしか会わない親戚。「さすが議員先生だ」と言われることが一番嬉しそうな男。


「君はまだ社会に出たこともない子どもだ。

 未熟な者が大金を持つと悪い大人に騙されたり自分を一人前だと勘違いしてしまう。

 悪いことは言わないから、真面目に勉強して、紬ちゃんは妻に任せなさい」

「そもそも、なぜ鈴木さんが遺産のことを知ってるんですか」


 鈴木議員の表情がわずかに強張った。


「それは――子どもがいる親なら、ある程度のものを残すのは当たり前だろう」

「両親の部屋を、勝手に漁ったんですか」

「人聞きが悪いな。君はいなかったし、紬ちゃんは中学生だ。

 妻は君たちのために遺品整理を手伝おうとしたのに」

「僕たちのため?

 じゃあ僕が大学を辞めて働こうとしてた時、どうして何も言ってくれなかったんですか」


 部屋を漁って、保険会社や証券会社からの書類を見つけたのだろう。

 紬の分だけでも五千万近くある。

 僕が気づかなければ、全部使えると思ったのかもしれない。

 それが、おそらくひとつも引き出せなかった。


 役所や銀行の人たちは、書類が足りないとか後見人でないと対応しないと言うことが多かった。

 煩わしかった手続きの意味を、僕はやっと理解する。


 この男は、紬の後見がとりたいのかもしれない。

 そのために、紬を手元に置き、僕を「女性に騙された男」にしたいのだ。


(……そんな、ことの、ために)


 理子さんに、あんな顔をさせたのか。


 身体が、奥底から冷たくなっていくような気がした。


(……だけど、どうして)


 あの時の僕は逃げるしか思いつかなかったけど、今は正式な後見人だし、M県を出たので鈴木の権力に抑圧されることもない。

 僕に下手に関わって正俊のことが世間に知られれば、公人としてはスキャンダルだ。


 一億というお金は、地方の県で利権を持っている議員にとって、そこまで大きな金額なのだろうか。


「……もしかして、鈴木さん、正俊さんが紬に何してたのか、知らないんですか」

「またその話かね。児相やら市役所やら、そんなに私に恥をかかせて何がしたい」


 常は穏やかな声に苛ついた響きが混じる。


「思春期の女の子が過敏になっているだけだと、児相も言っていたろう。

 十八や二十ならまだしも、中学生だぞ。風呂を覗いて何が楽しいんだ」


 言い繕っているようには聞こえなかった。


(本気?)


 本気なら、この男は、自分の息子のことをまるで見ていない。


「……録音があります」

「なに?」

「先日正俊さんがうちに来た時の会話を録音してます」

「正俊が?」


 どうやら正俊は、僕たちに会いに来たことを、父親には話していないらしい。

 鈴木の顔に、初めて動揺の色が滲む。


 本当に知らないのか。

 自分の息子が、中学生に手を出そうとする異常者だということを。


 ここで全部ぶちまけて、大恥をかかせてやろうか。


 抗いがたい誘惑が胸底から湧き上がってくる。

 そんな僕に気づいたのか、鈴木は僕を制止した。


「奏汰くん、とりあえず落ち着きなさい」


 言われて、僕は言葉を止める。


 そうだ。落ち着かないと。

 この男を抑える材料がひとつでもあるなら、それは憂さ晴らしなんかで使っていいものじゃない。


「鈴木さん。僕は、貴方の言う通り、まだ社会も知らない大学生です。

 貴方と喧嘩して勝てると思ってるわけじゃありません。

 揉め事を起こしたい訳でもありません。

 ――来年、M県議会、選挙ですよね」


 鈴木の顔から、初めて、完全に笑みが消えた。


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