同居継続のお願いをしてみた
週末、僕は気合を入れて夕飯を作った。
理子さんは肉より魚、洋食より和食の方が箸が進む。
生野菜はあまり好きじゃなさそう。
たぶん、豆腐料理が好き。
鮭の炊き込みごはん、だし巻き卵、小松菜の白和え、豚汁。
スマホ先生に指示を仰ぎながら、僕に作れる精一杯で頑張った。
理子さんは出てきた食事を一瞥して、警戒した視線を僕に向けた。
「……なんかあるの」
「食べてからでいいですか」
理子さんは少し眉を寄せたが、何も言わずに箸を取る。
苦々しい顔で「美味しい」と褒めてくれた。
食器を片付けてから、三人でダイニングテーブルに座る。
「理子さんに、お願いがあって」
「なに」
誤魔化しを許さない視線に、ごくりと唾を飲む。
(同情を引く言い方はしない。
希望をそのまま、まっすぐ言う)
何度も、どう言おうか考えた。
僕たちが何を望んでいるのか、まっすぐ伝える。
できるだけ、断っても罪悪感を持ちにくい頼み方で、重くならないように。
「僕、大学に戻ろうと思います。
後見人の審査が終わったら、出ていくって言ってたんですけど……もう少し、このまま同居させてもらえませんか」
「……なんでよ」
「僕も、紬も、もっと理子さんといたいし、今はこの家が一番安心できるので。
実際に暮らしてみて、難しければ、そう言ってもらえれば」
理子さんの顔が、よく分からない表情をしている。
怒っているのとも、困っているのとも違う。
そのまま黙って視線を落とす。
テーブルの一点を見ている。
隣で紬がスマホを取り出して、何かを打ち始めた。
僕はその手をそっと抑えた。
紬が顔を上げて僕を見る。
「駄目なら駄目でも大丈夫です。
諦めて近くで部屋を探します」
理子さんの視線がこちらに戻ってくる。
「紬は理子さんのことが好きなので、これからも遊びに来ることは、許してもらえますか」
理子さんは困惑した顔で黙り込む。
それからゆっくり紬の方を向いた。
「紬さんも、同じ気持ちなの?」
紬がこくこくと頷く。
理子さんはまた視線をテーブルに落とす。
「……紬さんが」
逡巡する声が、小さく呟く。
「ここが安心できるって言うなら、……とりあえず暫くはいてもいいわ」
紬がぱっと笑顔になった。
理子さんは椅子を引いて立ち上がり、小町を回収して寝室に消えた。
紬が僕の袖を引いた。
スマホの画面に、さっき打ちかけた文字が残っていた。
『無理だったら いいよ 遊びにきてもいい?』
僕はそれを見て、同じことを言った自分に少し笑った。
『りこちゃん 迷惑だったかな?』
「うん……どうかな。一緒に住んでよかったって、思ってもらえるようになるといいな」
紬はこくりと頷いた。





