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僕の奥さん、のようなひと  作者: 花鶏
§ 藤村奏汰になりました §
10/12

それで、実家をどうするか

 前話の紬の年金額を100→150に訂正しました。


 帰り道、小野寺さんがお惣菜を買ってくれた。

 マンションで四人で夕飯の支度をする。

 支度といっても並べるだけだったけど、賑やかで楽しかった。


 食事をしながら、これからやるべきことの話になった。


「紬ちゃんのスマホも新しく契約しないとね」

「えーと、あとは保険関係と、銀行と……証券口座なんてあるのかしら?」

「母はいつも、バターが高いとか小麦粉が高いとか言ってたから、そんなにお金はないと思いますけど……」


 理子さんが短く言った。


「調べてみないと分からない。

 通帳とか証書とか、探さないといけないわね」

「……はい」


 あの親戚が占拠している家に、探しに行かないといけない。

 少し間が空いてから、小野寺さんが切り出した。


「実家はどうするつもり?」


 テーブルの上の惣菜を僕はしばらく見つめた。


「……最初は、あいつらを追い出せたら、帰れると思ってたんですけど」

「そうよね」

「でも、こっちで就職活動した方が便利なのは確かで、……実家から通える職場が見つかるかも分からないし。

 ふたりで住むには、部屋が多すぎるし……」


 言葉にしながら、少しずつ、帰りたいという気持ちと現実の乖離に気づいていく。


「こっちと違って、近所付き合いしないとやっていけないところなので、その親戚の影響もあるし……。

 維持費だって、かかりますよね」

「そうねぇ」

「……売った方が、いいんでしょうね」


 口に出すと、胸の奥がずきりとした。


 テーブルの向かいで、紬がじっと僕を見ていた。


 父と母が建てた家だ。

 家族四人で暮らした家だ。

 捨てたくなんかない。


 でも。


 紬はあの家に、戻りたいだろうか。


「紬は、どうしたい?

 嫌な思いもしただろうけど、父さんと母さんと住んでた家だし、学校も変わることになるし……」


 スマホの画面に、紬がゆっくりと文字を打った。


『寂しいけど しょうがないと思う

 あの家でひとりでお留守番するの怖いし』


 返す返すも、紬を傷つけた男が憎い。


 僕は一度ぎゅっと目を閉じて、絞り出すように答えた。


「……家は、売ります」


 小野寺さんと理子さんが静かに頷いた。


 食事が終わって、小野寺さんが帰る支度をしている時、僕は思い切って言った。


「今日も、本当にありがとうございます。

 ……いつか必ず、お返しします」


 小野寺さんはふと笑った。


「いいのよ。

 いつか奏汰くんが社会人になって、少し余裕ができた時に、困ってる誰かにしてあげればいいの。

 あとはそうね、何かあったら抱え込まずにちゃんと相談してちょうだい。

 それだけでいいから」


 玄関で靴を履きながら、小野寺さんは紬と小町にひと言声をかけて、帰っていった。


 閉まったドアを、僕はしばらく見つめた。


 僕たちを助けても、ふたりにはなんのメリットもない。

 理子さんも、小野寺さんも、ただ、僕たちが困っているから、助けてくれる。

 かっこいい人たちだと、思う。


(……いつか、僕も、こういう大人になれるんだろうか)


 リビングに戻ると、小町が紬の膝の上で丸くなっていた。

 理子さんはすでにダイニングテーブルで何かの書類を広げている。


 僕には厳しいけど、でも確かに、僕たちのために動いてくれている人。


 今はまだ、どうたらいいか分からない距離があるけど、きっとなんとかなる。


 僕は紬の膝から小町を抱き上げて琥珀色の目を覗く。


「なぁ、小町。僕たちも少しは仲良くなったよな?」


 小町は猫パンチを繰り出して、僕の腕から逃げた。


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