突然の手紙
後見人になれたらすぐに不動産の売却申請をできるように、事前に退去勧告をしておいた方がいいということになった。
三人で相談した結果、多少コストがかかってもプロに任せることにした。
弁護士に退去勧告を依頼してから一週間が経った頃。
理子さんが仕事に行っているあいだ、僕は紬の勉強を見ていた。
インターホンが鳴ったのは昼過ぎだった。
モニターに映っているのは知らない顔。
紬と目を合わせる。
紬は小さく首を振った。
僕も頷いて、ふたりで黙って画面を見ていた。
しばらくして男は去った。
時間を置いてから郵便受けを見にいく。
入っていた封筒の差出人に、僕は息を呑む。
『鈴木浩平』
M県の県議――実家を占拠している女の旦那の名前だ。
(なんでここが分かったんだ)
こういうことがないために弁護士を挟むのだと、理子さんは言っていたのに。
中には便箋が一枚。
一度話し合いの場を設けたい、と書いてあった。
文面は丁寧だったが、この家にこの男の手が届いたという事実が、じわじわと気持ち悪かった。
ずっと着信拒否にしていた番号に電話をかける。
三コールで相手は電話に出た。
「久しぶりだね、奏汰君。
突然弁護士から退去の勧告をさせるなんて、随分と他人行儀じゃないか」
何度か話したことのある、穏やかだと思っていた口調が、今は殊更薄ら寒い。
「手紙を見ました。話は弁護士を通してください」
「知らなかったよ、結婚したんだね。おめでとう。
式には呼んでもらえないのかな」
だから、なんでこいつがそんなことを知っているんだ。
「お話することはないです。
退去していただいたら、もうあの家は売ります」
「落ち着きなさい。奏汰君、君は何か誤解している。
一度ゆっくり顔を合わせて話そう。
今度、そちらへお邪魔したい」
背中にぞっと寒気が走る。
何を言うか、何をされるか分からない。
こんなやつを理子さんの家に上げるわけにはいかない。
「とにかく、もう、変な人を理子さんの家に来させるのはやめてください」
電話を切る。
心臓がばくばくいっている。
理子さんにオートロックのマンションを勧めてくれた小野寺さんに、心から感謝した。




