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僕の奥さん、のようなひと  作者: 花鶏
§ 鈴木議員との決着 §
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誕生日プレゼント


 それから一週間。


 出ていけとは言われなくなったけど、理子さんの様子は相変わらずだ。


 大学の講義室でスマホのカレンダーを見て溜め息をつく。


 離婚届を改めて眺めていて気がついた。

 今日は理子さんの誕生日だ。


 服などを贈るのはどうかと小野寺さんに相談したら、美味しいケーキくらいがいいんじゃないかと却下された。


(だって、ケーキは、普段でもたまに作るじゃないか……)


 何か、特別に喜んでほしい。

 嬉しい、って笑ってほしい。


 今のぎくしゃくした空気を何とかしたくて、僕は煮詰まっていた。


「なに難しい顔してんの?」


 安田が僕に乗り掛かってスマホを覗いてくる。


「何でもないよ」

「お前の何でもないは、もう信じない」


 奪われそうなスマホを庇いながら僕は安田を押し退ける。


「理子さんの、誕生日プレゼントに悩んでるだけ」


 俄然目を輝かせる安田がうざい。


「欲しいものなんて聞いても、多分教えてくれないし……服とか、贈りたかったけど、理子さんのお友達に却下されて」


 県庁で噂を聞いて、理子さんがよく同じ服を着ているということに初めて気付いた。

 あのマンションには食洗機も乾燥機付きの洗濯機もロボット掃除機もある。

 お金に余裕がないなんて想像もできなかった。

 今となれば、あまり体力のない理子さんの、単に合理的な判断の結果だと分かる。


 初めて会った時に、理子さんは泣いている僕に風邪薬を買ってくれて、倒れた紬を病院に連れて行ってくれて、住むところのない僕たちの日用品を買ってくれた。――そんなことをしているから、服を買うお金もないのだ。


(……素敵な、服、買ってあげて、悪口を言ってた職場の人を黙らせてやりたい……)


 素敵な服がどんな服かも分かってないけど。

 純粋に理子さんを喜ばせたいだけではない自分は、性格が悪いのかもしれない。


 安田が分かったような顔でうんうんと頷く。


「女の人はなぁ。教えてくれないのに、すぐ察しろとか言うからなぁ」


 察しろと思われているなら、期待もされないより全然いいじゃないか、と思う。


「今は、お金ならあるけど……確かに、親の遺産で高価なものを贈って、理子さんが喜んでくれるとも思えないし。

 かと言って、今はごはん作ったり紬の学校のこと見てたりしてて、バイトもしてないし……」

「そうかぁ……俺も金なかったから、こないだの彼女の誕プレ、花束あげたよ。

 五千円くらいで、結構良いやつ買える」


「花束?」


 それは考えたこともなかった。


 正直、花束って何の意味があるのか分からない。

 綺麗なのかもしれないけどすぐに枯れるし、美味しくも便利でもない。


 僕の心を読んだように安田が笑う。


「俺もよく分かんねーけどさぁ。

 花束貰って嬉しくない女の子はいないんだってさ。

 彼女も、渡した時はなんか色々言ってたけど、後から友達に自慢してたもん」


 大学生協と提携してる花屋なら割引がきくと言われて、安田と店舗を覗きに行く。

 日除けの下に、所狭しと縦長のバケツに花が盛られている。

 入り口を潜ると店内は芳香剤のような匂いがした。

 薔薇とチューリップくらいしか分かる花がない。


 安田が店員のお姉さんに話しかける。


「すみません! 誕生日プレゼントに悩んでるんですが、相談乗ってください!」


 こいつのこういうところ、ほんとすごい。


 カウンターから出てきたお姉さんに、僕は慌てて前置きする。


「あの、まだ買うって決めてはいなくて、」

「大丈夫ですよ〜。お友達ですか? ご家族ですか?」

「……妻、です」


 口篭ってしまった僕を、安田がにやにや見ている。ほんとにうざい。


「あら、そうなんですね、素敵ですね。

 ご予算、おいくらくらいですか?」

「……あの、女の人って、ほんとにみんな、花束貰うと嬉しいんですか?」


 目をぱちくりするお姉さんに、僕は謝る。


「失礼な質問でごめんなさい。

 でも、失敗したくなくて……あの人がお花を買ってるの、見たことないんです」


 お姉さんは気を悪くする風でもなく答えてくれた。


「私も自分ではなかなか買わないですね。

 貰うのが嬉しいかは、相手によるかな」

「プレゼントだったらもっと、残るものの方がいいんじゃないか、とか……」


 お姉さんは面白そうに笑う。


「逆、逆。お花は枯れるからいいの。

 私は、お花はメッセージカードみたいなものだと思ってて。

 物じゃなくて、気持ちのプレゼントよ。

 綺麗だし、枯れるから、少しくらい重い気持ちでも受け取ってもらえる、チートアイテム」

「えっ、なんか、お姉さん、それかっこいいすね!」

「安田、うるさい」


「ふふ。残らないのが、いいのよ。

 好きだよー、とか、元気出してー、とか、ありがとー、とかね。気持ちだから」


 思いもしない考え方にびっくりする。


 元気を出して、という気持ち。


 それは名案のようにしか思えなくて、僕は、めいっぱい元気の出そうな花束をお願いした。

 なんだか、理子さんより紬に似合いそうな、大きな明るい花束になった。


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