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僕の奥さん、のようなひと  作者: 花鶏
§ 鈴木議員との決着 §
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土木課の応接ブース


 夕方、花束の入った紙袋を持って、県庁の入り口に着く。


 安田に唆されて理子さんを迎えに来てしまった。

 今更ながら、どうしてあいつに相談なんかしてしまったのだろう。


 役所の前で花束を持っている状況が、だんだん意味が分からなくなってくる。


 スマホを見ると、時刻は四時半。

 今日理子さんが定時で帰れるかも分からない。


「藤村さんの、旦那さん?」


 このまま帰ろうかと考えていた僕に、見知らぬ女性が声をかけてきた。

 首から職員票を下げている。


「藤村さんの旦那さん、ですよね?

 土木課をお探しですか?」


「……えっと」

「あ、わたし、村井といいます。

 最寄り駅が一緒で。

 時々、見かけてたので」


 言われて、先日理子さんを庇ってくれていた声だと思い当たる。


「ご案内しましょうか?」

「あ、いえ、勝手に来てしまったので……帰ろうかと」

「え? 呼び出されて、来たんじゃないんですか?」


 何を言われたのかよく分からなくて返答に困っていると、村井さんは首を傾げた。


「貴方の、おじさん? と藤村先輩と、話し合いしに来たんじゃないんですか?」


「……は……?」


 頭が一瞬、白くなった。


 村井さんが困ったように眉を下げた。


「聞いてないですか?

 今、土木課の応接ブースで、先輩の上司と面接してますよ」


 僕には知らされていないのだと気付いて、気まずそうな顔をする。


(鈴木議員が、理子さんと面接?)


 何だそれ。


 どういうことなんだ。


 何のために。


「――すみません、これ、預かってください」


 僕は紙袋を彼女に押し付け、先日追い返された土木課の窓口に駆け出した。


 カウンターで名乗り、戸惑う職員に強引に応接ブースへ通してもらう。

 間仕切りの奥に踏み込む。

 白髪混じりの男性と、理子さんと、あの底知れない穏やかな笑顔の鈴木議員がテーブルを囲んでいた。


 驚いた顔で僕を見た理子さんの手は、テーブルの下でぎゅっと握られていた。


 あの日、公園の街路樹の陰で震えていた姿が頭を過ぎる。


「――どういうつもりですか」


 鈴木を睨む。


「もう、僕たちには関わらないでくださいって、言いましたよね」


 鈴木は穏やかな顔で白髪の男性に声をかける。


「この通り、頑なで。だが、彼のご両親とはそれなりに付き合いがありましてね。

 年の離れた女性と突然結婚なんて聞くと、驚いてしまうでしょう。

 ご両親はかなり遺産を残していたようですし……」

「いや、ですが、鈴木先生。

 藤村は、そういう人間では、ないと思うのですが」


 鈴木は男性を諭すように頷く。


「部下を信じたいお気持ちは分かりますよ。

 ですが、育ちの違いというのは如何ともしがたいものです。

 藤村さん。こちらで少し調べさせてもらいましたよ。もしかして、奏汰くんの遺産を欲しがっているのは、お母様なのかな?」


 びくりと理子さんの肩が跳ねる。

 俯いた顔が、悲しいほどに白く血の気を失う。

 怒りのあまり眩暈がする。

 なのに、僕は不思議なほどに冷静だった。


「……理子さん。顔色が悪いです。

 あとは僕が話しておくので、休んでてください」


 声をかけたが、理子さんは顔をあげない。

 僕は理子さんの手をとって立たせ、軽い抵抗を無視して面接ブースから追い出す。


 ブースの外のソファに座らせる。


 軽く握っている手が、細い指が、冬のコンクリートのように冷たい。


(今、小町がいてくれたらいいのに)


 どこか呑気なことを考えながら、ちらちらとこちらを覗き見る他の職員たちに声をかけた。


「すみません、体調が悪いんです。膝掛けか何か、お借りできませんか」


 一人の女性職員が慌てて自分のストールを持ってきてくれた。

 それを理子さんの膝に掛けて、僕は面接ブースに戻り、鈴木の前に座った。


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