第1章5話
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は現在制作途中の作品となっております。
そのため、今後の展開に応じてストーリーや設定、名称などに調整や変更が入る可能性があります。
できる限り違和感のない形で更新していく予定ですが、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
イレーネの家に戻ると、真っ先に言われた言葉は予想外のものだった。
「ああ臭い臭い。まずは風呂だね。桶に湯を張っておいたから、さっさと汗と血を流してきな」
「誰のせいだか...」
服を脱ぐと、自分でも驚くほど体が変わっているのが分かった。
線の細い身体は、余計な脂肪が落ち、筋肉の筋がはっきりと浮き上がっている。
(……まあ、半年も森でサバイバルしてたら、こうもなるか)
何人か入れそうなほど大きな桶の湯に浸かると、全身の汚れと疲れがじわじわと溶けていくようだった。
「ああ〜……こりゃ気持ちいい...」
思わず声が漏れたとき。
「お、ちょうどいい。あたしも一緒に入ろうかね」
「あん?」
聞き覚えの無い若い女性の声。
振り向くと、そこには――
長い髪を後ろでまとめ、均整の取れた肢体に薄い布をまとった美女が立っていた。
「……え?」
一瞬、脳が状況の処理を放棄した。
年齢不詳の、しかしどう見ても若い女。
ぱっちりした目、笑うときにできる口元のえくぼ。
胸元から腰のラインまで、ほどよく鍛えられた体つき。
「ちょ、ちょっと待て。あんた誰……」
「誰って、あんたの師匠だよ」
美女は、少し演技臭いしゃがれ声で笑った。
「イレーネさ。仙素で見た目を少し若返らせたんだ、喜びな」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
「何固まってんだい、いや固まってるのは別のモノかねぇ...半年分溜まってるだろ?隅っこで扱いてきてもいいよ」
老婆が化けた美女がサラッととんでもない事を言う。
「う〜ん何か違えんだよなぁ...歳が透けてるというか...声がババ過ぎるせいか.....?」
それを聞いた美女の顔が険しくなる。
「ああそうかい、あんたはこっちが好みなんだね」
するとイレーネの姿はみるみる若々しさを失い萎びた老婆の姿になっていく。
「うわッ!ババアのしわっしわの裸なんて見せんじゃねぇッ!」
思わず目を塞いでしまう。
「何見えないようにしてんだい!レディに失礼だね!」
激昂したイレーネとの押し問答はしばらく続いた。
「ったく、そこに座りな」
服を着ながらイレーネが言う。
「?、何だよ」
「その頭だよ。そんなボサボサの髪とみっともない髭でいつまでいるつもりだい、魔物と間違われるよ」
イレーネが椅子を指差す。
「まあ鬱陶しいほど長いのは確かだな――」
大人しく腰を下ろす。
何も手に持たないイレーネが、後ろに回る。
「つうか、髪切れんのか?別に注文とかある訳じゃないけどよ」
「仙素ってのはこういう時にも使えるのさ」
イレーネはボサボサの髪に両手を添える。
すると突然スパパパパと軽快な音と共にモサモサに伸びていた髪の毛が次々と切断されていく。
「仙素はイメージを具現化できるからね、髪型も大まかなら瞬時に作れるのさ」
前髪が視界から消えていく。
額に風が当たる感覚が新鮮だった。
「中々男前になったじゃないか、素材は意外と悪くなかったみたいだね」
やや失礼なことを言いながらイレーネは小さな手鏡を手渡す。
「ほれ、見な」
鏡に映ったのは――
前よりいくぶんシャープになった、自分の顔だった。
伸び放題だった髪は短く整えられ、前髪は完全に無くなったわけではないが、横と上に流れるようにカットされている。
顎のラインに沿って伸びていた髭は綺麗に剃られ、森で鍛えた身体と相まって、以前より「ちゃんとした大人」に見えなくもない。
「……ほう、こりゃ中々」
キメ顔しながら思わず漏らすと、イレーネは満足そうに頷いた。
「前のはモサかったからね。やっぱり男は、髪をかきあげられるくらいがいいのさ。自信がある奴の顔になってきたよ」
「なんだその古臭い持論は」
その後久しぶりに手のかかった豪勢な食事をし、ようやく落ち着いたところで、イレーネが湯飲みをテーブルに置いた。
「で、この世界で生きていく最低限の力を付けたが、あんたは今後どうしたいんだい?」
「これから、か……」
少し考える。
「この世界に来た理由を知りたいし仙師になってこの世界の事を調べようと思う」
「ふむ、それが良いだろう、仙師になるなら王都だね」
イレーネは続ける。
「この辺境の町のギルドじゃ、正式に仙師となっていない者が受けられる依頼に限度がある。王都ルーベルトに行けば、正式な仙師登録ができるし、仕事も情報も山ほどある」
少し間を置いて、イレーネは俺をじっと見た。
「あんたが、この世界に何で来たのか。そのヒントも、王都には転がってるかもしれないよ」
イレーネは肩をすくめる。
(俺がここに来た理由、そして意味、あの謎の声の正体……)
全部が、まだ何も分からないままだ。
「王都に行って、正式な仙師になって。情報を集める。……そうしよう」
「悪くない選択だよ、強くなったとはいえ仙師は茨の道ばかりだけどね」
イレーネは続ける。
「王都は森とは違う危険がたくさんあるよ。魔物だけじゃなく、人間にも気をつけな」
「そいつは気をつけなきゃな、ま、要は慢心せず今よりもっと強くなれって事だろ?」
「ふん。頼もしくなったじゃないか」
イレーネは立ち上がる。
「王都に行く前にアルネスのギルドで受け取った腕輪を返しに行きな、あんたがこの半年で狩った魔物がカウントされているはずだよ、悪くない資金になるはずさ」
「……世話になったな、この恩は忘れない」
「気にするな。弟子を取ったのは初めてだったが、悪くなかった」
イレーネはニヤリと笑い、背を向けた。
「さあ、今日は寝れるだけ寝ときな、王都は、アルネスの街から東に三日の道のりだ」
そして翌朝...
「……行ってくる、また縁があれば」
「ああ、またね」
イレーネに別れを告げ、扉を開けると、森の空気が胸いっぱいに入り込んでくる。
こうして――
俺は知らない世界での、本格的な一歩を踏み出した。
向かう先は、王都ルーベルト。
そこに、俺がこの世界に来た理由に繋がる何かがあることを願って。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作はカクヨムと同時掲載となっております。
また、本作は制作途中のため、今後の展開や構成の都合により、ストーリーや設定、名称などに調整・変更が入る場合があります。
より良い作品になるよう試行錯誤しながら執筆しておりますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。




