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僕の奥さん、のようなひと  作者: 花鶏
§ 未成年後見人になりました §
17/26

誰と、暮らしたいの?


 翌週、小野寺さんが税務署に出す書類を見てくれるというので、小野寺さんの家の最寄駅まで出かけた。


「ふふふ、こんな若い男の子と駅で待ち合わせなんてウキウキしちゃう!」


 ノリノリの彼女が面白かったので、僕も手荷物を持ったりドアを開けたり、頑張ってエスコートしてみた。


「えっ、楽し……

 ちょ、奏汰君、今日はあたしのこと奥様って呼んで奥様って!」


 小野寺さんはいつも元気で、一緒にいると気分が明るくなる。


 ふたりで駅前の喫茶店に入る。

 コーヒーを頼んで、軽く書類を見てもらった。


「あたしは税務は詳しくないけど、現金資産が殆どなら、そうそう大きな間違いはないと思うわ。

 あとは、ご実家に残っているものを確認してからね。

 ご実家の評価は、この小規模宅地っていう特例は使えなさそうなの?」

「ええと、実際に相続人が住んでないと駄目みたいです。

 ネットとか見ると、住んでることにすればいいみたいなことも書いてあるんですけど……何かあると嫌なので」


 特に僕たちは、公務員であるふたりに面倒をみてもらっている身だ。

 知らずにやったならまだしも、自覚してズルなどできるわけがない。


「そう。ありがとう」


 それがなにに対するお礼なのかは、僕にはよく分からなかった。


「……あの、小野寺さんに、相談があるんですけど」


 彼女は軽く頷きながら、出てきたコーヒーのカップを引き寄せる。


「お金の心配がなくなったので、大学に戻ろうと思ってるんです。

 でも、そうしたら紬は社会人の保護者がいなくなってしまうし、僕も学生ふたりで住むのは少し不安で。

 それで、このまましばらく理子さんのところに置いてもらえないか、頼もうと思ってるんですけど……」


 言いながら、我ながら図々しいと思う。


 小野寺さんはじっと僕を見た。


「……奏汰君は、誰か社会人と暮らしたいの?

 それともりっちゃんと暮らしたいの?」


 そう問われて、すぐには答えられなかった。


 葬儀の直後は、僕が働いて紬を守るのだと腹を括った。

 お金も時間も心配しなくて良くなったのに、今の方がひとりで紬を守る自信がないのは何故なんだろう。

 誰か社会人の人がいてくれると安心できると思った。


 ――だけど、誰でもいいわけじゃない。


 僕は元の大学に戻るけど、紬は転校する。

 知らない学校で、知らない子たちの中で、声も出ない状態でやっていくことになる。

 せめて家の中に、理子さんがいてくれたら、と思う。


「……理子さんがだめなら、紬とふたりで頑張ってみます」

「そっかぁ……。

 そうねぇ。奏汰君、三年生だったわよね。

 そうすると、卒業まで一年半か……」


 小野寺さんは難しい顔で考え込む。


「二ヶ月くらいならと思って応援してたけど、そんなに長い期間だと、簡単に口を出せないわ。

 りっちゃんとよく話し合って」


「……理子さんに頼んでみても、いいでしょうか。

 嫌な思いをさせませんか」


 小野寺さんは目を瞬いてから、曖昧に苦笑した。


「嫌われてるかもと思ってる?」

「……少し」


「奏汰くんのことが特別嫌いなわけじゃないと思うわよ」

「……それは、以前も聞きましたけど」


 理子さんの態度を見ていると、どうしても不安になる。

 僕の方は仲良くしたいと思っている分、悲しくなる。


「聞くのは別に構わないと思うわ。

 でもりっちゃんは、可哀想な生き物を拾う癖があるから、同情を引く言い方はやめてあげて。

 奏汰くんの希望をそのまま伝えてちょうだい。

 断られちゃったら、近くで部屋探すの、手伝ってあげるから」

「……はい」


 帰り道、電車の窓をぼんやりと見る。

 早くなってきた夕暮れの橙色の中を、景色が後ろへ流れていった。


 

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